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彷徨する自由帖

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JUL7ME(ジュライミー)のフレグランスハンドクリーム使用感と香りの印象

昨年の秋頃に人からもらったハンドクリームのギフトセット、しばらく使い続けてみたのでその感想を置いておく。JUL7ME(ジュライミー)のフレグランスハンドクリームという商品。それぞれ匂いの違う楽しみがあり、いわゆる香水とはまた違うものなので、その…

椿の絵ろうそく:福島県・会津若松土産

透明な袋に包装されていた状態から本体を取り出し、少し顔を近付けてみると、意外にもはっきりとした匂いが認識できた。香りのつけられていない、素の蝋燭の匂い。独特で、どこか懐かしく、他の何にも似ていないと思う。手に持って矯めつ眇めつ、触りながら…

妹背牛町をぶらぶら散策 - にわか雨・天然温泉・函館本線|北海道一人旅・妹背牛編(2)

郷土館の見学を終えたら大通りに出て、北へ向かって歩いてみる。道道(どうどう。他の地域で言う「県道」や「府道」にあたる)94号線が描くゆるやかな曲線を、車とは違う、亀の速度で進む自分の足跡でなぞった。道路の幅に沿い、一定の間隔で頭上に矢印が掲…

夢野久作《女坑主》口先で弄する虚無より遥かな深淵を覗いたら|日本の近代文学

いかにも気弱そうな青年と凄艶な女坑主とが、シャンデリアの明かりも絢爛な応接間で向かい合い、会話をしている。紙上に展開する空間は、冒頭から余剰を感じさせるほどにきらびやかで、それでいて、どこかうす暗い雰囲気にも包まれているのだった。昭和初期…

会津名物「ソースカツ丼」とカツを模したお菓子 - 近代から現代に受け継がれてきた味|福島県・会津若松

福島県は会津。先日に初訪問を果たした会津若松では、ソースカツ丼が地元の名物として紹介されていた。ここでは昭和5(1930)年に「若松食堂」が提供を開始したのがその起こりとされ、15年後の昭和20(1945)年には続いて「白孔雀」食堂が、丼の直径よりも大きな…

月の女神と街路樹

彼らの孤独について教えてくれたのは、本だった。ドイツに生まれ、営林署での勤務経験があるペーター・ヴォールレーベンの著した『樹木たちの知られざる生活:森林管理官が聴いた森の声』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)では、森林の樹木たちがどれだけ…

文章を寄稿しました:白昼の歓楽街、取り残された街 - 青春ヘラver.6〈情緒終末旅行〉へ|文学フリマ京都7

この度どういうご縁があったのか、大阪大学感傷マゾ研究会さんからお声掛けくださり、そちらの会誌「青春ヘラver.6 〈情緒終末旅行〉」に文章を寄稿することとなりました。2023年1月15日に文学フリマ京都7で頒布する同人誌で、ver.1から順に刊行されている…

天鏡閣 - 窓が多く塔屋が印象的な白い明治の洋館、湖の傍に建つ旧別邸|福島県・猪苗代

令和5年現在、天鏡閣は年末年始であろうと関係なく「無休」で公開されているのがかなり意外だった。本当に年中無休。ここは会津若松に隣接する地域で、寒いとすっかり雪に閉ざされてしまう地域の印象があったため……。それでも、辿り着ける人は辿り着くのだろ…

病的な飽き性による驚嘆すべき「ブログ継続5年目」の感慨

「昨日はあれほど欲しかったものが、今日になってみると、もう欲しくなくなる」そういう難儀な性質を人格に内包しているみたいで、もっとひどい場合では、例えばほんの10分前に死ぬほど実行したかったことをいざやろうとすると、もう考えるのも嫌になってし…

吟鳥子《きみを死なせないための物語》生命に優先順位をつける「愛」の差別的側面を浮き彫りにした社会契約制度

元日に漫画「きみを死なせないための物語(ストーリア)」を読んでいた。作者は吟鳥子氏で、作画協力は中澤泉汰氏、また宇宙考証協力に首都大学東京の佐原宏典氏が迎えられているSF作品。表面上の分類は少女漫画になる。秋田書店のサイトSouffleにて、2023年…

