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彷徨する自由帖

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身不知(みしらず)の柿を食べた夜 - 居酒屋《ぼろ蔵》福島県・会津若松

明かりの灯った小さな店舗。古い蔵を改装し営業している居酒屋で、名前もそのまま「ぼろ蔵」という。飲みながら食べたものは揚げ餃子、ほっけの塩焼き、そして玄米おこげのチーズ焼き。どれも日本酒に合う美味しい料理だった。玄米おこげのチーズ焼きに関し…

小説作品が「不快なものを見て消費したい方にオススメ」という言葉で紹介され、出版社側のKADOKAWA公式がそれを特に是正せず引用していたこと

「限られた人生の時間を、わざわざ不快なものを見て消費したい方にオススメ」……この言葉が組み込まれた投稿を引用し、それに便乗する形で、公式アカウント「KADOKAWAさん@本の情報」により6つの作品が紹介された。これといった語句の訂正などが行われること…

あまいは砂糖の甘さに非ず

芳春が過ぎゆくと、徐々に桜の枝先から萌す新しい青い芽。それは、この時期に見られる中でも「あまい」ものの筆頭である。確かな光沢があるのに、どこかしっとりとした風貌。ごく細かい産毛でも生えているかのような表面。ある程度面積が増えると葉の表と裏…

【宿泊記録】窓に障子、中町フジグランドホテル - 七日町や栄町散策の拠点として|福島県・会津若松

11月の会津若松では、夜の空気は刺すような冷たさだった。文字通りに痛いくらいの。過ごしやすかった昼間の日差しが嘘のように、みるみるうちに天が青く、暗くなり、やがて思わず首を引っ込めてしまう程の容赦ない風が顔に吹きつけるようになる。宿泊したフ…

【宿泊記録】デュークスホテル博多 - 和・洋・粥から選べる朝食、駅西側から徒歩2分|九州・福岡ひとり旅

羽田を出、博多空港に到着してから筑豊の新飯塚に向かった日、旧伊藤伝衛門邸を見学してから夜にまた博多駅まで戻ってきた。翌日朝に小倉へ移動して、今度は田川伊田の三井炭鉱跡まで行くために。デュークスホテル博多は、予約サイトで見たロビーの写真がな…

文明と「非人情」とつやつやの羊羹 - 夏目漱石《草枕》日本の近代文学

「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」この作品の冒頭は至るところで引用されている。……が、せっかく「草枕」が全体を通して大変にキレッキレで面白い文章の集積であることを考えると、冒頭だけが…

水の町・大垣に建つ城と、謎多き関ケ原ウォーランドへ……|岐阜県南部旅行(4)

外を歩けば目に入るのは、町並み全体を俯瞰する城が一つ。言うまでもなく大垣城である。今では本丸と天守の周辺が公園となっている程度の広さだが、かつてはその三倍以上もの面積を誇る、堅牢な一大要塞だった。町中にグルグルと張り巡らされた水路もその名…

体感するモダンアート《養老天命反転地》と大正時代の擬洋風駅舎|岐阜県南部旅行(3)

目指すは養老—―鎌倉時代に編纂された古今著聞集内の「養老孝子伝説」で語られ、後に名水百選にも選出された美しい滝と、名産品・瓢箪(ひょうたん)制作の文化が脈々と受け継がれている土地。 実は出発前、そこには不思議な芸術作品があると小耳に挟んでいた…

記事を寄稿しました:以前は名の知れた歓楽街、柳ヶ瀬。その隆盛を偲びつつ商店街の小路を歩く - WEBメディア〈すごいお雑煮〉へ

久しぶりに外部で執筆した記事の紹介です。先日、webメディア〈すごいお雑煮 - 地味に役立つニュースサイト〉さんにて、岐阜旅行中に見つけた一角「柳ヶ瀬商店街」を紹介したものを掲載していただきました。以下が記事へのリンクになります。まず、念願だっ…

金華山に鎮座する岐阜城、正法寺の籠大仏、伊奈波神社めぐり|岐阜県南部旅行(2)

特に斎藤道三と織田信長にゆかりあるこの山と城は、名を変えたり焼失したりしながらも、戦国の時代から続くこの岐阜の地を俯瞰し続けてきた。しかし、美濃を制す者が天下を制す――とまで言われた難攻不落の城といえど、決して不滅ではない。現在の天守は昭和…

