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彷徨する自由帖

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旅行とお散歩

色々な世界の見聞録

鉄道、辨當、食堂車|ほぼ500文字の回想

お弁当に限らず、旅客を乗せ中距離以上を走る鉄道と食事とは不可分で、現在と異なり20世紀までは多くの路線で「食堂車」を有した列車が運行していた。在来線の特急でも。まるっきり私の記憶にはない時代。夏目漱石の小説「虞美人草」にも食堂車の「ハムエク…

身不知(みしらず)の柿を食べた夜 - 居酒屋《ぼろ蔵》福島県・会津若松

明かりの灯った小さな店舗。古い蔵を改装し営業している居酒屋で、名前もそのまま「ぼろ蔵」という。飲みながら食べたものは揚げ餃子、ほっけの塩焼き、そして玄米おこげのチーズ焼き。どれも日本酒に合う美味しい料理だった。玄米おこげのチーズ焼きに関し…

【宿泊記録】窓に障子、中町フジグランドホテル - 七日町や栄町散策の拠点として|福島県・会津若松

11月の会津若松では、夜の空気は刺すような冷たさだった。文字通りに痛いくらいの。過ごしやすかった昼間の日差しが嘘のように、みるみるうちに天が青く、暗くなり、やがて思わず首を引っ込めてしまう程の容赦ない風が顔に吹きつけるようになる。宿泊したフ…

【宿泊記録】デュークスホテル博多にて - 和・洋・粥から選べる朝食、駅西側から徒歩2分|九州・福岡ひとり旅

羽田を出、博多空港に到着してから筑豊の新飯塚に向かった日、旧伊藤伝衛門邸を見学してから夜にまた博多駅まで戻ってきた。翌日朝に小倉へ移動して、今度は田川伊田の三井炭鉱跡まで行くために。デュークスホテル博多は、予約サイトで見たロビーの写真がな…

水の町・大垣に建つ城と、謎多き関ケ原ウォーランドへ……|岐阜県南部旅行(4)

外を歩けば目に入るのは、町並み全体を俯瞰する城が一つ。言うまでもなく大垣城である。今では本丸と天守の周辺が公園となっている程度の広さだが、かつてはその三倍以上もの面積を誇る、堅牢な一大要塞だった。町中にグルグルと張り巡らされた水路もその名…

体感するモダンアート《養老天命反転地》と大正時代の擬洋風駅舎|岐阜県南部旅行(3)

目指すは養老—―鎌倉時代に編纂された古今著聞集内の「養老孝子伝説」で語られ、後に名水百選にも選出された美しい滝と、名産品・瓢箪(ひょうたん)制作の文化が脈々と受け継がれている土地。 実は出発前、そこには不思議な芸術作品があると小耳に挟んでいた…

金華山に鎮座する岐阜城、正法寺の籠大仏、伊奈波神社めぐり|岐阜県南部旅行(2)

特に斎藤道三と織田信長にゆかりあるこの山と城は、名を変えたり焼失したりしながらも、戦国の時代から続くこの岐阜の地を俯瞰し続けてきた。しかし、美濃を制す者が天下を制す――とまで言われた難攻不落の城といえど、決して不滅ではない。現在の天守は昭和…

川原町の情緒ある風景と喫茶店、そして近代の洋風建築を見に|岐阜県南部旅行(1)

日本三大河川の一つに数えられる美しい長良川は、毎年5月から10月頃にかけて、伝統的な鵜飼(うかい)の行事が行われる舞台でもある。その静かな流れと深い青緑色には用が無くても足を止めざるを得ない。豪雨が降れば水位は増し、古来から災害を恐れてきた人…

熱海銀座で"1mmモンブラン"が食べられるお店《和栗菓子 kiito-生糸-》に遭遇する|静岡県・熱海市

たしか雨宿りをするのにちょうどいい店を探していて、この「和栗菓子 kiito-生糸-(きいと)」というモンブランのお店に出会ったのだった。テーブルにつくと、想像以上にきちんとした感じに驚き、同時にわくわくする。全然何も知らずに入ったのでなおさら。…

筑豊のローカル鉄道・日田彦山線に乗車して「田川伊田駅」へ - かつて石炭を運んだ路線|ほぼ500文字の回想

筑前と豊前の間に位置し、それらの頭文字を取って筑豊(ちくほう)と称されるようになった地域。明治28(1895)年に開業した豊州鉄道をはじめ、筑豊周辺の鉄道路線は「炭鉱」の隆盛と共に発展したのだと調べるほどに実感する。石炭を船に積んで川を下った頃か…

