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彷徨する自由帖

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ぼんやり米粒の骨を思った - 末廣酒造と蔵喫茶「杏」|会津若松・福島県

実際の酒蔵で、本醸造酒と吟醸酒、大吟醸酒の違いについてなど、きちんと解説を聞いたのは初めてだった。これらは製法の他、精米歩合……という「磨き」の割合で呼称が定められている。特に大吟醸酒ともなると、場合により、それが40%以下になることもあるのだ…

【万年筆インク】明治のいろ《新橋色》&大正浪漫《ノスタルジックハニー》|文房具で近代に思いを馳せる

あるとき、好きな「近代の文化」を題材にしたインクが世の中にはあると知ってしまった。ブログに上のようなカテゴリーを設けている部分からも分かるように、私は明治・大正期の洋館をはじめとした建築物を訪問したり、近代化産業遺産が生まれた背景や、それ…

山形日帰り一人旅(3) 夏は蒸し暑く、澄んだ緑の山寺 - 宝珠山立石寺

山形県の宝珠山立石寺、通称「山寺」。これは蜃気楼みたいに細部が曖昧な姿をとり、過去の体験の主役ではなく背景として、自分の記憶に残っている。面白いことに、現地で邂逅した山寺の存在自体も、当時の私にとっては蜃気楼によく似たものだったと言える。…

皆、単純に忙しい、という事実 - 選ぶことと選ばれること

成人したり、働き始めたりしてから新しく人と友達になるのは難しいと一般に言われる理由について、実際に成人してから親しくなった友達と話しながら考えていた。みんな、いつも自分のことで忙しい。あるいは「他の何かのために動く自分」のことで、忙しくし…

旅は「いつか静かにまどろむ時のため」だと認識した瞬間

あとで回想をするために外に出る……というのは、要するにいちど触れたもの・見たこと・聞いたことを、その先いつになっても好きなときに脳裏へ呼び出せるようにする行為の基礎部分。記憶が薄れても、記録が消えない限りは細部を補足して、幻想のように喚起で…

デイルマーク王国史4部作〈1〉Cart and Cwidder 感想|ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品 - イギリス文学

ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著《Dalemark Quartet》4部作。先日、その第1巻である〈Cart and Cwidder (1975)〉の原著、電子版を買って読んだ。過去に創元推理文庫から「デイルマーク王国史」として日本語訳が刊行されていたのだが、残念ながら現在は絶版で…

小野不由美「緑の我が家 Home, Green Home」家という空間に入り込んでくるもの|ほぼ500文字の感想

かつてはある種の聖域のようであったが、もはや安全の象徴ではなくなった、家という場所。それは18世紀、エティエンヌ・ロベールソンが幻灯機 [ラテルナ・マギカ] を用いて行った公演の、広告に書かれた文言を思わせる。彼は持ち運べる機械で室内の壁に亡霊…

《落下の王国 / The Fall (2006)》- 録画して何度も鑑賞している映画

2020年12月8日に地上波の番組「映画天国」内で放送された、落下の王国(2006)。原題はThe Fallといい、ターセム・シン氏を監督に据えて制作された、インド・イギリス・アメリカの合作映画だ。 これを放映時に録画して以来、休みの日になると飽かずに繰り返…

【宿泊記録】街道を往く旅人の幻影と馬籠宿、但馬屋 - 囲炉裏がある明治30年築の建物|岐阜県・中津川市

入ってすぐに迎えられるのが囲炉裏のある場所で、受付の脇には昔の電話、奥の壁の方には振り子のついた時計も掛けられていた。ここは明治28年の大火のあと、同30年に再建された建物。床板も柱も、壁も、うすく茶色い飴を刷いたみたいに艶があった。光ってい…

ジャック・ロンドン「白い牙 (White Fang)」環境は性格に影響する、認めたくなくても|ほぼ500文字の感想

環境によって生物の性格が形成されることに、反感のような念を抱いていた時期があったのを思い出した。例えば「あんな風に育ったのは周りが良くなかった」という言説が、とても嫌いだったのだ。そのものが持っているはずの本性、また本質、とでも呼べる何か…

