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彷徨する自由帖

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横須賀駅周辺にみられる近代遺産や関連する記念館など

JR横須賀駅の改札を出て徒歩1分ほど。当初は臨海公園と呼ばれていたが、平成13年に新しく庭園を整備し、ヴェルニー公園と名称を改めた海沿いのエリアがある。幕府からの依頼を受けて1865年に来日したフランス人技術者、フランソワ・レオンス・ヴェルニーの名…

鎌倉近代文学館|旧前田侯爵家別邸、上品な蒼い瓦の洋館と薔薇園

鎌倉の長谷にある前田家の別邸は、もとは第15代当主の前田利嗣が土地を購入し建設した、日本家屋だった。しかし、明治43年の頃に残念ながら焼失。その後も洋風建築に姿を変え、大正12年の関東大震災では倒壊するなど受難を経験してきたが、立て直された洋館…

窓の適切な開け方 / 鞄の底は小銭だらけ

欠陥の多い人間の性質を、如実に反映する生活の一幕。私が窓という建具の適切な扱い方、要するに正しい開け方(と表現しても差し支えないものか、どうか)を知ったのは、一体いつ頃のことだっただろうか。記憶を辿れるだけの期間さかのぼってみると、高校に…

すべてがどうでもいいと感じられる時:個人的な鬱と過眠の関係について

人生や人間という存在に何の意味も価値も見いだせないとき、それでとても苦しいとき、けれど状況を好転させようと懸命に努力しているところへ「考え方さえ変えれば楽になれる」「何かに夢中になろう」なんて言われてもまったく説得力はありませんよね。どう…

「誰かそこにいますか?」

おそらく接触する人間の9割には「こいつが何を言っているのかも、何を言いたいのかもぜんぜん分からない」と思われているだろう。けっしてあからさまではなくても、相手から言外にそう示されればきちんと伝わってくるし、その実感は年齢を重ねるごとにますま…

死神の館の温室には、生命の植物が集められている|ハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話《ある母親の物語》から

温室と言えば、折に触れて脳裏に浮かぶ童話がある。「ある母親の物語」といって、近代のデンマークを代表する作家、ハンス・クリスチャン・アンデルセンが手掛けた短いお話だ。彼にとっての主要なテーマだといえるキリスト教的な信仰や、もっと普遍的な「運…

必要以上に残酷な気持ちになるとき

机に頬杖をついて、瞼を閉じ、足先から床へと沈み込んでいきそうな感覚に溺れながら心中で呟く。私は別に、あなた個人のことが嫌いなのではなく、どうしてもこの世界を好きになれないだけなのだと。だから時折、ひどく残酷な気持ちになる。傷つけたいとも思…

過去の採掘と研磨 / 幻灯機みたいな回想の観賞

ああ、これならもう十分だ、と思えるだけの時間をかけて煮詰め、徹底的にそのことについて考えてみないかぎりは、経験した出来事が「自分にとってどれほどの価値を持つものなのか」がわからない。それは良い思い出か? 悪い思い出か? または、どちらでもな…

繊細かつ鋭い歌詞が魅力的なイギリスのシンガーソングライター、ローレン・アキリーナ(Lauren Aquilina)の楽曲

留学生時代、ロンドンで暮らしていた頃にはじめてその存在を知ってから、今に至るまでずっと聴き続けている歌手の楽曲がある。私と同い年のシンガーソングライター、ローレン・アキリーナ(Lauren Aquilina)。両親はマルタ共和国出身で、イギリスの都市ブリ…

人工的なフルーツの味と色に惹かれてやまない

胸に強烈なノスタルジアを喚起するものとして、各種ソーダ水とか、駄菓子屋によく置いてあった四角いくだものグミとか、そういった色とりどりの飲み物やお菓子が挙げられる。まず目を引くのは彼らの外見だろう。思い浮かべるのは、よく喫茶店のガラス棚の隅…

《Kの昇天》や《泥濘》などから感じられる梶井基次郎の視点 - 分裂する意識、分身への興味|日本の近代文学

「視ること、それはもうすでに なにか なのだ。自分の魂の一部分或いは全部がそれに乗り移ることなのだ」この部分を読んだとき、高校現代文の授業で「Kの昇天 - 或はKの溺死」が取り上げられた際にはうまく呑み込めなかったある種の感覚に、少しだけれど近付…

令和3年に閉室した「八王子市郷土資料館」の収蔵品より:53年の歴史を紡いだ展示場(後に桑都日本遺産センター 八王子博物館へ移転)

2019年2月に「八王子のおまじない」という特別展を見に行った郷土資料館。そこがいつのまにか閉室しており、さらには移転して別の施設になるのだとつい先日知って、驚いた。新しい展示場には桑都日本遺産センター(八王子博物館・通称はちはく)の名称が用い…

瞬間が保存されて永遠になる - 人生最大のトラウマを言語化する試み

「あなたはこの世界に必要な人だと思う」と言われたことがある。次の瞬間、思考も感覚もすべてが真っ白になった。固く握りしめた拳……いや、そんなに生やさしいものじゃない。まるで鉄製のハンマーのようなもので、薄く透明なガラスに覆われた時計の文字盤を…

旅行とビジネスホテルと私

「予約している○○と申しますけれども」「はい、お待ちしておりました」……このやり取りが懐かしく、恋しい。知らない土地、あるいは知らない国。ひとりの知己もおらず、まったく馴染みのない場所で、私は正しく途方に暮れている。目的は、たぶんある。現地で…

井の頭恩賜公園:昭和レトロな趣の連れ込み宿《旅荘 和歌水》の建物内部にいつか入ってみたい

この写真を見てほしい。井の頭公園の北、吉祥寺駅方面に続く大きめの道に出るあたりで、私は魅力的な建物《旅荘 和歌水》に遭遇した。ただ前を通っただけなのに、一目で陥落してしまったのだ。左端の方に少しだけ写っている鮮やかな青緑の壁。そこが入り口で…

酒入りの洋菓子、あるいはキス / 気難しい相棒としての万年筆

雨は地面に潤いをもたらすかたわら、私からは色々なものを奪っていくようだ。外出先で突然降られた時などは特に。冷たい水滴が叩く頭髪や顔、徐々に湿って重たくなる上着……そうして増えた質量のぶんだけ、体温と一緒に何かが失われていく気がしてならない。…

令和3年1月に閉館し、5月に解体される「原美術館」の往時の姿|昭和初期の近代建築・洋風邸宅

茂る木立の葉に囲まれて、建物の白い壁に落ちた影はほんのりと蒼く、展望台のように屋根から突出している部分を見上げれば奥に空が広がっていた。窓から漏れる明かりが際立つ橙色なのも、計算されてのことだろうか。原美術館は、財団法人アルカンシェール美…

短編《霧笛》を読みながら - 大佛次郎記念館と近代洋館群|横浜山手の丘散歩 Ⅲ

わりとよく足を運ぶ公園の片隅で、また新しい宝物を見つけたような気分になったけれど、すぐそれはあまりに傲慢な意識だと思いなおす。だって、昔から幾度となくこの前を通っていたのにもかかわらず、中を覗いてみようともしなかったのは自分の側なのだから…

更新開始から3年4カ月を迎えた雑多なブログ:運営記録

今月で当ブログ、chinorandomは3歳4カ月になりました!トップページ、ブログタイトル下の概要に記載してあるとおり、ここは自分にとって「彷徨する自由帳」としての役割を果たしていますので、更新を続けていくうえでの目標などは特にありません。あるテーマ…

夜の輪郭 / 記憶の中の火

朝を迎えてみると、やる気と呼べるものの全てが残らず失せている。どんなに活動的な気分も払暁には消えてしまう。静かな夜の中では深く考えられることや、そこから実際に行動にうつせることが、それは沢山あったのに。たとえ夜間に十分な睡眠をとっていても…

旧送水ポンプ所の建築を使った神奈川県水道記念館 - 近代水道百選にも選ばれた土木遺産・寒川町

神社の正面から境内を出て道を辿り、まっすぐに三の鳥居、二の鳥居と順に出会って、一の鳥居が視界に入る手前で右折をする。交差点に看板があるので分かりやすい。そこからしばらく歩くと、テニスコートとプールの向こうに「それらしい」建物の影が見えてき…

泥水の染みたパン

どうにも幸先の悪い日というやつは、いちど地面に落としたパンみたいなものだ。決して食べられない訳じゃない。けれど付着した砂を払っても、あるいは乾かしてみても、地面に落ちて汚れた事実だけは消えない。名前も知らない、体によくない物質が残っている…

明治に登場した「勧工場(かんこうば)」- 百貨店の前身、文明開化期を象徴する商業施設|横浜市歴史博物館の模型

客の要望に応じて商品を奥から出してくるのではなく、あらかじめ店内に陳列しておく新しい販売の形態。また購入に際して、値段の決定に交渉を必要としない、いわゆる現金掛け値なし。現代においては当然でも、当時は画期的だった営業の仕方の源流は、他なら…

サム・ロイド著《The Memory Wood(邦題:チェス盤の少女)》|「記憶の森」で対峙する脅迫的な幻想は、現実の殻を被った童話

この物語は、現代のイギリスを舞台とし、架空の誘拐事件を扱ったサスペンス・スリラー小説だ。イギリスの作家、サム・ロイドのデビュー作である「チェス盤の少女」の原題は、ザ・メモリー・ウッド(The Memory Wood)。直訳すると「記憶の森」になる。英国ハ…

部屋で茄子を飼う

お盆の風習のひとつに精霊馬(しょうりょうま)というものがある。キュウリやナスに木の棒の足を刺して、動物の牛と馬をかたどった、一種の供物。私の住んでいる場所では比較的多く見られ、幼い頃から自然とその存在を認識していたからか、日本国内でも地域…

魂の瑕疵

ひとりの人間が抱ける限界まで膨らんだ大きな感情。それが動かされるとき、私たちの眼前に目を瞠るほど美しい紋様を綾なすのは、特定の物語の中だけだ。現実ではありえない。よく似たものはたくさんあるが、残念ながら、そのうち九分九厘は偽物なのである。…

旧新橋ステンション(国鉄汐留駅)跡の再建駅舎と遺構 - 鉄道歴史博物館

著名なところでは、三代目歌川広重や小林清親。そして、他にも同じ明治を生きた多くの浮世絵師たちが残した、旧新橋停車場のようす。新橋停車場は、1914(大正3年)に東京駅が開業した折、汐留駅と改称することになった。その跡地に立てられている駅舎は、紙面…

夏目漱石の《文鳥》もういない人の幻を籠の中に視る官能|日本の近代文学

夏目漱石が1908(明治41)年に発表した短編小説《文鳥》。初めて読んだときは冒頭から中盤にかけて、これは作中の「自分」が文鳥を飼うこととその様子を、淡々と繊細に描写した話なのだろう……と勝手に思い込んでページをめくっていた。実際、そんな感じで物…

近代化遺産《記念艦 三笠》- 明治時代にイギリスで造られた戦艦の復元

ある街や都市の内外を行き交う人間の役割を表現するのに、しばしば血液という言葉を使っている。張りめぐらされた道を血管に見立て、時には内臓のような建物に流れ込み、あらゆるものを機能させる彼らの様子をたとえて。そう考えれば、大きな船はそれ自体が…

「私はこうして鬱から回復しました、だからあなたもきっと大丈夫」という、根拠のない言説にはうんざりです|かつての当事者として

「しばらく鬱状態だったけれど、○○をしたら症状が大幅に改善した! 他の皆もそうするべき」とか、「こういった工夫をすれば精神の状態が安定する」みたいな発言が世間でやたらともてはやされるのに、心底うんざりしていませんか。私はしている。もう、大いに…