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彷徨する自由帖

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東京・下町風俗資料館は不忍池のほとり|明治・大正・昭和の庶民生活が伺える模型の数々

小野不由美の小説《東亰異聞》で「鰯の頭」という言葉を目にしたとき、それが玄関口に飾る魔除けのことだ、とすぐに分かったのは、上野の下町風俗資料館で展示を見ていたお陰だった。私の住んでいる地域にはあまりない風習だったので、それまで存在をほとん…

滝の音が響く瀋秀園(しんしゅうえん):大師公園の片隅にある中国式自然山水庭園

// 参考サイト: 川崎大師Webサイト 大師公園(公式サイト) 先日、川崎大師の方へと足を伸ばした。 外出自粛の影響で人気のない参道を歩いていると、両脇に並ぶ塩飴や煎餅の店から呼び込みの声をかけられるのが、非常に気まずい。なぜなら周囲に誰も居ない…

家伽噺 (Ⅱ)

とりあえず、廊下に並ぶ木の扉をいくつか試しに開いてみて、分かったことがある。輪に束ねられた細い銀色の鍵は六本あったが、一度鍵穴にさすと、持ち手から先が取れて使えなくなるようだった。加えて通路を挟んで向かい合う扉は、対の関係になっている。つ…

家伽噺 (Ⅰ)

開け放った障子のそばに座り、淑やかな雨の音を聴いていた。厚い雲越しに感じる昼の陽光は、絹で漉したように柔らかい。日頃、空から絶え間なく雫の落ちてくる天候は本当に煩わしいと思っているが、こうして髪や服の濡れない屋内にずっと居られるのなら、話…

厚木市古民家 岸邸|美しい色の窓硝子や細部の意匠……明治・大正期の面影を強く残す豪農の家

本厚木駅北口からバスを利用して、約30分。決してアクセスが良いとは言えず、神奈川県内在住でないとなかなか訪れにくい位置にあるが、時間をかけても見に行くに値する近代の邸宅が厚木市にある。建物は古民家岸邸、あるいは旧岸家住宅と呼ばれており、平成1…

熱海随一の和洋館《起雲閣》を訪ねて|大正~昭和初期の富豪の別邸であり、後に文豪も宿泊した旅館

JR熱海駅から徒歩25分程度、ちょうど糸川と初川の間あたりに、広い敷地を持つ立派な元別荘がある。周囲をぐるりと塀に囲まれているため、高台から見下ろすか、実際に中に入ってみないとその容貌は伺えない。現在の名前を「起雲閣」というそうだ。ここは実業…

記事を寄稿しました:熱海の坂道と、レトロな建築群に誘われて。気が付くと旧糸川赤線の岸辺へ…… - WEBメディア〈すごいお雑煮〉へ

先日webメディア〈すごいお雑煮〉さんにて、熱海散策中に遭遇したレトロな建物や、昔の遊郭跡を覗いてみた記録を掲載していただきました。熱海には何度も足を運んでいるのですが、行くたびにまだ開拓していないエリアの存在に気付かされるので、全く飽きませ…

理想と倦怠と諦念、そして捨てきれない希望

自分にとって…… 旅行や散歩に行ったり、建築に心寄せたり、本を読んだりするのは、全て素晴らしい物語を探すための行為に他ならない。そこから得られる「尊い何か」を、私はこよなく愛している。物語に触れるたび、描写されているものをそのまま体験する感覚…

新潮文庫版《十二国記》を一気読みする至福 - 王と麒麟と国、そして民衆の物語

君の好きそうな、ぐっとくる主従関係が描かれているよ——と教えられて、その長編小説に脇目もふらず手を出した。結果、ものの見事に落ちてしまったのだ。底の見えないほど深い深い沼に。ステイホーム期間中に、全巻を読みました。十二国記は1991年に刊行され…

旧前田侯爵邸|英国の雰囲気を纏う駒場公園の洋館

夏の爽やかな緑を抜けると、忽然と館の入り口が現れる。英国カントリーハウスを彷彿とさせる煉瓦の外観、車寄せ、そして……玄関右に聳え立つ、とんがり屋根。東京都目黒区の一角、格式の高そうな住宅群に囲まれた駒場公園内には、重要文化財に指定された昭和…