冬、早朝の格技場の床はとても冷たい

// 寒い時期に朝、目を覚ますと、掛け布団に覆われていない首から上が冷え切っている。 耳とか、鼻とか、とにかく顔の周辺だけが柔らかな石のように冷たい。これから向かう学校の、美術室に置いてあるゲーテの石膏デスマスクをぼんやり脳裏に浮かべた。思慮…

「夏目漱石が "I love you" を『月が綺麗ですね』と訳した」という伝説には典拠となるものがない - 曖昧なまま広まらないでほしい文豪エピソード

「夏目漱石が、英語における "I love you" を『月が綺麗ですね』と日本語に訳した」という言説には、出典がない。現時点でどこにも見つかっていない。どこにも証拠がない事柄を、さも「真実」であるかのように吹聴するのは、果たしてよいことだろうか。私は…

ベンの家(旧フェレ邸)- 家、は身近にある最も奇妙な博物館|神戸北野異人館 日帰り一人旅

寒冷な土地に行くほどそこに住む恒温動物の体が大きくなる傾向、ベルクマンの法則と、餌の豊富な熱帯地方でのびのび育った色鮮やかな虫たちのことなど、いまいち方向性の定まらない考え事をしながら眠ったら、あるときとんでもなく奇怪な夢を見てしまった。…

辻仁成「海峡の光」と青函連絡船|ほぼ500文字の感想

昔、青函連絡船として運行していた八甲田丸。青森旅行の際、現在はメモリアルシップとして保存されているその船内を見学することができたので、小説「海峡の光」を読み返した。作中では、八甲田丸と同じ連絡船だった羊蹄丸の様子が、連絡船すべての終航の象…

ラインの館(旧ドレウェル邸)- 燐寸の火と硝子の向こうの家|神戸北野異人館 日帰り一人旅

ブレーメンを目指した動物達のうち、ロバが覗き込んだ強盗の家を思い出す。外と内の差異を、他の時期よりもずっと強く意識する。冬はとても寒いので。自分がヨーロッパの隅で過ごした幾度かのクリスマスも脳裏に浮かんだ。だいたいは家族のいる場所に帰って…

新幹線に紐付けられたお弁当とお酒|ほぼ500文字の回想

先日に秋田新幹線の車内で食べたのは、大館の株式会社 花膳が提供している弁当『鶏めし』。お酒は由利本荘、齋彌酒造店が製造元の『雪の茅舎 奥伝山廃』だった。マストドン(Masodon)に掲載した文章です。

英国館(旧フデセック邸)- 気狂い茶会、言葉遊びと単なる徘徊|神戸北野異人館 日帰り一人旅

大きなお屋敷の脇や裏を通る細い道では、きちんと黒猫の気持ちになって歩くのが通行の際のルール。背筋を伸ばし、心持ち爪先の方に体重をかけて、できるだけ軽やかに……まがりなりにも黒猫なのだから、決してよろめいたりはしないものだ。たとえ途中で、小さ…

緑色のミルクセーキ、甘いコーヒー、氷入りのオレンジエード:D・W・ジョーンズ《九年目の魔法 (Fire and Hemlock)》

物語の中には単に美味しそうなだけではなく、妙に気になる、あるいは場面や状況も含めて印象的に描かれた食べ物や飲み物がよくある。周囲からすすめられて原著と日本語訳両方を手に取った、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの小説「九年目の魔法(Fire and Heml…

綺麗なガラスのドアノブは、なぜ20世紀前半に多く製造されたのか|大正~昭和初期の建築内で宝石採掘

飴玉。氷。寒天。それらに似ていて食欲をそそる、異常に美味しそうなもの。食欲というか「触欲」かもしれない。触りたくもなるので。国内に残る大正~昭和初期に建てられた邸宅などの建築物を巡っていて、ときどき出会うガラスのドアノブは、だいたい透明だ…

姿をくらます主体《円環の廃墟》J・L・ボルヘス、合わせ鏡の無限回廊《木乃伊》中島敦|小説メモ

最近ボルヘスの「円環の廃墟」を読み返したら、去年に上のブログに感想を書いた、中島敦の「木乃伊」を思い出した。共通点を感じたのは、連綿と続く何かと対峙したときに覚える閉塞感。卵が鶏になり、その鶏が生んだ卵がまた鶏になり卵を産んで、その卵もま…

「自己肯定感至上主義」には馴染めない(なぜ、自分をわざわざ肯定しなければ駄目なのだろう?)

