キャンディ中心部にある古い、英国植民地時代に建てられたコロニアルスタイルの宿泊施設はクイーンズホテルという。個人的に好きな「偽物の自然」の風情ある人工池の周辺を歩き回っていると大通り沿いに見えてきて、外壁が白く、規模も大きいのでよく目立っ…
以下の文章は2023年1月15日発行、大阪大学感傷マゾ研究会様の会誌『青春ヘラver.6 〈情緒終末旅行〉』に寄稿したものです。 個人ブログでの公開が可能と告知されましたのでこちらに掲載いたします。 《白昼の歓楽街、取り残された街》 特定の種類の場所に旅…
何の変哲もない飛行機内の紅茶から、すでに旅への期待が高まっていく。いわゆるコロナ禍の影響をずっと受けていたため、国外へ足を運ぶのすら数年ぶり、という驚きがある。それでもだんだん思い出してきた。こうした旅は、たとえ頻繁でなくても、確かに自分…
今回、食事と入浴を合わせた3時間滞在のプランで利用したのは、明治35(1902)年創業の元湯玉川館。現代ではドラマ『相棒』の撮影で使われたり、過去には漫画『のらくろ』の著者である田河水泡や童謡『夕焼小焼』の作詞を行った中村雨紅が逗留していたりと、時…
しばらく前からこちらの方と一緒に暮らしています。関節部分が球体で、透き通るような美しい瞳は着脱可能な頭部のつくり。黒いドレスとヘッドドレスを本体とは別途で購入しました。合わせようと思ってもあまり目が合わないところが最大の魅力で、まさしく「…
ハーディング作品で最初に手に取ったのは『カッコーの歌』だった。英国幻想文学大賞受賞、そしてカーネギー賞の最終候補作。あらすじに惹かれたのか、表紙が印象に残ったのか……もう覚えていないけれど、とにかく仕事帰りに書店で購入していて、しばらく本棚…
カルデスとペルシールの間に戦が起こった。放っておけば、美しき山々と魔法学院を擁する土地ショームナルド……山羊飼いやさすらい人たちの憩いの地も、間違いなく巻き込まれる戦だった。それを止めるため、通常であれば力のバランスを保つため人界にはかかわ…
// 前回「卵」の続き 風邪をひき始めた予感がする。普通の症状とは異なる頭痛がしていて、けれど発熱はない。 寝入りばなに私は特定の夢のことを思い出す。ビルの隅に産みつけられていた鳩の卵を見て思い出した、夢。それは、自分がかなり胴の太い大きな大き…
2024年6月までのおおよそ半年間で触れる機会があった青茶や緑茶など、中国および台湾で産出されるお茶や、緑茶をベースに香りが付けられたフレーバードティーおよびハーブティーの記録。当時から各種SNSに残しておいた写真をこちらにも。紅茶以上に初心者の…
①に引き続き、こちらは第2弾。各種フレーバードティーや、色々な販売元が取り扱っているブレンド系の紅茶の感想を格納します。緑茶ベースのものは含まれませんので次回記事の更新をお待ちください……。当時から各種SNSに残しておいた写真をこちらにも掲載。
2024年6月までのおおよそ半年間で触れる機会があった紅茶の記録。各種フレーバードやブレンドを除く、単一農園(シングルオリジン)の感想を格納します。当時から各種SNSに残しておいた写真をこちらにも。振り返ってみると意外にもブレンド系を多く飲んでい…
ヘッセの『デミアン』が本棚にあるはずだと思ってしばらく探し、見つけられず、そんなはずはないと念のためkindleを確認したら電子版で持っていた。実際に紙で所持している同著者の作品は『車輪の下』と『シッダールタ』で、それらと混同していたらしい。卵…
// JR高知駅に着いて、事前にメモしてあった店名のひとつを目指した。そこまでだいたい徒歩10分程度の距離らしい。 いわゆる純喫茶はこの駅の南側だと、はりまや橋停留所やその東西に多く集まっているようで、あまり足を動かしたくない人の場合はとさでんの…
昨年の中盤……特に夏の終わり頃から少しばかり調子を崩していて、生きるのが苦しく、心身の余力を温存するためにできるだけ引きこもり気味に過ごしていた。そうしたら、かなり快適だったはずなのにとても寂しくなってしまった。自分でもびっくりした。何にも…
でんわ☎でんわ 楕円形の看板を一瞥して中に入る。日曜日の午後1時、店主氏がひとり、カウンターにもお客さんがひとり、とても静かだった。段差を下りるとボックス状の席が点々とある。4つあるうち埋まっているのはこれまたひとつ。窓際に着席して鞄と上着を…
