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彷徨する自由帖

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花に道を交える様子

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 風に散らされた花びらの滞空時間は意外と長い。

 無為に眺めていると、いつまでも地面につかず宙を漂っている。ひとつに視線を注ぐのに飽きる暇もなく、今度は別の一枚が、また斜め上から降ってきて舞う………そんな風に延々と絶えることがなかった。

 遊歩道と言ってよいのか分からないが、家の近隣の住宅地裏にある、舗装された一角に沿って桜の樹が植えられている。おそらくは区域を分かりやすくするために、そこだけ地面の色も少し変えられておりほんのりと赤い。

 歩行するための狭い道なので敷物を広げられるような面積はなくて、ゆえに昼間は花見目的の人間が集まることのない場所だった。

 そこを誰もが通り過ぎていく。わずかに湾曲して屋根のようになった枝の、花を溢れるほどに抱えた腕の下を。

 周辺の様相が変化し始めるのは、陽が落ちてしばらく経ってから。

 等間隔に設置された街灯が、木々の間に紛れるようにして灯る。すると、歩道の先や脇に逸れる階段の方から、ぽつりぽつり人々がやって来たかと思えば、立ったまま(あるいは歩きながら)桜の花を観賞する光景が見られるようになる。

 この様子、また雰囲気は非常に面白いもので、混雑が発生する昼間の花見会場よりも私はずっと好きだった。ほとんどが集団で押し寄せるのではなく、多くても2人か3人までがひとつの単位で、各々の滞在時間もごくわずか。

 特に面白いのは、犬の散歩のついでに花を見に寄る人達。夜なので懐中電灯を持っていたり、犬の首輪を光らせたりしている。

 それから、夜桜の写真を撮りたいのかスマートフォンを顔の上へとかざす人達も。ときどき彼らの手元が明るくなって、自分の目を引く。濃い藍色の空の下で。

 風に散る花びら越しに、まばらな人影や点滅する光を眺めていると、どういうわけか普通ではない催しが行われているような気がしてくる。集い……というにはまばらすぎる。桜の樹と花を目印にして、普段は違う国を往く旅人同士が不意に邂逅した瞬間のような、複数の道が確かにここで交わるのだという不思議な実感がある。

 その時間、その場所で花を見る、ただ『一点』においてのみ見出される交差点。

 

 

 

 

 

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