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彷徨する自由帖

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妹背牛町をぶらぶら散策 - にわか雨・天然温泉・函館本線|北海道一人旅・妹背牛編(2)

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 昨年の夏、8月末に旅行した町の様子を思い出した。

 雪に閉ざされた今の時期は厳しいので、そのうち暖かくなったら、まだ行ったことがない人にも足を運んでみてと薦めたい静かな場所。

 北海道内で3番目に小さな町であるのだという。

 

前回:

 

 郷土館の見学を終えたら大通りに出て、北へ向かって歩いてみる。道道(どうどう。他の地域で言う「県道」や「府道」にあたる)94号線が描くゆるやかな曲線を、車とは違う、亀の速度で進む自分の足跡でなぞった。

 道路の幅に沿い、一定の間隔で頭上に矢印が掲げられているのは、市民から時に「矢羽根」とも呼ばれることがある標識。正式名称は「固定式視線誘導柱」になる。北海道や東北の一部地域に設置されているもので、路肩の線が積雪で隠されたり、吹雪で視界が不明瞭になったりした際など、ドライバーが自身の走行位置を見定めるのに役立つ。

 私の居住地域ではまず確認できない存在なので、興味深かった。特別なところにしか生息していない希少な動物を発見できたような気分になる。

 相変わらず雨はいきなり多量に降ったり止んだりしていて、現地で撮った写真を順に見返していても、その気まぐれな百面相は瞭然だった。とても同じ日に散策をした土地とは思えないくらいで、うん、ずいぶん歓迎されているなぁ、と思う。

 

 

 どうやらこの町には源泉掛け流しの天然温泉に入れる場所があるらしいと、来る直前に聞いて知っていた。施設の名前は「妹背牛温泉ペペル」という。

 名前の由来は自治体のHPにこう記載してあった。

 

『アイヌ語の“PE”(ぺ)「水」と“PERU”(ペル)「泉」を表すこの温泉を永く愛していただきたい!
 そうした願いから、明るく和やかなネーミング「ペペル」としました。
 温泉ペペルは豊富で良質な純天然温泉が湧き出しており、平成5年の開業以来多くのみなさまに愛され親しまれています。』

 

(「妹背牛温泉ペペル|観光」妹背牛町ホームページより)

 

 入館料は大人500円、必要なら受付でタオル(別料金)も買える。

 私が木曜日の午後1時半に訪れた時、女風呂の入浴客は他に2名ほどしかおらず、のんびり洗い場を使っていたらいつの間にか自分だけになっていた。空いていたのでかなりゆっくりできた。大浴場には広い通常の浴槽と、ジェットバスがある。また、使わなかったけれど露天風呂もあるようだった。

 温泉の外観は透明な湯にうっすら褐色がかっているような感じで、手触りは滑らか、かつ柔らかい。「ナトリウム塩化物・炭酸水素塩泉」と記載がある。それが苦手でなければ特に強い匂いも質感もないので、お湯の好き嫌いにかかわらず、気軽に入浴できるのではないだろうか。

 

 

 脱衣所から出たところに「レストラン 味処 米里(ベイリー)」がある。

 軽い飲食物から週替わりランチ、定食ほか、テイクアウト用メニューなど色々揃っているようだった。午前11:30から午後8 時まで営業しているが、訪れた時は確かランチ後、午後2時半頃からしばらく準備中になり、夕方に再び開店する方式で営業している様子だったので現地で確認してみてほしい。

 クリームソーダ(各種)があったため、嬉々としてメロン味を注文する。そこで通常サイズのストローが切れていたと店員さんに言われ、謎のゴン太サイズストローと共に提供してもらったのは地味に面白く、むしろこの方がソフトクリームを効率よく吸い込めて便利なのではないかと考えたくらい。

 あとは売店にて「ルバーブ」のジャムが販売されており、かつてロンドンに住んでいた頃の思い出が鮮やかに蘇ってつい買ってしまった。ルバーブという野菜には馴染みのない人も多いかもしれない。一応タデの仲間で、甘酸っぱい味がする。杏と梅の中間のような……。たぶん、英国などと気候が似ているため北海道でも容易に栽培できるのだろう。

 このジャムは家で美味しく食べた。個人的にはソーダ水に混ぜるのが好き。

 

 

 湯上りの散策は本当に楽しい。

 そもそも温泉での入浴である程度の体力を使っているはずなのに、入る前に比べて疲れるどころか、むしろ元気になった気がするのは不思議だった。基礎体力を度外視すれば、結局のところ身体を動かしているのは筋力よりも気力の方である……という証左なのかもしれない。夏の涼風がいっそう心地よく感じた。

 鉄道駅に向かって南下を続けると川を渡ることになる。

 これはメム川。芽生川とも書き、メムはアイヌ語で泉の湧き出ている場所や、古くは小川をも意味していた、と標識にはある。清い流れの水面下に水草が生えているのが見えて、岐阜の大垣で橋から水路を眺めた時にもそうだったように、脳裏には「竜の背中」が浮かんだ。水底の草は竜のたてがみに見えるのだ。

 橋のたもとには味のある、紺色の屋根の小屋が建つ。煙を逃がす銀色の細い煙突が伸びている。

 

 

 しばらく先へと進んだ角では似た色の屋根をした、けれども今度は看板が掲げられている、1件の商店へと行き当たる。堀口商店さんと書いてある。ファンタとコーラの上にある、白い円の中の白鳥らしきロゴは一体何のものだろう?