世間的に支持される考えや言葉には支持されるだけの理由があるはず。だから一応考えておいた方が己のためになりそうだと思いつつ、じっくり突き詰めて考えたが、とりあえず自分とは合わないと判明した。自己肯定感至上主義には馴染めない。そもそも常に前向…

宮沢賢治《貝の火》のまんまるのオパール - 音もなく、氷のように燃える宝珠|近代文学と自分の話

10月の誕生石には2種類あるらしい。トルマリンと、オパール。1990年代後半から2000年にかけて、特にトルマリンの方は「ピンクトルマリン」と色を限定して語られる場合が(なぜか)多かった記憶があり、幼少期はそれが不満だった。あのごく薄い赤紫色が、そこ…

銀のトレーは「特別」の象徴 喫茶チロル - 名鉄インが目の前のレトロ喫茶店|愛知県・名古屋市

何年も前のストリートビュー写真では「TOBACCO」となっていた右手の看板が、2022年に行ってみると「切手・印紙」に変わっていた。些細なところで確かな時代の流れを感じさせる。そして、明朝体を少し弄ったような字体がレトロで可愛い。赤と朱の中間みたいな…

F・H・バーネット自伝「わたしの一番よく知っている子ども」英国から米国へ渡った作家の想像力の源泉

語り手である子どもの視点が巧みに活かされた「小公女」や「秘密の花園」など、国境を越えて愛される名作を生み出した作家、フランシス・イライザ・ホジソン・バーネット。彼女は自分自身を振り返る文章を残している。この、自伝である。自伝、と一口に言っ…

10月9日

朝、久しぶりに薄手のトレンチコートをハンガーから下ろした時の喜びを思い出す。今は椅子の背中にかけている上着。防寒具があるかぎり、寒さは常に私に味方する。なんて動きやすい季節だろうか。あらゆる魔法が適切にとどこおりなく機能する。狂ったような…

【宿泊記録】ドーミーイン秋田 - 大浴場の内風呂が天然温泉のビジネスホテル、無料の夜ラーメン付き|秋田駅

9月末に初めて訪れた秋田県。1泊2日の短い旅程で、田沢湖周辺散策と秋田市の近代建築見学を目的に、新幹線に乗った。そういえば秋田新幹線は今年で開通25周年を迎えるらしい。水面に落ちた紅葉の葉を連想させる、にじむような赤い色をした車体が印象的だった…

魔神と英雄神、アイヌの伝承の地、神居古潭 (Kamuykotan) - 国鉄時代の旧駅舎は明治の疑洋風建築|北海道一人旅・旭川編

神居古潭駅は明治34(1901)年、北海道官設鉄道の簡易停車場(貫井停車場)として始まった。数年後に停車場へ、そして明治44(1911)年には一般駅に昇格して、貨物の取り扱いも開始される。やがて昭和44(1969)年9月に営業が終了するまで、無数の機関車がそのプラ…

月の女神と羊飼い

一説によると、美男子エンデュミオーンも羊の群れを飼っていた。ギリシア神話で月の女神に見初められ、人間である彼の有限の命を惜しんだ彼女(あるいは、その嘆願を受けたゼウス)によって、ラトモス山の岩陰で永遠の眠りにつくこととなった人物。手元にあ…

中島敦の《狼疾記》- 人生の執拗低音として常に鳴り響く虚無感、不安と「臆病な自尊心」|日本の近代文学

山中を、1匹の野生のオオカミが全力で疾走している……。足音と激しい息遣いを周囲に響かせて、森の藪の奥を目指し。私が以前「狼疾記」という題名を目にして、すぐ頭に浮かんだのはそんな情景だったが、実際の意味は異なっている。狼疾、の熟語は心が乱れてい…

珈琲茶論 - クリームソーダとトーストがおいしい駅前のレトロ喫茶店、漫画も読める|山梨県・富士吉田市

外出先で雨が降っていると、他に目的があっても屋内に留まって何か飲んでいたくなる傾向にある。とりわけ、もう少し時間が経てば晴れそうな気配がするときは。ずっと土砂降りなら早く自宅かホテルに帰りたいし、反対に快晴なら、大抵は歩いて回りたい場所の…