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彷徨する自由帖

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随筆・創作

あることないこと、文章の練習

ぼんやり米粒の骨を思った - 末廣酒造と蔵喫茶「杏」|会津若松・福島県

実際の酒蔵で、本醸造酒と吟醸酒、大吟醸酒の違いについてなど、きちんと解説を聞いたのは初めてだった。これらは製法の他、精米歩合……という「磨き」の割合で呼称が定められている。特に大吟醸酒ともなると、場合により、それが40%以下になることもあるのだ…

皆、単純に忙しい、という事実 - 選ぶことと選ばれること

成人したり、働き始めたりしてから新しく人と友達になるのは難しいと一般に言われる理由について、実際に成人してから親しくなった友達と話しながら考えていた。みんな、いつも自分のことで忙しい。あるいは「他の何かのために動く自分」のことで、忙しくし…

旅は「いつか静かにまどろむ時のため」だと認識した瞬間

あとで回想をするために外に出る……というのは、要するにいちど触れたもの・見たこと・聞いたことを、その先いつになっても好きなときに脳裏へ呼び出せるようにする行為の基礎部分。記憶が薄れても、記録が消えない限りは細部を補足して、幻想のように喚起で…

冬、早朝の格技場の床はとても冷たい

// 寒い時期に朝、目を覚ますと、掛け布団に覆われていない首から上が冷え切っている。 耳とか、鼻とか、とにかく顔の周辺だけが柔らかな石のように冷たい。これから向かう学校の、美術室に置いてあるゲーテの石膏デスマスクをぼんやり脳裏に浮かべた。思慮…

新幹線に紐付けられたお弁当とお酒|ほぼ500文字の回想

先日に秋田新幹線の車内で食べたのは、大館の株式会社 花膳が提供している弁当『鶏めし』。お酒は由利本荘、齋彌酒造店が製造元の『雪の茅舎 奥伝山廃』だった。マストドン(Masodon)に掲載した文章です。

「自己肯定感至上主義」には馴染めない(なぜ、自分をわざわざ肯定しなければ駄目なのだろう?)

世間的に支持される考えや言葉には支持されるだけの理由があるはず。だから一応考えておいた方が己のためになりそうだと思いつつ、じっくり突き詰めて考えたが、とりあえず自分とは合わないと判明した。自己肯定感至上主義には馴染めない。そもそも常に前向…

宮沢賢治《貝の火》のまんまるのオパール - 音もなく、氷のように燃える宝珠|近代文学と自分の話

10月の誕生石には2種類あるらしい。トルマリンと、オパール。1990年代後半から2000年にかけて、特にトルマリンの方は「ピンクトルマリン」と色を限定して語られる場合が(なぜか)多かった記憶があり、幼少期はそれが不満だった。あのごく薄い赤紫色が、そこ…

銀のトレーは「特別」の象徴 喫茶チロル - 名鉄インが目の前のレトロ喫茶店|愛知県・名古屋市

何年も前のストリートビュー写真では「TOBACCO」となっていた右手の看板が、2022年に行ってみると「切手・印紙」に変わっていた。些細なところで確かな時代の流れを感じさせる。そして、明朝体を少し弄ったような字体がレトロで可愛い。赤と朱の中間みたいな…

10月9日

朝、久しぶりに薄手のトレンチコートをハンガーから下ろした時の喜びを思い出す。今は椅子の背中にかけている上着。防寒具があるかぎり、寒さは常に私に味方する。なんて動きやすい季節だろうか。あらゆる魔法が適切にとどこおりなく機能する。狂ったような…

月の女神と羊飼い

一説によると、美男子エンデュミオーンも羊の群れを飼っていた。ギリシア神話で月の女神に見初められ、人間である彼の有限の命を惜しんだ彼女(あるいは、その嘆願を受けたゼウス)によって、ラトモス山の岩陰で永遠の眠りにつくこととなった人物。手元にあ…

誰もがいて誰もいない、インターネット

何か目的のもとに発されている音を、虫たちの側が意図しているようには、人間の側は受け取れない。知らない言語だからだ。音として存在しているものを認識できるので、いるのは判る。おそらくはこうだろうと予想することもできる。少なくとも研究者は仮説を…

抽斗の奥から、昔の手帳を取り出して中身を読む

抽斗の片付けをしていて、異なる段を開けるごとに「手帳」が出てくると気が付いた。手帳。何かを書き込むための冊子であり、高校入学から現在に至るまで、年度ごとに新調しながら私がいつも欠かさず持ち歩いているもの。基本、カレンダーの欄には予定が、自…

焚き火のそばに物語はあった

小さな火種から炎が徐々に立ち上がり、ゆるやかに(かつ、時にはこちらが考えるよりもずっと速く)縦横に広がって、揺らめく姿。火は半透明に見える。幾重のごく薄い布でできた、衣服にも。それに包まれて燃える薪が小さく爆ぜる音。生まれる高い温度と、煙…

言葉の寿命は人より長い / 魔法や知識を受け継ぐこと

数十年、数百年、あるいは千年以上前に書かれたものの一部が、現代を生きる自分にも難なく読める形式で周囲に存在していることを考えると、本当に途方もない。書き手がいなくなり、やがてその声や、眼差しや姿が忘れられても、書物は焼き捨てらたり引き裂か…

ル・クルーゼの鍋の伝説

旭川空港で黙々と腹ごしらえをしていたとき、不意にそれと邂逅する瞬間があった。羽田を発ってからおおよそ1時間半。首都圏から北海道の中心部まで、航路の発達により、どれほど体感距離が近くなったことか。到着後、2階にカレー屋があると聞いた私は喜び勇…

ベロア生地の、よそゆきの服

2022年の北海道では、特に内陸部の空知や上川方面などを中心に、晩夏の8月末から9月頭にかけて、とある「蛾」が大量発生していた。成虫が翅を広げると、最大で10センチ程度にもなる大きな蛾。ヤママユガ科に属しており、名前をクスサン、というらしい。何ら…

心的抑止力を弱める虚無感の効能について:「どうでもいい」って思えるから動けるとき、がある

試みが全部裏目に出てうまくいかないことが多く、自分自身の未来や世の行く末に対して、希望などの明るい展望をこれといって見出せないでいるとき。暗い気分というより、まったくの空白、虚無。そういう、どちらかというと諦念を抱いて投げやりな意識を持っ…

抽斗の奥から出てきた身に覚えのない万年筆が、驚くほど手に馴染む(なぜ?)

