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彷徨する自由帖

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なだらかな眉山の曲線や、旧百十四銀行徳島支店が持つ直線|四国・徳島県ひとり旅(6)

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前回:

 

 美馬市脇町から、ふたたび徳島市内へ。

 

 

眉山公園

 

 まゆのやま……。

 その「形状」から眉山と名付けられた山だと聞き、新町橋の側に立って、泰然とした姿を見上げた。手前にあるビルの「探偵社」や「カメラ高価買取」などという文字列につい気を取られてしまうが、違う違うそっちじゃないよと自分に言い聞かせる。道路はほとんど真っ直ぐに、麓の阿波おどり会館まで伸びている。

 四国は瀬戸内海に面したひとつの陸地で、名前を挙げられれば真っ先に浮かぶのは海原なのに、実際に地図で地形を表示してみると「山地」の印象がより強くなる。日本列島のほとんどの地域と同じだ。ここも山地の面積がかなり大きくて、わずかに、比較的平らかな部分を中心に街ができている。海の香りと山の香りが同時にしてくる贅沢なところ。

 徳島県には吉野川があるから、それがまるで東西を貫く杭のように、谷を切り開いているのも目に留まった。杭の先端は三好市方面で、頭部分は徳島市方面。頭の方からは道路が伸びて鳴門、淡路に繋がっており、さらに港から出る船は和歌山、北九州、さらに東京の有明までを結んでいる。

 ロープウェイに乗って眉山公園の方まで上がれば街を一望できるらしい。標高、約290メートル。

 

 

 名前が「あわぎん眉山ロープウェイ」で、阿波銀行のキャラクター・ロダン君(白い犬……?)が車体にプリントされていた。阿波踊りに興じている場面のイラストらしい。

 それにしてもロープウェイのゴンドラ、普通に存在するからごく普通に乗ることができる「普通の乗り物」なのにもかかわらず、改めて考えてみればみるほど興味深いと思う。形も、仕組みも。そもそもロープ状のもので吊るされている丸みを帯びた箱が斜面をゆっくり移動する、この絵面にはかなりどきどきするし、いっそ幻想的ですらあった。

 大きな空気の泡に包まれて移動するようなものだと思う。だから不思議。夢想の中に出てくる乗り物のようだと感じる。しかも四面に透明な窓がついていて、周囲の風景を眺められるなんて、魔法そのもの。そして、ゴンドラ車内ではなにやら眉山ゆかりの歌が流れ始めた。

 降車して公園の方に出てみると「マムシ注意」の看板を発見。蝮、こわいねえ!

 危険なヘビさん退散~。魅力的な生き物だけれども仮に鋭い牙で噛まれてしまったら人間はひとたまりもないのだった。痛みと苦悶で叫びながら街中を走り回ることになってしまう。うるさくて、徳島の街を追い出される。

 

 

 空気の澄んだ日にはここから淡路島や紀伊半島までもを見渡せる程度の高さ、この日は少し遠くが霞んで見えて、それもまた綺麗であった。暮れの春に訪れたので、もしかしたら花粉飛散の影響もあったのかもしれない。恐ろしや花粉。あとは季節柄、元気に虫が飛んでいた。

 崖下を見下ろすとそのあたり一帯に赤みのかった花が咲いている。時期的に4月下旬だったので、きっとサツキではなくて、ツツジ。彼らはとてもよく似ていた。過去、祖母に連れられて行った散歩でよく花の蜜を吸っていた頃のことを思い出す。あとは周辺を見回してみると、おそらくは桜の樹から落ちてきたのであろう「実」が、そこかしこに散らばっていた……小指の爪くらいの大きさの、コロンとした紅い玉。

 ……ここに来たのはちょっとやりたいことがあったからで、早速目的を果たすためにそそくさと公園の隅の方に向かい、長財布からアクリルスタンドを出した。500年以上前の瀬戸内海にゆかりのある人達だよ。

 案内板の上に乗せて記念写真を撮る。

 うん良い表情! もちろん印刷された絵だから、いつもと全く変わらない表情!

 

 

 満足したので麓に下りて、今度は阿波おどり会館にお邪魔した。

 ここでとても面白いと思ったのは、実際に「いつでも楽しめる阿波おどり」が施設の特徴として挙げられているとおり、本当の本当に毎日阿波踊りの実演が行われているところ。毎日。旅行者にとってはたいへんありがたい存在である。

 公式サイトに記載されている基本のタイムテーブルは

 

おどらなそんそん阿波おどり(昼公演)
11:00・14:00・15:00・16:00

毎日おどる阿波おどり(夜公演)
20:00

 

 ……で、徳島滞在中の大体いつ頃に行っても公演を見ることができる。

 実際に解説を聞きながらパフォーマンスに触れる利点は、使われている楽器や基本的な動きについての知識を与えられることで、ぼんやり眺めているよりも数段面白く感じられることだと思う。現地を訪れたらとりあえず覗いておいて損はない。

 

旧百十四銀行徳島支店

 

 阿波おどり会館から少し歩いたところ、商店街の一角にもう使われていない建物がある。

 もともとこの東新町には百十四銀行徳島支店があった。それが現在は阿波富田の「かちどき橋」方面へと移転になったため、使われなくなった建物だけがそのまま残されている。石積み風のかっちりとした佇まいで、入口両脇の照明器具も気になって……何より、剥がされた文字の「影」がいまだ壁に張りついているところなんて相当に魅力的で足が止まる。かつてあったものの不在を感じさせられる痕跡は大抵、好きだ。

 もう移転から10年以上たっているこの銀行の建築は、昭和29(1954)年竣工とのこと。戦後のものとはいえかなり古いものであることには疑いがない。近代建築の仲間として捉えてしまってもよいかな。

 このまま商店街に残しておくのであれば、地域のために活用されないだろうか、と希望するけれどどうだろう。また行く時までに残っているか、近くを通る際には様子を見てみるつもり。

 

 徳島市内には古くて素敵な喫茶店が沢山あるので、そちらもおすすめ。

 

 

徳島ひとり旅の記録を(1)から読む: