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彷徨する自由帖

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随筆・創作

あることないこと、文章の練習

窓の適切な開け方 / 鞄の底は小銭だらけ

欠陥の多い人間の性質を、如実に反映する生活の一幕。私が窓という建具の適切な扱い方、要するに正しい開け方(と表現しても差し支えないものか、どうか)を知ったのは、一体いつ頃のことだっただろうか。記憶を辿れるだけの期間さかのぼってみると、高校に…

「誰かそこにいますか?」

おそらく接触する人間の9割には「こいつが何を言っているのかも、何を言いたいのかもぜんぜん分からない」と思われているだろう。けっしてあからさまではなくても、相手から言外にそう示されればきちんと伝わってくるし、その実感は年齢を重ねるごとにますま…

必要以上に残酷な気持ちになるとき

机に頬杖をついて、瞼を閉じ、足先から床へと沈み込んでいきそうな感覚に溺れながら心中で呟く。私は別に、あなた個人のことが嫌いなのではなく、どうしてもこの世界を好きになれないだけなのだと。だから時折、ひどく残酷な気持ちになる。傷つけたいとも思…

過去の採掘と研磨 / 幻灯機みたいな回想の観賞

ああ、これならもう十分だ、と思えるだけの時間をかけて煮詰め、徹底的にそのことについて考えてみないかぎりは、経験した出来事が「自分にとってどれほどの価値を持つものなのか」がわからない。それは良い思い出か? 悪い思い出か? または、どちらでもな…

人工的なフルーツの味と色に惹かれてやまない

胸に強烈なノスタルジアを喚起するものとして、各種ソーダ水とか、駄菓子屋によく置いてあった四角いくだものグミとか、そういった色とりどりの飲み物やお菓子が挙げられる。まず目を引くのは彼らの外見だろう。思い浮かべるのは、よく喫茶店のガラス棚の隅…

瞬間が保存されて永遠になる - 人生最大のトラウマを言語化する試み

「あなたはこの世界に必要な人だと思う」と言われたことがある。次の瞬間、思考も感覚もすべてが真っ白になった。固く握りしめた拳……いや、そんなに生やさしいものじゃない。まるで鉄製のハンマーのようなもので、薄く透明なガラスに覆われた時計の文字盤を…

旅行とビジネスホテルと私

「予約している○○と申しますけれども」「はい、お待ちしておりました」……このやり取りが懐かしく、恋しい。知らない土地、あるいは知らない国。ひとりの知己もおらず、まったく馴染みのない場所で、私は正しく途方に暮れている。目的は、たぶんある。現地で…

酒入りの洋菓子、あるいはキス / 気難しい相棒としての万年筆

雨は地面に潤いをもたらすかたわら、私からは色々なものを奪っていくようだ。外出先で突然降られた時などは特に。冷たい水滴が叩く頭髪や顔、徐々に湿って重たくなる上着……そうして増えた質量のぶんだけ、体温と一緒に何かが失われていく気がしてならない。…

夜の輪郭 / 記憶の中の火

朝を迎えてみると、やる気と呼べるものの全てが残らず失せている。どんなに活動的な気分も払暁には消えてしまう。静かな夜の中では深く考えられることや、そこから実際に行動にうつせることが、それは沢山あったのに。たとえ夜間に十分な睡眠をとっていても…

泥水の染みたパン

どうにも幸先の悪い日というやつは、いちど地面に落としたパンみたいなものだ。決して食べられない訳じゃない。けれど付着した砂を払っても、あるいは乾かしてみても、地面に落ちて汚れた事実だけは消えない。名前も知らない、体によくない物質が残っている…

部屋で茄子を飼う

お盆の風習のひとつに精霊馬(しょうりょうま)というものがある。キュウリやナスに木の棒の足を刺して、動物の牛と馬をかたどった、一種の供物。私の住んでいる場所では比較的多く見られ、幼い頃から自然とその存在を認識していたからか、日本国内でも地域…

魂の瑕疵

ひとりの人間が抱ける限界まで膨らんだ大きな感情。それが動かされるとき、私たちの眼前に目を瞠るほど美しい紋様を綾なすのは、特定の物語の中だけだ。現実ではありえない。よく似たものはたくさんあるが、残念ながら、そのうち九分九厘は偽物なのである。…

ネギ、葱、禰宜

昔は外で「ネギ坊主」を見かけるたび、単なる野菜ではなく何か特別な、魔法の植物だと思っていた。そもそも、彼らがネギだということすら知らなかった。畑のうねに沿って細長い緑の首が並び、先端にやわらかそうな白い花をつけている。近寄って吹けば、コロ…

心に注がれる氷のこと / その時によって好む色が変わる

生きて、何かをしようと思い立ったときに発生する意志は流動的だ。それは決して触れられないほど熱くはないまでも、ある程度の温度を持っている。たぶん、飲み頃のお茶よりも幾分かぬるいと言えるくらいには。だから注ぎ込む型によってその形状を変えられる…

ペンションの廃墟 / 必要ではなくなったもの、の行方 / 風に花

もう使いもしないのにずうっと部屋の中に置いてあるもの。そのうち捨てようとしているものと、結局は捨てられなさそうなもの。あるいは疎遠になってしまった友達や、知り合い。その気になれば連絡先を探し出すことは容易だが、わざわざ行動を起こしてまで維…