帰省をはじめとする世間の年末年始文化

帰省というもの、大晦日の挨拶、年賀状の歴史など。 ◇ ◇ ◇ 高校時代にいわゆる満員電車で通学していた記憶はかなりの悪夢として若年期の記憶に刻まれており、その影響もあるのか、ラッシュという言葉(もちろん、入浴剤や化粧品を販売している会社の名前では…

【文学聖地&近代遺産】ごく個人的な物語を往来するための巡礼記録:2022年

これまで1度も歩いたことのなかった土地の数々へ、2022年も足を運んだ。「足を運んだ」というよりか「足を使って自分の身体をせっせと遠方へ運んだ」とも表現できる。各種公共交通機関や、乗用車の力を借りながら。まぁ別にどちらでも意味は変わらない。いつ…

深川駅のウロコダンゴ - 国鉄留萠線(留萌本線)の開通を記念し、大正2(1913)年から売られている和菓子|北海道一人旅・深川編

外箱を裏返してこのお菓子の来歴を読んだ。どうやら、明治に開通した留萌(るもい)線がウロコダンゴの誕生する契機となったらしい。残念ながら赤字により、今後2023年から2026年にかけての段階的な廃線が決定している留萌本線だが、その始まりは明治43(1910…

恩田陸「私の家では何も起こらない」古の聖なる丘のその上に|ほぼ500文字の感想

先史時代からあるらしい丘の上に建つ、2階建ての館。この物語に登場した。そこで、土地に蓄積された過去の全ての記憶がデジャ・ビュとして現れ、「幽霊」に似た姿で観測される現象。聖地か墓地か不明だが、とにかく特別な場所だったのだろう、と作中で語られ…

ウクラン ポロンノ ウパシ アシ(ukuran poronno upas as)

2022年12月中旬、15日からだいたい1週間程度の期間。この時期には珍しい、異例の寒波と大雪に見舞われていたのが北海道南部の函館だった。現地は通常なら師走半ばの降雪量が少ないとされる地域で、それにもかかわらず、平年の3倍を超えるほどの積雪が観測さ…

吸血鬼の館 - 東京都・台東区

あるとき東京上野を適当に散策していて、それは面白い洋館の前を通りかかった。黒っぽい下見板張りの外壁、欄干がある古風な上げ下げ窓の白く塗られた窓枠、破風のところにあるもうひとつの気になる窓。屋根裏部屋でもあるのだろうか。そして入口上部、まる…

赤屋根の「駅舎」- かつて太宰治も訪れた鉄道駅の建物は現在レトロな喫茶店|青森県・五所川原市

津軽五所川原から津軽中里までは、乗用車以外の移動手段として、津軽鉄道線が走っている。その芦野公園の駅舎に、昭和5(1930)年開業当時から残る貴重な建物が今でも使われているのだった。2014(平成26)年12月には国の有形文化財にも登録されるに至る。昭和19…

【宿泊記録】潮と湯の香る浅虫温泉、辰巳館 - 半宵に星の流れる音を聞く|青森県・青森市

浅虫温泉で泊まっていた旅館が、辰巳館。夕闇に輪郭を溶かす姿は、まるで海の生き物が住んでいるお城みたいだった。字の書かれた看板だけがあやしく魅力的に光って。また不思議と、払暁を迎えてから明るい場所で眺めてみても、同じようにそういう印象を抱く…

西行法師の人造人間と反魂の秘術

西行は平安時代末期に生まれて鎌倉時代後期に没した武士、かつ著名な歌人であり、出家してからは僧侶でもあった。彼が親しかった友との別れを嘆いていたとき、偶然にも「鬼が人間の骨を集めて人を造った」旨の噂を耳にし、それで自分も真似をしてみたのだと…

ぼんやり米粒の骨を思った - 末廣酒造と蔵喫茶「杏」|福島県・会津若松

実際の酒蔵で、本醸造酒と吟醸酒、大吟醸酒の違いについてなど、きちんと解説を聞いたのは初めてだった。これらは製法の他、精米歩合……という「磨き」の割合で呼称が定められている。特に大吟醸酒ともなると、場合により、それが40%以下になることもあるのだ…

