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彷徨する自由帖

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随筆・創作

あることないこと、文章の練習

海をグラスに1杯 - 金沢八景の喫茶店オリビエ|神奈川県・横浜市

でんわ☎でんわ 楕円形の看板を一瞥して中に入る。日曜日の午後1時、店主氏がひとり、カウンターにもお客さんがひとり、とても静かだった。段差を下りるとボックス状の席が点々とある。4つあるうち埋まっているのはこれまたひとつ。窓際に着席して鞄と上着を…

赤い服を着て白く長いひげを生やしたおじいさん

大きな窓の上に穴を開け、そこに紐が通されたような商品を1つ買った。紐は赤、白、交互にねじられて、ステッキ型のキャンディを彷彿とさせる趣。口に入れたら甘いかも。深緑の針葉樹が茂る区域に設けられた柵の内側では、たっぷりとした赤い布の服をまとうお…

黄金色をしたワームスプアーの模造品:P・A・マキリップ《ホアズブレスの龍追い人》

先日クラフトコーラの原液を買ってきて、炭酸水で割ったら、きれいな金色になった。少しもアルコールの含まれていない、炭酸と各種香辛料だけがぱちぱちと刺激的な甘い飲み物だけれど、想像力を駆使して杯を傾ければちゃんとワームスプアーの模造品になる。…

切り分けた心を奪われる(または巧妙に、自分から差し出すように仕向けられる)ような

もっとも厄介なのは、相手から要求されることではない。そう思う。厄介で恐ろしいのは、自発的に、心の一部ならすすんで差し出してもいいと思わされてしまうこと。加えて、そう思わされる状況に置かれることの方。だから、広義の恋は劇物なのだ。毒どころの…

茉莉花茶とアイスクリーム

私は熱いものを食べたり飲んだりするのが非常に苦手なのだけれど、思えば、いつもそのことを半分くらい忘れている。ぐらぐら煮立ったお湯から抽出したばかりのお茶を前にしている時であっても。今の季節のように室温が低いとなおさら油断が生じるのかもしれ…

生活それ自体の哀しさ / そこに本が存在する喜び

人間が存在して、寝たり、起きたり、働いたりしてまた眠り、目覚める、その繰り返しにこれといった意味を見出せない。だから、単純に生活するだけではいくら頑張っても精神面の充足が得られず、あまり熱心に取り組む気になれないしときどき疲れてしまう。

猛犬注意

宿屋か雑貨屋か、飲食店か分からないけれど、とにかくもう営業をしているようではなく、ただ奥の方が引き続き住居として使われているみたいな印象を受けた。ガラスの内側、手前には段ボールが置かれていたり、簡易的な椅子や机が見えたり。そこに1匹の犬がい…

週間日記・2023 10/2㈪~10/8㈰

2023年10/2㈪~10/8㈰の日記(順次追加)

週間日記・2023 9/18㈪~9/24㈰

2023年9月18日㈪~9月24日㈰の日記(順次追加)

週間日記・2023 9/4㈪~9/10㈰

2023年9月4日㈪~9月10日㈰の日記(順次追加)

週間日記・2023 8/14㈪~8/20㈰

2023年8月14日㈪~8月20日㈰の日記(順次追加)

エッセイを寄稿します:文学フリマ大阪11 2023年9月10日㈰ - 批評誌『Silence』Vol.2《病いとともに。》へ(試し読みあり)

「批評誌『Silence』Vol.2 ~病いとともに。~」にエッセイを寄稿しました。タイトルは「記憶 - 病と病院、本にまつわる六つの章 -」になります。来月開催の文学フリマ大阪11、会場のK-53ブースにて頒布される予定です。

記録されなければ、痕跡が残らなければ、それは「無かったこと」になってしまうから

あるものが、確かにそこにあったと示すもの。仮に失われれば、確かに存在していたという証拠が揺らいでしまうもの。この場合の「痕跡」というのはなんと表現すればよいだろうか。文字や図画などはほとんど記録そのものだといえそうだけれど、例えば目に見え…

月の印(しるし)の喫茶店 - café & antiques, 店内での写真撮影禁止|神奈川県・横須賀市

つめたいカフェ・アマレットは、炎天下の砂浜に3時間もかがみ込んで、無心でガラスの欠片を拾っていた身体によく沁みた。爽やかでほんのりと甘い。表面のクリームを落としてかき混ぜると、よりまろやかになる。その大きなグラスに浮かぶ砕氷が奇しくもシーグ…

脊髄反射的な「定型文」に対して感じる、半ば脊髄反射的な憤りとしての火炎

私が嫌いなのは、web上で特定の語句を入力して検索を行うと、結果の一番上にまるで広告のように厚生労働省の「自殺対策 - 電話相談」というページが自動的に出現する現象。タイトルからページの内容に飛ぶと、そこにはなんとかSOSとかなんとかホットラインと…

魔法のソーダ水

スーパーマーケットの、お菓子作りの材料が置いてある一角で見かける、「ケーキマジック」という商品を眺めるのが幼い頃から好きだった。特別な存在だった。それは製菓用に売られているお酒で、楕円形をし、底だけが平たくなった取手付きのガラス瓶に、エプ…

猟奇、パッション、果物の甘い香り|ほぼ500文字の回想

「なんと、うまそうなつらだ」鹿児島県産のパッションフルーツ3個入りを買って以来、毎日彼らを眺めてこう考えている。情熱、ではなくて「受難(パッション)」の果実というのもなかなか面白い名前で、それが「磔刑」の十字を連想させる花の形状に由来する(…

茱萸の実、桑の実、幻の烏瓜の実

古い監獄の敷地内にグミ(茱萸)の実が落っこちていた。 もちろん忽然と出現したわけではなく、通路近くの茂みには元となる樹が生えていて、枝から地面に落下してきたのだろう。実の、張り詰めたうすい皮は光を透かして、同じように半透明の果肉を輝かせ、磨…

火の国・火の山|文豪と手紙

「あづま菊いけて置きけり火の国に住みける君の帰りくるかね」上の手紙と同じ明治三十三年の6月中旬、子規が漱石に寄せた書簡に記されていたもの。差出人の住所は下谷区上根岸町(現在の東京都台東区)。そして、受取人の住所は熊本市北千反畑、旧文学精舎跡…

ローカル鉄道・上信電鉄~上州富岡で降車し製糸場へ|ほぼ500文字の回想

どうやら上信電鉄、かつては実際に下仁田から長野(現在の佐久市あたり)まで延線を行う計画が存在していたようだった。そのため電化へと舵を切った際、明治期には「上野(こうずけ)鉄道」だった社名が、大正10年に「上信電気鉄道」へと変更されている。現…

運命が決定される前の抽象的なケーキについて|ほぼ500文字の回想

先週の話。9月の京都文フリで出る合同誌へ寄稿する文章、その提出期限がジリジリ迫っていて、しかしこれは確実に終わるだろう……と目途は立った。ような、気がした。気がしたから退勤後に、最寄り駅から少し離れた洋菓子店へと足を延ばした。珍しくケーキが食…

喫茶店随想(3) みどり色したカーテンの幻

昔は窓の内側に、ごくうすい緑のカーテンがかかっていたはずで、でも先日行ったら取り外されていたようだった。懐かしく思い出す。木漏れ日を思わせるとても綺麗な、透ける緑色のカーテンを。そう、私が小さい頃にどこかの霊園の隅で見つけた、小さな雨蛙に…

かつて脳裏に描いた姿でなくても

大人になった私は、幼少期の脳裏に描いていた「ふつう」の人生も、あるとき憧れていた神話や伝説の人物のような、理想の人生も送っていない。必要に応じて必要なことをし、取り組めるときに好きなことをしている。……そもそもこの世界では、大人、をどのよう…

針のむしろ地蔵(誤)

東京都は豊島区、巣鴨にある「とげぬき地蔵」。この名前をすっかり忘れてしまい、どうしてもどうしても思い出すことができなかったのだが、記憶の中の丘にはそれが「何か先端が鋭いもの、尖ったもの」に関係しているのだという確信だけが碑のようにそびえて…

永世の繭の眠り・シルク博物館・純喫茶「田園」

落ち着いたうす緑色のソファと、深緑色のテーブルが、店名の通り「田園」のある風景と共に桑の葉が茂る様子を思い起こさせた。蚕は桑を食む。七十二候のうち、夏の項目の中にも「蚕起食桑 (かいこおきてくわをはむ)」がある。5月の21日頃から数日間がそう…

夏目漱石《夢十夜》第一夜 より:百合の花の香で思い出すこと

百合といって、根ではなく花の方から真っ先に連想させられるものといえば、私にとっては夏目漱石の小説《夢十夜》の第一夜に登場する一文かもしれない。作中の「自分」によって、「真白な百合」が「鼻の先で骨に徹(こた)えるほど匂った。」と述べられる部…

旧本所の喫茶店にて|ほぼ500文字の回想

東京、墨田の旧本所で「豆板」というお菓子を作っている会社の、周囲から会長と呼ばれていたおじいさんと話した。初めて訪れた喫茶店の常連さんだった。会長……とは何をする役職なのだろう、私はよく知らない。その人のお父様が昭和2(1927)年に創業した製菓会…

花に道を交える様子

風に散らされた花びらの滞空時間は意外と長い。無為に眺めていると、いつまでも地面につかず宙を漂っている。ひとつに視線を注ぐのに飽きる暇もなく、今度は別の一枚が、また斜め上から降ってきて舞う………そんな風に延々と絶えることがなかった。遊歩道と言っ…

角を曲がればネッスルコーヒーに当たる

もう営業されていない商店の建物だった。道路に面したファサードの上部が平たくなっていて、大きく店名が書いてある典型的な造り、これは誰が見てもそうと分かる「らしい」佇まい。つやのある、たばこ小賣所と書かれたホーロー看板(琺瑯風の看板)。周辺は…

鉄道、辨當、食堂車|ほぼ500文字の回想

お弁当に限らず、旅客を乗せ中距離以上を走る鉄道と食事とは不可分で、現在と異なり20世紀までは多くの路線で「食堂車」を有した列車が運行していた。在来線の特急でも。まるっきり私の記憶にはない時代。夏目漱石の小説「虞美人草」にも食堂車の「ハムエク…