定期的に過去を清算したくなる理由

定期的に人間関係をリセットする癖、あるいは症候群……とでも表現するべきか。今までかかわりのあった人達との連絡手段をとつぜん絶ったり、次の移動先を告げずに所属していた組織を去ったりして、その都度違う場所でまったく新しい関係性を築こうとする性質…

軽く体調を崩すと「許された」ような気がする

具合が悪いといえど、目を開けていられないほどではなく、全く身体を動かせないほどでもない。その状態が、まるで免罪符のようだと思う。どこからか「お前は休んでも構わない」と告げられている気がする。今は行動を起こさなくてもよいのだと。特に異常のな…

伝声|自働電話

売り言葉に買い言葉、勢い余って「家」を飛び出すことなど頻繁にある。それ自体は別に珍しくも何ともないし、大抵の場合しばらくすれば原因すら忘れてしまうものだが、今回は内容が内容なだけに簡単にはいかなかった。そういう心のまま「こちら側」に来るの…

理想と倦怠と諦念、そして捨てきれない希望

自分にとって…… 旅行や散歩に行ったり、建築に心寄せたり、本を読んだりするのは、全て素晴らしい物語を探すための行為に他ならない。そこから得られる「尊い何か」を、私はこよなく愛している。物語に触れるたび、描写されているものをそのまま体験する感覚…

【終了しました】自作の短編集《彷徨する窓》の電子書籍を販売します

昨日やっと、諸事の合間にちまちま執筆を進めていたものが完成したので、ひとまず開設したBASEのショップにて電子書籍としてPDFデータを販売してみます。小説で、内容としては主に「存在しない場所・物事」の見聞録になっています。どこでもない国々で見聞き…

人を喰う城郭

音を吸う存在としてよく話題に上るのは雪だが、実際のところ、石も似たようなものだと思う。特に、柔らかいもの。表面が磨かれておらず微細な穴が開いていたり、経年による風化で、少なからず傷が付いていたりするものが。それに気付かされたのが多分この場…

六畳程度の小さな部屋

まるで自身の脳内や心理をそっくり映し出したかのような部屋は、所狭しと置かれている物品の傾向だけでなく、微妙な散らかり具合までもが私の持つ性質にそっくりだ。幼少の頃から幾度か小さな引っ越しを繰り返してきたので、10年以上じっくりと腰を据えて造…

百 "貨" 繚乱の時代:大正初期の三越本店と日比翁助、英国ロンドンのハロッズ

白亜の城か、大邸宅を思わせる5階建て。地下もある。眼前に現れた荘厳な百貨店の玄関脇には、まるで神社の狛犬のように鎮座する、一対のブロンズ製の獅子がいた。それを横目に建物の内部へ足を踏み入れつつ、一歩先を行く連れに他愛もないことを問いかける。…

内の顔・外の面

家の外で、知らない人間に突然話しかけられるのが苦手だ。というか大嫌い。例えば歩いていて道を訊かれたり、座っていたら隣の人に雑談を持ちかけられたり、撮影を頼まれたり…… 挙句の果てには何かの勧誘や、驚くことに「歌を聞いてくれ」などと言われたこと…

家に籠り、放浪を渇望する睦月

流行り病が怖くて、仕事以外の日はすっかり家に籠っている。もう一月も終わる。呼吸器系が昔から弱いので「肺炎」の言葉を耳に入れるだけでも恐ろしい。旅行や散策をしようと思うものの、どうしても大型の駅や空港を経由することになるため、その辺でうっか…

聖夜譚|お屋敷のクリスマス

体調を崩すと著しく食欲がなくなる。それでも、何かを口に入れないと弱る。ならば逆に、わずかでも飲み食いできるうちはまだ、人はこちら側の世界に根を張っていられるのだ――とも思えた。黄泉や冥界ではなくて、現世の食べ物を喫することができる限りは。今…

遺志、あるいは石の亡霊|増える建物

あるとき、「建造物の増殖」としか表現できない現象が頻発するようになった。はじめにそれを観測したのは、欧州の片隅にある小さな国の農夫。曰く、街の教会の塔の高さが徐々に増していっている、とのことだ。彼は、朝の決まった時間に塔の階段を数えながら…

心的避暑地|コスモプラネタリウム渋谷

残暑残暑というが、八月が終盤を迎えても依然として尾を引くのは、不快な気温と湿度ばかりではない。胸の奥には、くすぶる焼け跡がある。そこにいつ火が放たれたのか、燃え落ちたものが一体何だったのかも今となっては分からず、残骸はただ放置されるままに…

虚無と焦燥の住まう部屋で

一日外に出たら三日は家に籠りたい。常日頃からその位のペースで生活をしたいと思っているが、殊に夏はその思いが一層強くなる。気温と湿度が、働くのと遊ぶのに必要な、精神力と体力の双方を容赦なく私から奪っていくからだ。ただでさえ疲れやすい性質であ…

イギリスの美大を中退しようと決めたときのこと

昨年のいまごろ自分が考えていたことを、細部まではっきりと思い出すのは意外と難しい。けれど、私が大学を辞めるという重大な決断をするにあたって、心に生じた多くの「迷い」からひとつずつ答えを引き出そうと試み、奮闘していたことは確かだ。人が中途退…