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彷徨する自由帖

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近代遺産

主に明治・大正・昭和初期ごろの遺産や文化。まれに幕末以前や戦後も。

鎌田共済会 郷土博物館 - 大正時代に建てられた旧図書館|香川県・坂出市の近代建築

電車の窓からこの建物が見え、それで気になったのがきっかけで、わざわざ足を運ぶ人の数も多いのだと職員さんが言っていた。私達も岡山から快速マリンライナーに乗って来た。方角からすると、坂出駅に停車する直前で気が付く機会があったはずで、けれども白…

四谷シモン人形館 淡翁荘 - 昭和初期の洋館、旧鎌田勝太郎邸が内包する幻想世界|香川県・坂出市の近代建築

現在「四谷シモン人形館」として門戸を開いている建物は、かつて鎌田醤油の4代目、勝太郎が坂出に建設した居宅。彼の号にちなんで「淡翁荘」と呼ばれていた。戦前の昭和11年に竣工した洋館で、現在は広い駐車場となっている横の土地から見ると実に四角く簡素…

なだらかな眉山の曲線や、旧百十四銀行徳島支店が持つ直線|四国・徳島県ひとり旅(6)

まゆのやま……。その「形状」から眉山と名付けられた山だと聞き、新町橋の側に立って、泰然とした姿を見上げた。手前にあるビルの「探偵社」や「カメラ高価買取」などという文字列につい気を取られてしまうが、違う違うそっちじゃないよと自分に言い聞かせる…

JR徳島線を利用して城下の脇町「うだつの町並み」を訪う - 阿波藍のふるさと吉野川|四国・徳島県ひとり旅(4)

JR四国のコーポレートカラー(と、言うらしい)は明るい水色で、私はこれがとても好きだった。駅名の看板に使われているロゴや、車体を彩るラインにもしばしば使用されている、爽やかな色。詳細を調べれば「澄んだ空の青」のライトブルー、と出てきて深く納…

【本紹介】《明治大正昭和 化け込み婦人記者奮闘記》著者が当時の “はみ出し者” たちへと向ける敬愛

「日本の新聞黎明期。女だからと侮られ、回ってくるのは雑用ばかり。婦人記者たちは己の体一つで、変装潜入ルポ〈化け込み記事〉へと向かっていった——」明日発売される書籍で、自分が日頃抱いている関心と重なるものをお送りいただいたため、ここで紹介する。

揚輝荘北園に建つ《伴華楼》の再訪記録 - 設計・鈴木禎次は夏目漱石と相婿の関係にあたる|名古屋の近代建築

// 前に来たときと同じく季節は冬。けれど、当時の名古屋は雨だった。 確か小雨で、歩きながら傘は差していなかったような気がする。そこかしこに小さな屋根はあっても全身が湿るから、広い庭園に長居するのは憚られて、早々に南園の聴松閣内部へ避難してし…

旧秋田銀行本店本館(赤れんが郷土館)を見学 - 塔の天辺のベレー帽|秋田県・秋田市の近代建築

明治45(1912)年に竣工した近代建築。クリームチーズやスポンジで構成された断面を連想させる、層の重なり。灰色の部分を縞模様に露出して、それ以外の部分に白い磁器タイルを張って覆った、1階の外壁。なめらかなババロア。対比となる鮮やかな2階部分は化粧…

洋燈の華、旧津島家新座敷「太宰治疎開の家」- 不可視の渡り廊下を歩いて|青森県・五所川原市の近代遺産

// 家へ帰って兄に、金木の景色もなかなかいい、思いをあらたにしました、と言ったら、兄は、としをとると自分の生れて育った土地の景色が、京都よりも奈良よりも、佳くはないか、と思われて来るものです、と答えた。 (新潮文庫「津軽」(2022) 太宰治 p.158…

川原町の情緒ある風景と喫茶店、そして近代の洋風建築を見に|岐阜県南部旅行(1)

日本三大河川の一つに数えられる美しい長良川は、毎年5月から10月頃にかけて、伝統的な鵜飼(うかい)の行事が行われる舞台でもある。その静かな流れと深い青緑色には用が無くても足を止めざるを得ない。豪雨が降れば水位は増し、古来から災害を恐れてきた人…

太宰治生家「斜陽館」旧津島家住宅の迷宮じみた邸内、欅の大階段 - 作家が故郷に抱く複雑な思い|青森県・五所川原市の近代遺産

// 没落した元華族のとある家庭と、そこにいた母、娘、息子それぞれの軌跡を描いた小説に「斜陽」がある。 終わるひとつの時代に、かず子の恋と革命と、直治の遺書。 昭和22(1947)年に新潮社から出版された。 これにちなんで太宰治の生家——旧津島家住宅は斜…

夢野久作《鉄鎚》など彼の作品に「電話」が与えた影響と魅力と - 門司電気通信レトロ館(旧逓信省の建物)|日本の近代文学

……リンリン、リリリン……リンリン、リリリン……リンリン、リリリリリリリリ……。電話という道具、通信の手段は、100年前に比べれば随分と身近になった。電波の届く場所でならほとんど、いつでも誰とでも会話できる便利な状況が、むしろ煩わしく感じられる程度に…

合法的邸宅立入は罪にならない - 千葉市ゆかりの家・いなげ(旧武見家住宅)大正初期|稲毛区の近代建築

千葉県千葉市稲毛区、旧神谷伝兵衛稲毛別荘から歩いて数分のところに、旧武見家住宅がある。見学は無料で、所定の休館日を除けば年間を通して公開されている施設。現在は「千葉市ゆかりの家・いなげ」という名称で市に管理されている地域文化財。大正2(1913)…

天鏡閣 - 窓が多く塔屋が印象的な白い明治の洋館、湖の傍に建つ旧別邸|福島県・猪苗代

令和5年現在、天鏡閣は年末年始であろうと関係なく「無休」で公開されているのがかなり意外だった。本当に年中無休。ここは会津若松に隣接する地域で、寒いとすっかり雪に閉ざされてしまう地域の印象があったため……。それでも、辿り着ける人は辿り着くのだろ…

【文学聖地&近代遺産】ごく個人的な物語を往来するための巡礼記録:2022年

これまで1度も歩いたことのなかった土地の数々へ、2022年も足を運んだ。「足を運んだ」というよりか「足を使って自分の身体をせっせと遠方へ運んだ」とも表現できる。各種公共交通機関や、乗用車の力を借りながら。まぁ別にどちらでも意味は変わらない。いつ…

深川駅のウロコダンゴ - 国鉄留萠線(留萌本線)の開通を記念し、大正2(1913)年から売られている和菓子|北海道一人旅・深川編

外箱を裏返してこのお菓子の来歴を読んだ。どうやら、明治に開通した留萌(るもい)線がウロコダンゴの誕生する契機となったらしい。残念ながら赤字により、今後2023年から2026年にかけての段階的な廃線が決定している留萌本線だが、その始まりは明治43(1910…

吸血鬼の館 - 東京都・台東区

あるとき東京上野を適当に散策していて、それは面白い洋館の前を通りかかった。黒っぽい下見板張りの外壁、欄干がある古風な上げ下げ窓の白く塗られた窓枠、破風のところにあるもうひとつの気になる窓。屋根裏部屋でもあるのだろうか。そして入口上部、まる…

赤屋根の「駅舎」- かつて太宰治も訪れた鉄道駅の建物は現在レトロな喫茶店|青森県・五所川原市

津軽五所川原から津軽中里までは、乗用車以外の移動手段として、津軽鉄道線が走っている。その芦野公園の駅舎に、昭和5(1930)年開業当時から残る貴重な建物が今でも使われているのだった。2014(平成26)年12月には国の有形文化財にも登録されるに至る。昭和19…

ベンの家(旧フェレ邸)- 家、は身近にある最も奇妙な博物館|神戸北野異人館 日帰り一人旅

寒冷な土地に行くほどそこに住む恒温動物の体が大きくなる傾向、ベルクマンの法則と、餌の豊富な熱帯地方でのびのび育った色鮮やかな虫たちのことなど、いまいち方向性の定まらない考え事をしながら眠ったら、あるときとんでもなく奇怪な夢を見てしまった。…

ラインの館(旧ドレウェル邸)- 燐寸の火と硝子の向こうの家|神戸北野異人館 日帰り一人旅

ブレーメンを目指した動物達のうち、ロバが覗き込んだ強盗の家を思い出す。外と内の差異を、他の時期よりもずっと強く意識する。冬はとても寒いので。自分がヨーロッパの隅で過ごした幾度かのクリスマスも脳裏に浮かんだ。だいたいは家族のいる場所に帰って…

英国館(旧フデセック邸)- 気狂い茶会、言葉遊びと単なる徘徊|神戸北野異人館 日帰り一人旅

大きなお屋敷の脇や裏を通る細い道では、きちんと黒猫の気持ちになって歩くのが通行の際のルール。背筋を伸ばし、心持ち爪先の方に体重をかけて、できるだけ軽やかに……まがりなりにも黒猫なのだから、決してよろめいたりはしないものだ。たとえ途中で、小さ…