 かすれていて文字も不明瞭なのだけれど、どうやらアルファベット部分の文字は "Nichiryo" その下部に「日糧(にちりょう)パン」と記載されているようだった。

 検索してみると現在「日糧製パン株式会社」と呼ばれている、札幌市に本社を置く食品製造会社らしく、企業沿革では第2次世界大戦中の昭和18(1943)年が創業となっていた。設立当時の社名は「北海道報国製菓有限会社」であったらしい。なら、この看板は社名が変更された昭和34(1959)年以降に設置されたもののはず。

 白鳥マーク(今はもうない?)の「日糧製パン」は「セイコーマート」や「ソフトカツゲン」などと同じく、見れば北海道を連想できる、その土地ならではの存在みたいだった。

 日糧製パン株式会社はかつて本州にも進出していたものの、平成11(1999)年に撤退したという経緯がある。

 

 

 

 

 ……さーてさて、これこそ町歩きの醍醐味と言ってしまっても決して大げさではない、味のあるサインポールがとうとう出現した。ひとつは手書き風の赤青ペンキ塗りに筆字で「営業中」の看板、もうひとつは単なる3色の線ではなく、ポップなシューティング・スターの図柄と何かのロゴが印刷されているもの。あの柄で回転もするのだろうか。

 どちらも、他の場所ではまったく見かけたことがないものだった。

 決して民家の数が多くない妹背牛でも、適当に徘徊するだけで2件も美容室を見つけられる。散髪という行為がどれほど現代社会で必要とされているのか考えると、それにも頷けた。一般に生活を送るためには、髪型を整えなければならない場面が頻繁にある。いつでも伸ばし放題というわけにはいかない。

 美容室以外の数少ないお店で視界に入ってきたのは、さっきの堀口商店さんと、それから「もせうし旅館」と書かれた宿屋、あとは店舗に見えるけれどもう営業していなさそうな建物。玄関前に緑の草が生い茂っている。

 

 

 そして……

 個人的に今回の散策最大の発見、かなり喜ばしかったのは、土台の部分がひし形のドアノブとの出会いだった。握る部分は何の変哲もない銀色のドアノブなのに、扉の板に接している平たいところがトランプのダイヤを彷彿とさせる形状となっていて、目にした時はかなり高揚したのを憶えている。

 もしかしたら初めて見たかもしれない。とっても珍しい。素晴らしい~。好き。

 こういうものがあるから、町歩きは楽しい。行く前から目的を決めてそこに赴くのも良いけれど、やっぱり最高に気分の盛り上がる瞬間は、予想だにしなかった場所で予想外のよいものに邂逅できること。

 ドアノブの土台を視線で撫でまわすように、粘着質に眺めた。君の存在を絶対に忘れないよ。たとえ千年経っても覚えているから。

 

 

 それから看板集めもした。

 

 妹背牛温泉ペペルからJR妹背牛駅までは、徒歩で約15~20分程度。入浴前と入浴後に適度な散策ができる。

 ちなみにこの施設、2023年5月8日(月)~2024年4月26日(金)まで、ほぼ1年間にわたり休業する予定があるらしかった。どうやら施設内に新しく「サウナ」を設置するための大規模な工事がその目的とのことで、やはり温泉利用者の間でサウナは人気があるのだな、と自分は入らない人間なりに思う。

 サウナに惹かれてやってくる利用客が増えれば、きっと妹背牛町を訪れる人の数も増え、以前ブログに書いた郷土館だけでない町の魅力を感じる訪問者の数も増加するかもしれない。閑静で人も車も少なく、気分転換にぶらぶらしやすい地域だったのでおすすめ。

 駅に停車する列車は、JR函館本線。線路自体は函館駅から旭川駅までを結んでいるが、例えば妹背牛から札幌駅に向かう場合、大抵は岩見沢駅か滝川駅で乗り換えが必要になる。唯一の例外で、朝6時58分に発車する車両のみが、手稲駅まで向かう(2023年1月現在)。

 私は宿泊している旭川方面へ。こちら側はどの列車に乗っても旭川駅に到着する。

 

 

 車体に緑の線が入り、正面に電灯の灯った可愛い顔の車両がホームに進入してきた。3両編成。おでこに「普通」と表示されている。

 そもそも駅に改札がなく、ホームにも車内にも整理券を取る場所がないので利用方法に困惑していたら、巡回している車掌さんが親切に乗り方を教えて下さった。とりあえず乗車してから係員に申し出て、そこで降りる駅の名前を告げ、券を購入すればよいらしい。一刻も早く運賃を支払わないと犯罪者になってしまう、という心配を抱えながら車両の内部を彷徨っていたので、ほっとした。

 くれぐれも下車するまで券を無くさないように……。

 この日の朝は旭川から神居古潭に赴き、さらにそこから深川を経由して妹背牛まで足を延ばしたので、往路はかなり長い道のりに感じられた。けれど復路は経由地なしで、さらに鉄道を利用してみるとあっという間だった。寄り道も楽しいし、まっすぐ向かうのも速くて良い。

 

 

 ああ、この文字の形、大好きだな。

 何とも言えない趣が滲み出ている。

 

  • 旭川から妹背牛温泉ペペルへのアクセス

⑴旭川駅でJR函館本線に乗り、妹背牛駅から行く方法。

下車後、北北西へ向かって徒歩約16分。

 

⑵電車とバスを組み合わせて行く方法。

まず、旭川駅から深川駅まで出る(数種類の電車あり)。

その後、バス停「深川十字街」から空知中央バス「深滝線:雨竜経由(滝川駅前行)」に乗車。

※深川十字街のバス停は離れた2カ所にあるので注意!  空知中央バスが停車する方で待つ。

妹背牛小学校前で下車、そこから徒歩約6分。

 

 

前回:

 

北海道ひとり旅関連:

 

 

 

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