東京、墨田の旧本所で「豆板」というお菓子を作っている会社の、周囲から会長と呼ばれていたおじいさんと話した。
初めて訪れた喫茶店の常連さんだった。
会長……とは何をする役職なのだろう、私はよく知らない。
その人のお父様が昭和2(1927)年に創業した製菓会社だと仰っていたので、もしかしたら2代目社長で、今は席を後継の3代目に譲って会長を務めているのかもしれない。
そのあたりはどちらでも会話に影響しないので、聞かなかった。
面白かったのが、若い頃に色々スポーツに取り組んでみた結果、チームプレーというものが持つ「しがらみ」の要素がどうしても気になるようになってしまい、最終的に個人で黙々と斜面を滑る「スキー」に落ち着いたと言っていたところ。
スキーか。
あれこれやったのは良いけれど、特にどれも極めることなく終わったと笑っていた。
当初70代くらいの方かと思っていたら「89歳」と教えられて、単純に驚く。とてもそうには見えず、尋ねた質問にも丁寧に答えてくれ……。
肝心の豆板(初めて食べた)は、煮詰めた糖蜜のコクと、丹念に炒られたピーナッツの香ばしい風味がさくさくした生地に練り込まれ、凝縮されていたのが美味だった。
硬めの本体をゆっくりじっくり噛むと、口の中に濃厚な味が広がっていく。
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