はてなブログ ユーザーのお題「おすすめしたいローカルグルメ・お菓子」
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夏に北海道、雨竜郡の妹背牛町という場所へ行ったとき、神居古潭から向かうのにはバスの乗り換えが必要だったのでいちど降車した。特に一人旅だと、慣れない地域のバス移動はいつもよりずっと緊張する。常時そわそわしてしまう。
次の便が来るまで約40分の待ち時間があった。
そこが、現在JR函館本線と留萌本線の電車が停まる深川駅。
私のように関東地方在住の人間にとって、地名の「深川」と聞いて思い浮かぶのは江戸の「本所深川」が筆頭だと思う。多分。しかし、もちろん国内の他の地域にも、北海道にもあるのだ。地名の由来には諸説あるが、いずれの説でもアイヌ語との関連性が見出せると考えられる場合が多いよう。
しばらく時間をつぶすのに立ち寄った駅構内の物産館にて、出会ったのがこれ。
「深川名物ウロコダンゴ」……とある。
初めて見たし、初めて聞いた名前だった。橙色と深緑色のグラデーション、そしてごん太で力強い筆致の文字の組み合わせが視覚的にかなり印象深い外箱で、まるで威勢のよい声で呼び込みをされている気分になる。遠くから何か聞こえてくる。
ウロコダンゴ、ウロコダンゴだよ!
だからなのか、つい棚の前で立ち止まってしまったし、最終的に買ってしまった。良いお土産になった。
開封してみると、プラスチックのトレーに並び、真空パックに包まれた三角形のウロコダンゴが顔を出す。会計時に尋ねたところによると、この袋を剥がしたらそのまま食べられるらしい。表に貼られた紙のシールをめくると小さなフォークがついていた。なので、電車旅をする人などは、行き帰りの車内でおやつにすることもできそう。
ウロコダンゴ本体はフチがギザギザしていて、とっ……ても肉厚。ボリュームがある。私が購入したものには白あん、抹茶、小豆と、味の異なる3種類が入っていた。
おそるおそる、つつくと確かな粘性と弾力を感じる。想像していたよりも硬め。端っこからかじってみて、それから、もう一口。
米粉と小麦粉と砂糖を練ったお団子の味には飾り気がなく、至って真っすぐで、それゆえ長く味わっていられる感じがした。例えるならプレーンのビスケットにも似ていて、とてもお茶に合う。高圧の蒸気で蒸される際に旨味のたぐいもしっかり閉じ込められているのか、甘さの方がごく控えめでも、深みがあるので意外と単純ではない。
これぞ素朴なお菓子の強み、とでも言うべきだろうか、生活の中に常にあっても違和感がなく、機会を選ばずに楽しめる味と食感だった。
製造元のサイトを見てみると、防腐剤や添加物は一切使っていないのだとか。私はお菓子におけるそれらに普段あまり頓着していないのだけれど、混ぜ物の少ない生の素材の美味しさというのは、間違いなくある。
外箱を裏返し、公式webサイトも参照してこのお菓子の来歴を読んだ。どうやら、明治に開通した留萌(るもい)線がウロコダンゴの誕生する契機となったらしい。
残念ながら赤字により、今後2023年から2026年にかけての段階的な廃線が決定している留萌本線だが、その始まりは明治43(1910)年の頃。現在の留萌本線と同じく、この深川駅を起点として、北西の果ての留萌まで鉄道が引かれていた。当時の漢字表記は「留萠線」。
石炭と木材を大漁に積んで深川駅を出発し、港に到着した列車は、今度は留萌港の船から下ろされた鰊(にしん)を貨車に飲み込んで深川まで戻った。思い浮かべるだけで当時の隆盛が偲ばれる。労働者、商人、また市民の活気で賑わっていたのであろう港と鉄道の沿線……。
深川という地でのウロコダンゴの誕生は、まさにそんな留萠線を寿ぐもの。大正2(1913)年から販売され、これまで100年以上の長きにわたり愛されてきた。
名前の由来なのだが、当初は製造元である高橋商事の初代社長の出身地・新潟で売られていた銘菓「椿餅」にちなみ、この商品も「椿団子」にしようという話が持ち上がっていたのだとか。しかし、そこで懸念を表明したのが当時の深川駅長で、なんと名前を椿さんといった。「椿団子」では、まるで自分の名前を冠している風になってしまう……と心配する。
名称を再考する際、この菓子の三角形と結びついたのが、貨物列車にこびり付いた大量の鰊の鱗(うろこ)だった。留萌線を象徴する魚の鰊、その鱗と同じ形をしている団子、そこから「ウロコダンゴ」の名が正式に採用された。
現地の近代史に思いを馳せるのにはぴったりのお菓子だと思う。
ちなみに近代つながりで、せっかく深川を訪れたのならぜひ見て帰ってほしい近代建築もあった。
今は市民交流センター(プラザ深川)となっている、旧北海道拓殖銀行深川支店。拓殖銀行の愛称はたくぎん。昭和12年の建築で、駅から徒歩数分のところにある。神殿を思わせる柱が並んだ重厚な佇まいが特徴的。調べてみると、付近を通るバスを待つ場所としても使われているようだった。
いずれまたこの辺りを通りかかったら、細長い「ウロコダンゴ羊羹」なるものも購入してみたい。