旧岩崎邸庭園|代表的な明治時代の洋館と秋の庭

正面玄関上には、天辺に風見鶏をいただく美しい塔屋。近代の洋館と聞いてこの旧岩崎邸の名を挙げない者はまずない。そのくらい広く知られている場所だし、建物自体も素晴らしく、何度でも足を運びたくなるような魅力に満ちている。土日祝日などは混雑のため…

自作の短編集《彷徨する窓》の電子書籍を販売します

昨日やっと、諸事の合間にちまちま執筆を進めていたものが完成したので、ひとまず開設したBASEのショップにて電子書籍としてPDFデータを販売してみます。小説で、内容としては主に「存在しない場所・物事」の見聞録になっています。どこでもない国々で見聞き…

蒼穹の大山阿夫利神社へ雨乞いに - 神奈川県・伊勢原探訪

どこか標高の高い場所へ行こう、と思い立ったのに、さしたる理由はなかった。……強いて言うなら、空気がひどく乾燥していたからかもしれない。昨年の1月末から2月にかけて、かなり長いあいだ、雨の降らない時期があったことを覚えている。あまりにも湿気が足…

人を喰う城郭

音を吸う存在としてよく話題に上るのは雪だが、実際のところ、石も似たようなものだと思う。特に、柔らかいもの。表面が磨かれておらず微細な穴が開いていたり、経年による風化で、少なからず傷が付いていたりするものが。それに気付かされたのが多分この場…

復元された出島の建築物~オランダ・日本間の貿易と鎖国期の面影|長崎市旅行(5)

長崎の出島。そこは200年以上もの長きにわたり機能した、鎖国中の日本において唯一公的な港だった。特にオランダ東インド会社との貿易の重要な拠点として。またその少し前、島原・天草一揆の勃発する直前には、ポルトガル人を収容していたこともある。人や物…

当ブログの総記事数が100件になりました

タイトルの通り、ブログの総記事数がようやく100件になりました。祝。2年前の1月から書き続けてこれなので超・亀更新です……。しかし、そもそも此処は大学の課題の合間、訪れた旅行先の記録が残せればいいなと思って始めたものなので、それも当然かと。徐々に…

博物館《明治村》で珠玉の近代建築&聖地めぐり。心躍るハイカラなお散歩を - 愛知県犬山市

近代建築を愛する人間として、一度は絶対に訪れておきたかったのが野外博物館・明治村。入鹿池の西側に面し、岐阜との県境にもほど近い愛知県犬山市にある。アニメ《Fate/Zero》や漫画《ゴールデンカムイ》、ゲーム《明治東亰恋伽》、そしてドラマ《坂の上の…

水の町・大垣に建つ城と 謎多き関ケ原ウォーランドへ……|岐阜県南部旅行(4)

外を歩けば目に入るのは、町並み全体を俯瞰する城が一つ。言うまでもなく大垣城である。今では本丸と天守の周辺が公園となっている程度の広さだが、かつてはその三倍以上もの面積を誇る、堅牢な一大要塞だった。町中にグルグルと張り巡らされた水路もその名…

六畳程度の小さな部屋

まるで自身の脳内や心理をそっくり映し出したかのような部屋は、所狭しと置かれている物品の傾向だけでなく、微妙な散らかり具合までもが私の持つ性質にそっくりだ。幼少の頃から幾度か小さな引っ越しを繰り返してきたので、10年以上じっくりと腰を据えて造…

《少年》谷崎潤一郎 - 和洋折衷の大邸宅で、ちょっと背徳的な「遊び」に興じる子供たち|耽美な近代文学

開港や文明開化の影響、そして政府の意向もあり、公共の施設をはじめとした数々の建造物が洋風の趣を纏うようになった明治時代。その頃は官庁や銀行、学校、駅舎などに見られる様式が代表的な例だった。当時の市井の人々(今もそうかもしれない)にとって、…

体感するモダンアート《養老天命反転地》と大正時代の擬洋風駅舎|岐阜県南部旅行(3)