起雲閣の目の前……小さな甘味処《福屋》でティーフロートとお蕎麦を|静岡県・熱海市

起雲閣の玄関に続く薬師門を出たところ、道路を挟んだ向かいに甘味処があるのは以前から知っていて、けれど実際に入ってみたのは初めてだった。付近を通るたび視界に入っていたのは、スピルバーグ監督の映画「E.T.」に登場する宇宙人を象った人形の存在。そ…

太宰治生家「斜陽館」旧津島家住宅の迷宮じみた邸内、欅の大階段 - 作家が故郷に抱く複雑な思い|青森県・五所川原市の近代遺産

// 没落した元華族のとある家庭と、そこにいた母、娘、息子それぞれの軌跡を描いた小説に「斜陽」がある。 終わるひとつの時代に、かず子の恋と革命と、直治の遺書。 昭和22(1947)年に新潮社から出版された。 これにちなんで太宰治の生家——旧津島家住宅は斜…

夢野久作《鉄鎚》など彼の作品に「電話」が与えた影響と魅力と - 門司電気通信レトロ館(旧逓信省の建物)|日本の近代文学

……リンリン、リリリン……リンリン、リリリン……リンリン、リリリリリリリリ……。電話という道具、通信の手段は、100年前に比べれば随分と身近になった。電波の届く場所でならほとんど、いつでも誰とでも会話できる便利な状況が、むしろ煩わしく感じられる程度に…

ギザの偉大な人面獅子像 - 旅先の風景は、ただそこにある現実|エジプト・カイロ紀行

特にどこへも行かず過ごしている期間、ギザの大スフィンクスは、いわゆる現実から遠く離れた存在の筆頭だったと思う。幼少期に学習漫画を読んで以来、数々の考古学、文明の本や番組に触れて以来、長らく心の一角に住み続けていた空想世界の住民。地球上にあ…

ひるまの電飾がたたえた光は不自然で妖しい|イングランド北部・リーズ (Leeds)

曇った空の下では、ものの姿が必要以上に強調されて、やけに「はっきり」と見える。色も形も。単純な光量の点では、雲が太陽を隠していない時よりも劣るはずなのに、ずっと明瞭に。とても不思議なことだった。暗闇とまた、全然違う。誤解を招くのを承知で言…

柘榴・サマルカンド - ウズベキスタン紀行

人生を通して、私がはじめて柘榴(ざくろ)という果物を口にしたのが、中央アジアに位置するウズベキスタン旅行の最中だった。場所はたしか、古都サマルカンドの片隅に建つふつうの民家の離れを利用して、ささやかに営まれているレストランだったと記憶して…

これまでの【海外旅行・散策】記事まとめ

掲載している国はイギリス、ノルウェー、エジプト、マルタ、ウズベキスタン。一部、イギリス留学期間中(2016~2018)の散策を後に記録したブログも含みます。ここにあるのはすべてが読まれてほしい記事、大切な思い出の証明。まだここにまとめられていない…

合法的邸宅立入は罪にならない - 千葉市ゆかりの家・いなげ(旧武見家住宅)大正初期|稲毛区の近代建築

千葉県千葉市稲毛区、旧神谷伝兵衛稲毛別荘から歩いて数分のところに、旧武見家住宅がある。見学は無料で、所定の休館日を除けば年間を通して公開されている施設。現在は「千葉市ゆかりの家・いなげ」という名称で市に管理されている地域文化財。大正2(1913)…

旭川遊歩の回想、とめがき【2】零雨の平らな街と古い銭湯

// 羽田空港を出発し、津軽海峡上空を通過したあたりで眼下、飛行機の窓一杯に見える北海道は、視界の及ぶ限り山々のうねりで構成されている。 季節にもよるのだろうけれど夏だとかなり濃い緑で、むしろ黒い、と言ってしまっても間違いではないような深い色…

旭川遊歩の回想、とめがき【1】出来秋の紅輪蒲公英

晩夏も過ぎた頃の旭川に4日間、いた。合計で3度の夜を越したと書こうとして、辞書を引いたら「夜越(し)」なる言葉が存在していたのを知る。その意味のひとつに「夜中に山河を越すこと」というものがあったので、ぼんやり光景を想像し、可能ならぜひともそ…

COFFEE SHOP FUJI(喫茶富士)- 薄水色をしたクリームソーダ、しなやかな猫の気配があるレトロ喫茶店|千葉県・松戸市

JR松戸駅の西口を出たら、歩行者デッキの階段を下りて、線路沿いに道路を北へ。2分程度歩くと左側、角を曲がってすぐの場所に見えてくる。通りに面した大きな四角い窓に植物の葉が茂り、レンガ風の壁の上には、青と橙の細いしましまで彩られた庇がある店舗が…

椿の絵ろうそく:福島県・会津若松土産

透明な袋に包装されていた状態から本体を取り出し、少し顔を近付けてみると、意外にもはっきりとした匂いが認識できた。香りのつけられていない、素の蝋燭の匂い。独特で、どこか懐かしく、他の何にも似ていないと思う。手に持って矯めつ眇めつ、触りながら…

妹背牛町をぶらぶら散策 - にわか雨・天然温泉・函館本線|北海道一人旅・妹背牛編(2)

郷土館の見学を終えたら大通りに出て、北へ向かって歩いてみる。道道(どうどう。他の地域で言う「県道」や「府道」にあたる)94号線が描くゆるやかな曲線を、車とは違う、亀の速度で進む自分の足跡でなぞった。道路の幅に沿い、一定の間隔で頭上に矢印が掲…

会津名物「ソースカツ丼」とカツを模したお菓子 - 近代から現代に受け継がれてきた味|福島県・会津若松

福島県は会津。先日に初訪問を果たした会津若松では、ソースカツ丼が地元の名物として紹介されていた。ここでは昭和5(1930)年に「若松食堂」が提供を開始したのがその起こりとされ、15年後の昭和20(1945)年には続いて「白孔雀」食堂が、丼の直径よりも大きな…

天鏡閣 - 窓が多く塔屋が印象的な白い明治の洋館、湖の傍に建つ旧別邸|福島県・猪苗代

令和5年現在、天鏡閣は年末年始であろうと関係なく「無休」で公開されているのがかなり意外だった。本当に年中無休。ここは会津若松に隣接する地域で、寒いとすっかり雪に閉ざされてしまう地域の印象があったため……。それでも、辿り着ける人は辿り着くのだろ…

【文学聖地&近代遺産】ごく個人的な物語を往来するための巡礼記録:2022年

これまで1度も歩いたことのなかった土地の数々へ、2022年も足を運んだ。「足を運んだ」というよりか「足を使って自分の身体をせっせと遠方へ運んだ」とも表現できる。各種公共交通機関や、乗用車の力を借りながら。まぁ別にどちらでも意味は変わらない。いつ…

深川駅のウロコダンゴ - 国鉄留萠線(留萌本線)の開通を記念し、大正2(1913)年から売られている和菓子|北海道一人旅・深川編

外箱を裏返してこのお菓子の来歴を読んだ。どうやら、明治に開通した留萌(るもい)線がウロコダンゴの誕生する契機となったらしい。残念ながら赤字により、今後2023年から2026年にかけての段階的な廃線が決定している留萌本線だが、その始まりは明治43(1910…

ウクラン ポロンノ ウパシ アシ(ukuran poronno upas as)

2022年12月中旬、15日からだいたい1週間程度の期間。この時期には珍しい、異例の寒波と大雪に見舞われていたのが北海道南部の函館だった。現地は通常なら師走半ばの降雪量が少ないとされる地域で、それにもかかわらず、平年の3倍を超えるほどの積雪が観測さ…

赤屋根の「駅舎」- かつて太宰治も訪れた鉄道駅の建物は現在レトロな喫茶店|青森県・五所川原市

津軽五所川原から津軽中里までは、乗用車以外の貴重な移動手段として、津軽鉄道線が走っている。その芦野公園の駅舎に、昭和5(1930)年開業当時から残る貴重な建物が今でも使われているのだった。2014(平成26)年12月には国の有形文化財にも登録されるに至る。…

【宿泊記録】潮と湯の香る浅虫温泉、辰巳館 - 半宵に星の流れる音を聞く|青森県・青森市

浅虫温泉で泊まっていた旅館が、辰巳館。夕闇に輪郭を溶かす姿は、まるで海の生き物が住んでいるお城みたいだった。字の書かれた看板だけがあやしく魅力的に光って。また不思議と、払暁を迎えてから明るい場所で眺めてみても、同じようにそういう印象を抱く…