でんわ☎でんわ 楕円形の看板を一瞥して中に入る。日曜日の午後1時、店主氏がひとり、カウンターにもお客さんがひとり、とても静かだった。段差を下りるとボックス状の席が点々とある。4つあるうち埋まっているのはこれまたひとつ。窓際に着席して鞄と上着を…
ページを開いて眼で文字をひとつひとつ飲みこみ、噛み砕き、頭の中である一幅の画を織り上げているあいだ……実際の身体の周囲にある音も、色も、暑さも寒さすらも消え失せる瞬間が確かに訪れる。それを称して「本には魔力が宿る」と比喩されるのだが、図書館…
扉を開けて外に出た瞬間、よかった、やっぱり来てよかった、といつも思える喫茶店。今年の晩春に訪れていたJR中山駅前の喫茶店、バウハウス。ふたたび足を運んだら、前はあったあれが無いな、と思っていた緑のカーテンが復活していて喜んだ。何とも言えない…
大きな窓の上に穴を開け、そこに紐が通されたような商品を1つ買った。紐は赤、白、交互にねじられて、ステッキ型のキャンディを彷彿とさせる趣。口に入れたら甘いかも。深緑の針葉樹が茂る区域に設けられた柵の内側では、たっぷりとした赤い布の服をまとうお…
先日クラフトコーラの原液を買ってきて、炭酸水で割ったら、きれいな金色になった。少しもアルコールの含まれていない、炭酸と各種香辛料だけがぱちぱちと刺激的な甘い飲み物だけれど、想像力を駆使して杯を傾ければちゃんとワームスプアーの模造品になる。…
もっとも厄介なのは、相手から要求されることではない。そう思う。厄介で恐ろしいのは、自発的に、心の一部ならすすんで差し出してもいいと思わされてしまうこと。加えて、そう思わされる状況に置かれることの方。だから、広義の恋は劇物なのだ。毒どころの…
私は熱いものを食べたり飲んだりするのが非常に苦手なのだけれど、思えば、いつもそのことを半分くらい忘れている。ぐらぐら煮立ったお湯から抽出したばかりのお茶を前にしている時であっても。今の季節のように室温が低いとなおさら油断が生じるのかもしれ…
ハガード王が治める街ハグスゲイトの住民たちも、彼と同じく「何物も永遠には続かぬ」を理由として何にも愛着を持てずにいる。魔女が城にかけた呪いの予言によって、いかなる事物もどうせ未来に失われることが分かってしまっているから、幸福な状態になるこ…
滋賀から遠く離れた東京都にも「琵琶湖」があるらしい。それは喫茶店の姿をしていて、建物のように装っていながら、あの静かで広大な湖面に宿る心を内に秘めている。扉を開ければいつでも、あの場所の空気に包まれる……かもしれない。また近江八幡に行きたく…
先日読み終わった3部作「イルスの竪琴 (The Riddle-Master trilogy)」の余韻に浸りながら、さらにこれまで読んだ作品との関連も含めて、パトリシア・マキリップの描く物語に繰り返し登場するいくつかの要素を考えていた。特に「妖女サイベルの呼び声」と「オ…
「そなたが、私がこれほどまでに愛した者でなければよかったのに」……人間が抱きうる欲望のうち、知を求める気持ちは私がとりわけ愛おしいと感じるもので、けれど同時に「知りたい」というのはとても危険な願いの発露でもあると分かっている。ある問いにうっ…
人間が存在して、寝たり、起きたり、働いたりしてまた眠り、目覚める、その繰り返しにこれといった意味を見出せない。だから、単純に生活するだけではいくら頑張っても精神面の充足が得られず、あまり熱心に取り組む気になれないしときどき疲れてしまう。
原文「Od Magic」から、日本語版「オドの魔法学校」原島文世訳の方に切り替えて再読した。故郷であるヌミス王国北方の辺境で、植物や動物などの声を聴き暮らしていたブレンダンは、ある日〈オド〉と名乗る女巨人に魔法の才を見出され都のケリオールへと赴く…
宿屋か雑貨屋か、飲食店か分からないけれど、とにかくもう営業をしているようではなく、ただ奥の方が引き続き住居として使われているみたいな印象を受けた。ガラスの内側、手前には段ボールが置かれていたり、簡易的な椅子や机が見えたり。そこに1匹の犬がい…
マストドン上の読書タグの投稿を見て、そういえばこちらのタイトル、確か自分の本棚にも(かなーり前から)放置してあったのでは……と積読していたのを出してきた。表紙が真っ赤。西加奈子「通天閣」は、果たしてどこで買ったのか覚えていない。