【万年筆インク】明治のいろ《新橋色》&大正浪漫《ノスタルジックハニー》|文房具で近代に思いを馳せる

あるとき、好きな「近代の文化」を題材にしたインクが世の中にはあると知ってしまった。ブログに上のようなカテゴリーを設けている部分からも分かるように、私は明治・大正期の洋館をはじめとした建築物を訪問したり、近代化産業遺産が生まれた背景や、それ…

山形日帰り一人旅(3) 夏は蒸し暑く、澄んだ緑色の山寺 - 宝珠山立石寺

山形県の宝珠山立石寺、通称「山寺」。これは蜃気楼みたいに細部が曖昧な姿をとり、過去の体験の主役ではなく背景として、自分の記憶に残っている。面白いことに、現地で邂逅した山寺の存在自体も、当時の私にとっては蜃気楼によく似たものだったと言える。…

皆、単純に忙しい、という事実 - 選ぶことと選ばれること

成人したり、働き始めたりしてから新しく人と友達になるのは難しいと一般に言われる理由について、実際に成人してから親しくなった友達と話しながら考えていた。みんな、いつも自分のことで忙しい。あるいは「他の何かのために動く自分」のことで、忙しくし…

旅は「いつか静かにまどろむ時のため」だと認識した瞬間

あとで回想をするために外に出る……というのは、要するにいちど触れたもの・見たこと・聞いたことを、その先いつになっても好きなときに脳裏へ呼び出せるようにする行為の基礎部分。記憶が薄れても、記録が消えない限りは細部を補足して、幻想のように喚起で…

デイルマーク王国史4部作〈1〉Cart and Cwidder 感想|ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品 - イギリス文学

ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著《Dalemark Quartet》4部作。先日、その第1巻である〈Cart and Cwidder (1975)〉の原著、電子版を買って読んだ。過去に創元推理文庫から「デイルマーク王国史」として日本語訳が刊行されていたのだが、残念ながら現在は絶版で…

小野不由美「緑の我が家 Home, Green Home」家という空間に入り込んでくるもの|ほぼ500文字の感想

かつてはある種の聖域のようであったが、もはや安全の象徴ではなくなった、家という場所。それは18世紀、エティエンヌ・ロベールソンが幻灯機 [ラテルナ・マギカ] を用いて行った公演の、広告に書かれた文言を思わせる。彼は持ち運べる機械で室内の壁に亡霊…

《落下の王国 / The Fall (2006)》- 録画して何度も鑑賞している映画

2020年12月8日に地上波の番組「映画天国」内で放送された、落下の王国(2006)。原題はThe Fallといい、ターセム・シン氏を監督に据えて制作された、インド・イギリス・アメリカの合作映画だ。 これを放映時に録画して以来、休みの日になると飽かずに繰り返…

【宿泊記録】街道を往く旅人の幻影と馬籠宿、但馬屋 - 囲炉裏がある明治30年築の建物|岐阜県・中津川市

入ってすぐに迎えられるのが囲炉裏のある場所で、受付の脇には昔の電話、奥の壁の方には振り子のついた時計も掛けられていた。ここは明治28年の大火のあと、同30年に再建された建物。床板も柱も、壁も、うすく茶色い飴を刷いたみたいに艶があった。光ってい…

ジャック・ロンドン「白い牙 (White Fang)」環境は性格に影響する、認めたくなくても|ほぼ500文字の感想

環境によって生物の性格が形成されることに、反感のような念を抱いていた時期があったのを思い出した。例えば「あんな風に育ったのは周りが良くなかった」という言説が、とても嫌いだったのだ。そのものが持っているはずの本性、また本質、とでも呼べる何か…

冬、早朝の格技場の床はとても冷たい

// 寒い時期に朝、目を覚ますと、掛け布団に覆われていない首から上が冷え切っている。 耳とか、鼻とか、とにかく顔の周辺だけが柔らかな石のように冷たい。これから向かう学校の、美術室に置いてあるゲーテの石膏デスマスクをぼんやり脳裏に浮かべた。思慮…