ページを開いて眼で文字をひとつひとつ飲みこみ、噛み砕き、頭の中である一幅の画を織り上げているあいだ……実際の身体の周囲にある音も、色も、暑さも寒さすらも消え失せる瞬間が確かに訪れる。それを称して「本には魔力が宿る」と比喩されるのだが、図書館…
扉を開けて外に出た瞬間、よかった、やっぱり来てよかった、といつも思える喫茶店。今年の晩春に訪れていたJR中山駅前の喫茶店、バウハウス。ふたたび足を運んだら、前はあったあれが無いな、と思っていた緑のカーテンが復活していて喜んだ。何とも言えない…
大きな窓の上に穴を開け、そこに紐が通されたような商品を1つ買った。紐は赤、白、交互にねじられて、ステッキ型のキャンディを彷彿とさせる趣。口に入れたら甘いかも。深緑の針葉樹が茂る区域に設けられた柵の内側では、たっぷりとした赤い布の服をまとうお…
先日クラフトコーラの原液を買ってきて、炭酸水で割ったら、きれいな金色になった。少しもアルコールの含まれていない、炭酸と各種香辛料だけがぱちぱちと刺激的な甘い飲み物だけれど、想像力を駆使して杯を傾ければちゃんとワームスプアーの模造品になる。…
もっとも厄介なのは、相手から要求されることではない。そう思う。厄介で恐ろしいのは、自発的に、心の一部ならすすんで差し出してもいいと思わされてしまうこと。加えて、そう思わされる状況に置かれることの方。だから、広義の恋は劇物なのだ。毒どころの…
私は熱いものを食べたり飲んだりするのが非常に苦手なのだけれど、思えば、いつもそのことを半分くらい忘れている。ぐらぐら煮立ったお湯から抽出したばかりのお茶を前にしている時であっても。今の季節のように室温が低いとなおさら油断が生じるのかもしれ…
ハガード王が治める街ハグスゲイトの住民たちも、彼と同じく「何物も永遠には続かぬ」を理由として何にも愛着を持てずにいる。魔女が城にかけた呪いの予言によって、いかなる事物もどうせ未来に失われることが分かってしまっているから、幸福な状態になるこ…
滋賀から遠く離れた東京都にも「琵琶湖」があるらしい。それは喫茶店の姿をしていて、建物のように装っていながら、あの静かで広大な湖面に宿る心を内に秘めている。扉を開ければいつでも、あの場所の空気に包まれる……かもしれない。また近江八幡に行きたく…
先日読み終わった3部作「イルスの竪琴 (The Riddle-Master trilogy)」の余韻に浸りながら、さらにこれまで読んだ作品との関連も含めて、パトリシア・マキリップの描く物語に繰り返し登場するいくつかの要素を考えていた。特に「妖女サイベルの呼び声」と「オ…
「そなたが、私がこれほどまでに愛した者でなければよかったのに」……人間が抱きうる欲望のうち、知を求める気持ちは私がとりわけ愛おしいと感じるもので、けれど同時に「知りたい」というのはとても危険な願いの発露でもあると分かっている。ある問いにうっ…
人間が存在して、寝たり、起きたり、働いたりしてまた眠り、目覚める、その繰り返しにこれといった意味を見出せない。だから、単純に生活するだけではいくら頑張っても精神面の充足が得られず、あまり熱心に取り組む気になれないしときどき疲れてしまう。
原文「Od Magic」から、日本語版「オドの魔法学校」原島文世訳の方に切り替えて再読した。故郷であるヌミス王国北方の辺境で、植物や動物などの声を聴き暮らしていたブレンダンは、ある日〈オド〉と名乗る女巨人に魔法の才を見出され都のケリオールへと赴く…
宿屋か雑貨屋か、飲食店か分からないけれど、とにかくもう営業をしているようではなく、ただ奥の方が引き続き住居として使われているみたいな印象を受けた。ガラスの内側、手前には段ボールが置かれていたり、簡易的な椅子や机が見えたり。そこに1匹の犬がい…
マストドン上の読書タグの投稿を見て、そういえばこちらのタイトル、確か自分の本棚にも(かなーり前から)放置してあったのでは……と積読していたのを出してきた。表紙が真っ赤。西加奈子「通天閣」は、果たしてどこで買ったのか覚えていない。
作中で「消失」と称される現象。これは一部の例外を除いた人々から、特定の物事に対する感慨を取り去る。そして「秘密警察」なる組織はそれを推し進める……。例えば香水が消失を迎えれば皆、香水を前にして何の香りも思い出も喚起できなくなり、さらには香水…