綺麗なガラスのドアノブは、なぜ20世紀前半に多く製造されたのか|大正~昭和初期の建築内で宝石採掘

飴玉。氷。寒天。それらに似ていて食欲をそそる、異常に美味しそうなもの。食欲というか「触欲」かもしれない。触りたくもなるので。国内に残る大正~昭和初期に建てられた邸宅などの建築物を巡っていて、ときどき出会うガラスのドアノブは、だいたい透明だ…

魔神と英雄神、アイヌの伝承の地、神居古潭 (Kamuykotan) - 国鉄時代の旧駅舎は明治の疑洋風建築|北海道一人旅・旭川編(2)

神居古潭駅は明治34(1901)年、北海道官設鉄道の簡易停車場(貫井停車場)として始まった。数年後に停車場へ、そして明治44(1911)年には一般駅に昇格して、貨物の取り扱いも開始される。やがて昭和44(1969)年9月に営業が終了するまで、無数の機関車がそのプラ…

旧旭川偕行社・竹村病院六角堂 - 明治時代の木造擬洋風建築、春光園前|北海道一人旅・旭川編(1)

この建物は旧旭川偕行社のもの。現在も偕行社という組織は存在するし、設立当時から地続きのものではあるが、第二次世界大戦以前と以後で性質は少々異なっている。「偕行」の語は、中国の古い詩篇「詩経」に登場する一節が由来とされているようだった。旧陸…

妹背牛町郷土館 - 旧村役場のフランス風近代建築、その内部にある約600点の資料|北海道一人旅・妹背牛編(1)

拠点にしていた旭川駅から妹背牛町まで来たのは、この「郷土館」に寄るためだった。茶色い板張りの壁、なめらかな緑色の屋根、そんな建物の入り口に掲げられているのは校章のような丸いもの。円と星に囲まれた「妹」の字は、妹背牛町をあらわす1文字なのだろ…

山形日帰り一人旅(1) 思い立ったが吉日、まずは時間に燻された旧山寺ホテル(やまがたレトロ館)へ

日帰りで、山形県の山寺、という場所に行ってきた。実は一緒に行こうと話していた友人がいたのだが、急遽、かなり面白い理由で当分先の予定まで隙間なく埋まってしまったとのことなので、いつも一人旅ばかりしている私は今回も変わらず、単独で目的地に足を…

旧島津家本邸 - 見学ツアーでのみ内部を歩ける大正時代の洋館|東京都・品川区の重要文化財

大正4(1915)年に竣工、その2年後の同6(1917)年に内装も含めて落成した、旧島津家本邸。現在の清泉女子大学本館。年に数回のツアーによって内部を見学でき、この時も現役の学生の方が丁寧に案内して下さった。ジョサイア・コンドルの設計した建物は、彼がその…

【後編】石段街を下って巡る復路、路地の枝や建築物 - 伊香保温泉逍遥 1泊2日|群馬県・渋川市

ふたつの記事の続き。朝早く起床して、旅館の部屋から外に意識を向ければ、それはもう見事としか言いようのない美しい空模様。昨日のものとは大違いで、まさに「こういうやつ」が見たかったのだと頷いた。あの感じはあの感じでまた違った良さと風情ある雰囲…

「どのドアもがっしりした木の、ノブはカットグラスだった」田辺聖子《夜あけのさよなら》より|近代建築に恋する曲がり角

数日前に古本屋で買った小説のうち一冊に、田辺聖子の「夜あけのさよなら」があった。今から45年以上前に刊行し文庫化された本。そしてその途中、上の引用にあるような、カットグラスのドアノブが颯爽と登場したのである。まるでどこかの角を勢いよく曲がっ…

福沢桃介記念館 - 大正時代の洋館で暮らした「電力王」桃介と「女優」貞奴の面影|長野県・木曽郡南木曽町(3)

水色に塗られた木の柱が交差する点を飾る、錆びた金属の持ち送り。組み合わされた図形のうち、円の部分をじっと見て、それが等間隔に並んでいるのを眺めていた。前の記事で述べた山の歴史館からこの渡り廊下を使って移動すると、そのまま大正8年に竣工した、…

山の歴史館 - 明治時代の木造洋風建築、御料局妻籠出張所庁舎|長野県・木曽郡南木曽町(2)

これが「山の歴史館」の建物。もとは1900(明治33)年に建てられた木造建築で、御料局(ごりょうきょく)妻籠出張所庁舎、といった。御料局とは明治18(1885)年に宮内庁に設置された、皇室の領地を管轄するための部署のこと。のちに帝室林野管理局、また帝室林…