目指すは養老—―鎌倉時代に編纂された古今著聞集内の「養老孝子伝説」で語られ、後に名水百選にも選出された美しい滝と、名産品・瓢箪(ひょうたん)制作の文化が脈々と受け継がれている土地。 実は出発前、そこには不思議な芸術作品があると小耳に挟んでいた…

旧横浜ゴム平塚製造所記念館 - 明治期の建築『八幡山の洋館』で時間を忘れる

横浜港周辺や横須賀、鎌倉、そして箱根に小田原と、神奈川県内には優れた近代建築を拝めるエリアが沢山ある。いち県民としては本当にありがたい……。だが、それらから少し離れた平塚の地にも、魅力的かつ貴重な明治時代の洋館が一件佇んでいることはあまり知…

記事を寄稿しました:以前は名の知れた歓楽街、柳ヶ瀬。その隆盛を偲びつつ商店街の小路を歩く - WEBメディア〈すごいお雑煮〉へ

久しぶりに外部で執筆した記事の紹介です。先日、webメディア〈すごいお雑煮 - 地味に役立つニュースサイト〉さんにて、岐阜旅行中に見つけた一角「柳ヶ瀬商店街」を紹介したものを掲載していただきました。以下が記事へのリンクになります。まず、念願だっ…

金華山に鎮座する岐阜城、正法寺の籠大仏、伊奈波神社めぐり|岐阜県南部旅行(2)

特に斎藤道三と織田信長にゆかりあるこの山と城は、名を変えたり焼失したりしながらも、戦国の時代から続くこの岐阜の地を俯瞰し続けてきた。しかし、美濃を制す者が天下を制す――とまで言われた難攻不落の城といえど、決して不滅ではない。現在の天守は昭和…

川原町の情緒ある風景と喫茶店、そして近代の洋風建築を見に|岐阜県南部旅行(1)

日本三大河川の一つに数えられる美しい長良川は、毎年5月から10月頃にかけて、伝統的な鵜飼(うかい)の行事が行われる舞台でもある。その静かな流れと深い青緑色には用が無くても足を止めざるを得ない。豪雨が降れば水位は増し、古来から災害を恐れてきた人…

趣味に生きる人間が『好き』を楽しめない時期はとても辛い

人生がしんどい、存在がしんどい、そんな根源的な辛さをわりと頻繁に感じる。理由など分からないが面倒な人間なのだ、自分は。こればかりは外野から何を言われたところでどうしようもない。とはいえ、この世に生きる大多数の人だって、軽いか重いかにかかわ…

百 "貨" 繚乱の時代:大正初期の三越本店と日比翁助、英国ロンドンのハロッズ

白亜の城か、大邸宅を思わせる5階建て。地下もある。眼前に現れた荘厳な百貨店の玄関脇には、まるで神社の狛犬のように鎮座する、一対のブロンズ製の獅子がいた。それを横目に建物の内部へ足を踏み入れつつ、一歩先を行く連れに他愛もないことを問いかける。…

草津温泉を愛した明治のお雇い外国人・ベルツ博士

町へ近付くにつれて、車を降りる前から独特の匂いが鼻についた。白根火山の恩恵を受け、毎分3万2千リットル以上の豊かな湯が湧き出る土地・草津。いま記事を書きながら開いている本《ふしぎ地名巡り》にはこう記載されている。一説によると草津の地名は、硫…

境界線の向こう側で行われる営み:映画《ミッドサマー(Midsommar)》の感想と覚え書き

アリ・アスター監督の映画《ミッドサマー》を見た感想と、監督のインタビュー記事や解説を読んで考えた事色々。ごく個人的かつ偏った見解です。※物語の内容・場面・登場人物に言及しているのでネタバレ注意。監督がインタビューの中で「ダニーには私自身がた…

日本郵船 氷川丸は今も夢想する乗客を運ぶ|海上の博物館船・近代化産業遺産

横浜港は年間を通して多くの船が発着・寄港する場所だが、その片隅――山下公園の向かいで60年近くも係留し続け、博物館として一般に保存・公開されている貨客船がある。それが《日本郵船氷川丸》だ。昭和初期に竣工した豪華な船は、過ぎし大正時代の面影を色…