川原町の情緒ある風景と喫茶店、そして近代の洋風建築を見に|岐阜県南部旅行(1)

日本三大河川の一つに数えられる美しい長良川は、毎年5月から10月頃にかけて、伝統的な鵜飼(うかい)の行事が行われる舞台でもある。その静かな流れと深い青緑色には用が無くても足を止めざるを得ない。豪雨が降れば水位は増し、古来から災害を恐れてきた人…

熱海銀座で"1mmモンブラン"が食べられるお店《和栗菓子 kiito-生糸-》に遭遇する|静岡県・熱海市

たしか雨宿りをするのにちょうどいい店を探していて、この「和栗菓子 kiito-生糸-(きいと)」というモンブランのお店に出会ったのだった。テーブルにつくと、想像以上にきちんとした感じに驚き、同時にわくわくする。全然何も知らずに入ったのでなおさら。…

筑豊のローカル鉄道・日田彦山線に乗車して「田川伊田駅」へ - かつて石炭を運んだ路線|ほぼ500文字の回想

筑前と豊前の間に位置し、それらの頭文字を取って筑豊(ちくほう)と称されるようになった地域。明治28(1895)年に開業した豊州鉄道をはじめ、筑豊周辺の鉄道路線は「炭鉱」の隆盛と共に発展したのだと調べるほどに実感する。石炭を船に積んで川を下った頃か…

起雲閣の目の前……小さな甘味処《福屋》でティーフロートとお蕎麦を|静岡県・熱海市

起雲閣の玄関に続く薬師門を出たところ、道路を挟んだ向かいに甘味処があるのは以前から知っていて、けれど実際に入ってみたのは初めてだった。付近を通るたび視界に入っていたのは、スピルバーグ監督の映画「E.T.」に登場する宇宙人を象った人形の存在。そ…

自分の人生を送るのに、何かの許可をもらったり、誰かを納得させたりする必要はなかった

私に何の関係もない人達が、口々に「人の話はためになるから聞いておいた方が良い」などと言いながら、私の等身大の在り方に横槍を入れてくる。その言葉をありがたがって聞いて、何かが変わった結果、不利益を被っても誰一人として責任など取りはしない。妙…

太宰治生家「斜陽館」旧津島家住宅の迷宮じみた邸内、欅の大階段 - 作家が故郷に抱く複雑な思い|青森県・五所川原市の近代遺産

// 没落した元華族のとある家庭と、そこにいた母、娘、息子それぞれの軌跡を描いた小説に「斜陽」がある。 終わるひとつの時代に、かず子の恋と革命と、直治の遺書。 昭和22(1947)年に新潮社から出版された。 これにちなんで太宰治の生家——旧津島家住宅は斜…

ダイアナ・ウィン・ジョーンズ《牢の中の貴婦人》私達も格子の内側から世界を見ている|ほぼ500文字の感想

突然、ここではない別の世界、いわゆる異世界に迷い込む。そこでは誰も自分を知らず、特に誰かから呼び出されたわけでもない身の上は、周囲の何にとっても些細な存在として扱われる。何かの「役割」もなければ、特殊な「能力」もない。近現代(と想定される…

夢野久作《鉄鎚》など彼の作品に「電話」が与えた影響と魅力と - 門司電気通信レトロ館(旧逓信省の建物)|日本の近代文学

……リンリン、リリリン……リンリン、リリリン……リンリン、リリリリリリリリ……。電話という道具、通信の手段は、100年前に比べれば随分と身近になった。電波の届く場所でならほとんど、いつでも誰とでも会話できる便利な状況が、むしろ煩わしく感じられる程度に…

ギザの偉大な人面獅子像 - 旅先の風景は、ただそこにある現実|エジプト・カイロ紀行

特にどこへも行かず過ごしている期間、ギザの大スフィンクスは、いわゆる現実から遠く離れた存在の筆頭だったと思う。幼少期に学習漫画を読んで以来、数々の考古学、文明の本や番組に触れて以来、長らく心の一角に住み続けていた空想世界の住民。地球上にあ…

人を喰う城郭

音を吸う存在としてよく話題に上るのは雪だが、実際のところ、石も似たようなものだと思う。特に、柔らかいもの。表面が磨かれておらず微細な穴が開いていたり、経年による風化で、少なからず傷が付いていたりするものが。それに気付かされたのが多分この場…

