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彷徨する自由帖

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赤屋根の「駅舎」- かつて太宰治も訪れた鉄道駅の建物は現在レトロな喫茶店|青森県・五所川原市

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 下の浅虫温泉宿泊記から続く、青森旅行の思い出の一端。

 

 

「世の中に、酒というものさえなかったら、私は或いは聖人にでもなれたのではなかろうか、と馬鹿らしい事を大真面目で考えて、ぼんやり窓外の津軽平野を眺め、やがて金木を過ぎ、芦野公園という踏切番の小屋くらいの小さいに着いて……(後略)」

 

(太宰治「津軽」(2022) 新潮文庫 p.193) 

 

 津軽五所川原から津軽中里までは、乗用車以外の移動手段として、津軽鉄道線が走っている。その芦野公園の駅舎に、昭和5(1930)年開業当時から残る貴重な建物が今も使われているのだった。2014(平成26)年12月には、国の有形文化財にも登録されるに至る。

 昭和19年、執筆のために改めて自身の出身地(金木)に近いこの土地を訪れた太宰治も、後の作品「津軽」の中で芦野公園駅に言及していた。「東京・上野の駅員が青森の芦野公園駅を知らず、30分ほど調べさせた末、金木町長がようやく切符を買えた」という逸話の紹介とともに……。

 コンピューターがなかった時代は遠方の駅名を検索するのも一苦労である。

 赤い屋根の小さな建物は、牧場の小屋を思わせる腰折れ破風の屋根が帽子のようで愛らしかった。どこか将棋の駒にも似ていないだろうか。以前の駅舎から喫茶店へと機能を変えたその内部も、黒光りする木の素材と古い看板の手書き文字が温もりを醸し出す、素敵な佇まい。

 


 喫茶店のフードメニューで気になったのは、やはりカレー。当ブログの管理人はカレーがとっても好きなのだ。

 激馬かなぎカレー、ビーフカレー、カレーサンドなどがある中、せっかく津軽に来たので「スリスリりんごカレー」を注文した。文字通りにすりおろしたりんごが入っているもので、果実の風味や甘さがスパイスの海に違和感なく溶け込み、とても美味だった。他の人にも安心しておすすめできる味。

 ちなみにりんごカレーは「辛口」も選べるようす。通常のものはどちらかというと「まろやか」寄りだったので、より温まりたい・強い刺激が欲しい場合はそちらにしてみるといいのかも。辛いりんごカレーなんてもう、絶対美味しいだろうなぁ。お腹が空いてきた。

 それから、ブラックコーヒーによく合うのが「厚焼き卵サンド」。こういう卵部分がフィリングではなく、しっかり卵焼き状になっているサンドイッチは実は成人してから知った存在で、できたてでも冷めても問題なく食べられるのだと悟った。駅舎で提供されているサンドの卵焼きには、ほんのりマヨネーズの風味が添えられている。満足。

 

 

 食べ終わって建物の外に出ると、踏切の遮断機が下りる際の警告音が響いてきた。次に、鮮やかなオレンジと濃緑の車両がプラットフォームへ進入してくるのが見える。あっ、は、走れメロス号……!

 これは津軽鉄道、津軽21形気動車の愛称になる。決して運行本数の多くない列車、狙っていたわけではなく偶然にも目撃できたのが嬉しかったので、運命の邂逅ということにしておいた。別に、運命ではない。

 喫茶店「駅舎」では乗車券、各種切符を記念に購入したり、そのまま持ち帰ったりすることができる。

 帰宅してから切符を家の枕の下に設置し、カーテンを開けて眠れば、もしかしたら昔の駅と鉄道の夢を見られるかもしれない。けれど夢で乗車してしまうと戻れなくなってしまう可能性があるので、プラットフォームからは離れないのがきっと吉。黙って去るのを見送ろう。車窓から太宰の横顔が見えたら、記憶にだけ刻んで目を覚ましたい。