いにしえの時代から仕舞いっぱなしのものと、比較的新しい世になってから仲間に加わった文房具の交々が、時には整然と、またある時には雑多に横たわり、私が手に取るまで黙って行儀よくまどろんでいる。いや、むしろ爆睡している。肩を掴んでゆすぶっても、…

白いタオル地のぬいぐるみ

布団や、洋服や、人間に共通する点といえば、どれも「洗って乾かしたばかりの状態がいちばん好ましい」というところだ。多分。洗濯物を乾かすには太陽が要る。別に好きではないけれど、あれが空にいてくれなければ濡れたものを干せず、満足のいくまで乾かせ…

石畳、みどりの水、ゲイエレット姫……「茶房 土蔵」にて - 馬籠宿の米蔵を改装したレトロ喫茶店|岐阜県・中津川市

中山道六十九次の宿場のひとつ、馬籠宿は坂の上にあって、中心はきれいな石畳の道に貫かれている。けれどその色は黄ではなく、陽を受けると明るく輝く灰白色だった。石畳をどこまで辿ってもエメラルドの都には辿り着かない。でも、忍耐強く歩を進めて妻籠宿…

「死んだ方がいいんじゃない?」は誰の声なのか、という個人的な問題

公正世界誤謬。公正世界仮説、ともいう。正しい人が必ず報われる。だから報われなかった人は、すべからく正しくなかったのだ、という非常に特殊なはずの考え方。これが人間の集団においては、なぜか、いとも簡単に幅を利かせる。いっそ不気味なくらいに。常…

そのライ麦畑にて、私も存在を惜しまれたかった(と嘘をついてみるのだった)|サリンジャーの小説

一方、反対側の崖に腰を下ろして緩慢に足をぶらぶらさせている私は、短い間に何度も背後を振り返って、その美しい光景を眺めるのだった。もちろん、心底彼らを羨みながら。あんな風に気にかけられ、存在を惜しまれることで、どれほどに満たされるだろうかと…

べに色のあまく爽やかな水 モック - 太閤通の脇道に立つレトロ喫茶店|愛知県・名古屋市

立派に葉の茂った大樹が描かれた看板。その根の下にじっと目を凝らしてみると、モック、というカタカナの文字を構成しているパーツも、実は丸太なのだとすぐに気が付いた。まず、それだけでどきどきして楽しくなってしまう。頭の中で呟く。文字が、丸太でで…

7月18日(海の日と、物語の話、貝と人間)

私の場合、港湾都市に生まれたので昔から海は身近にあった。けれどどちらかというと苦手な場所で、その理由は、海に対して感じるものの多くが「癒し」よりも「畏怖の念」に基づくからかもしれない。不用意に生身で近づきたくないのだ、どうしても、油断して…

まあるいもの 珈琲王城 - 上野にあるレトロ喫茶店|東京都・台東区

上野の喫茶店、王城で提供されるメロンクリームソーダを構成する要素のうち、本体のソーダ水の部分……丸みを帯びたグラスの、輪郭の内側を見ていた。つるりとした曲線と色合いがカボションカットの翡翠を連想させるのだが、同時に水中で浮かぶいくつもの角ば…

ほとんど肉体的な行為としての読書について、雑感交々

食事みたいに、または運動みたいに、「直接身体に影響する行為である」という意味において本を読むのは肉体的な行為である。一般によく考えられている風に頭の中だけでは終わらないし、完結もさせてくれない。その内容が(無論、時には不完全に)消化され、…

7月1日(心的避暑地がプラネタリウム)

「私がここに存在しなければならない正当な理由」は無い。私でなければできないことなど何もない。全てに代替がきく、本当によくできた世界だ。何があるのかではなく、観測する人間がそれをどう解釈するのかがすべて。生まれてくることや生きることの意味な…

刻んだ玉ねぎとひき肉を炒め、数種類の豆と一緒にトマトの汁で煮込み、甘辛いスパイスを加えた料理。傍らには必ずうす茶色の食パンがあった。

その源流を辿ればメキシコに至ると推測される、現在はアメリカのテキサス州でよく食されている料理、チリコンカン。主に豆とひき肉とトマトで構成された、夏に食べても冬に食べても箸が……いいや、この場合は「匙」がすすむ、給食で出てくると嬉しい品目だっ…

言葉がヒトを残酷にする

言葉はいつも「本来であれば到底できるはずのないこと」を、いとも簡単に人にさせようとする。そして、結局できてしまう。なぜなら言葉の上でのことだから。残酷な話だ。だから私は毎日のように、言葉さえあれば、と、言葉さえなければ、の狭間でもがきなが…

光で動いてくれる腕時計

個人的に、食事、宿泊、それから航空券や電車の切符などの交通費……つまり性質として体験に直結するものに対しては、買い物という言葉をあまり積極的に使わない。それゆえ人生を通して「一番高い買い物」を思い浮かべるとするなら、文字通りの物品から選ぶこ…