ひるまの電飾がたたえた光は不自然で妖しい|イングランド北部・リーズ (Leeds)

曇った空の下では、ものの姿が必要以上に強調されて、やけに「はっきり」と見える。色も形も。単純な光量の点では、雲が太陽を隠していない時よりも劣るはずなのに、ずっと明瞭に。とても不思議なことだった。暗闇とまた、全然違う。誤解を招くのを承知で言…

柘榴・サマルカンド - ウズベキスタン紀行

人生を通して、私がはじめて柘榴(ざくろ)という果物を口にしたのが、中央アジアに位置するウズベキスタン旅行の最中だった。場所はたしか、古都サマルカンドの片隅に建つふつうの民家の離れを利用して、ささやかに営まれているレストランだったと記憶して…

これまでの【海外旅行・散策】記事まとめ

掲載している国はイギリス、ノルウェー、エジプト、マルタ、ウズベキスタン。一部、イギリス留学期間中(2016~2018)の散策を後に記録したブログも含みます。ここにあるのはすべてが読まれてほしい記事、大切な思い出の証明。まだここにまとめられていない…

合法的邸宅立入は罪にならない - 千葉市ゆかりの家・いなげ(旧武見家住宅)大正初期|稲毛区の近代建築

千葉県千葉市稲毛区、旧神谷伝兵衛稲毛別荘から歩いて数分のところに、旧武見家住宅がある。見学は無料で、所定の休館日を除けば年間を通して公開されている施設。現在は「千葉市ゆかりの家・いなげ」という名称で市に管理されている地域文化財。大正2(1913)…

柳広司「トーキョー・プリズン」人間の《本質》という儚い幻想への憧憬|ほぼ500文字の感想

状況が変われば、人はあらゆることを実行できてしまう。「狂気」という言葉は便宜的に使われるが、では「正気」とは? 何がそれを定義できるというのだろう。100人のうち1人だけが正気であるとするならば、その1人はなんと、狂っていることになるのである。

例えば赤い貝殻や、角が取れて氷砂糖じみたガラス、陶磁器類の欠片とか

// 風速が5メートル程度ある晴れた日に、沖から寄せる波が砂浜を噛む音は、少し離れたところに居る人間の声を簡単にかき消すくらい大きいのだと知った。 威嚇をされている。 わざわざ干潮の時間に合わせて行った背景もきちんと見抜かれていたはずで、ざざん…

旭川遊歩の回想、とめがき【2】零雨の平らな街と古い銭湯

// 羽田空港を出発し、津軽海峡上空を通過したあたりで眼下、飛行機の窓一杯に見える北海道は、視界の及ぶ限り山々のうねりで構成されている。 季節にもよるのだろうけれど夏だとかなり濃い緑で、むしろ黒い、と言ってしまっても間違いではないような深い色…

旭川遊歩の回想、とめがき【1】出来秋の紅輪蒲公英

晩夏も過ぎた頃の旭川に4日間、いた。合計で3度の夜を越したと書こうとして、辞書を引いたら「夜越(し)」なる言葉が存在していたのを知る。その意味のひとつに「夜中に山河を越すこと」というものがあったので、ぼんやり光景を想像し、可能ならぜひともそ…

COFFEE SHOP FUJI(喫茶富士)- 薄水色をしたクリームソーダ、しなやかな猫の気配があるレトロ喫茶店|千葉県・松戸市

JR松戸駅の西口を出たら、歩行者デッキの階段を下りて、線路沿いに道路を北へ。2分程度歩くと左側、角を曲がってすぐの場所に見えてくる。通りに面した大きな四角い窓に植物の葉が茂り、レンガ風の壁の上には、青と橙の細いしましまで彩られた庇がある店舗が…

J・P・ホーガン「星を継ぐもの」かつては現実に思えた夢の名残り|ほぼ500文字の感想

本棚から創元SF文庫「星を継ぐもの」が出てきた。J・P・ホーガンの著作で日本語訳は池央耿。《巨人たちの星シリーズ》3部作の、第1部だった(しかし、かなり後になって新しく第4部が発行されている。さらにそれ以降の続刊は日本語に訳されていない)。読む…