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彷徨する自由帖

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猟奇、パッション、果物の甘い香り|ほぼ500文字の回想

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「なんと、うまそうなつらだ」


(ちくま文庫「グリム童話(上)」グリム兄弟編纂 収録「ヘンゼルとグレーテル」より p.63 Kindle版)

 

 鹿児島県産のパッションフルーツ3個入りを買って以来、毎日彼らを眺めてこう考えている。

 情熱、ではなくて「受難(パッション)」の果実というのもなかなか面白い名前で、それが「磔刑」の十字を連想させる花の形状に由来する(トケイソウ属の仲間なのだ)……と知ってはいても、どうしてもプラ容器に収められた3つの実が、身を寄せ合って何らかの苦難に耐えているように思えてきてしまう。

 ああ、早くお前さん達を食っちまいたいなぁ……。

 

 どうして今すぐ食べてしまわないのかというと、実がより熟し、皮の表面にシワが多く観測されてからの方が、味が甘くなるらしいから。この、食べることを目的にして果実が熟すのを待つ、というのは、なかなか猟奇的な日常の一幕かもしれない。

 ヘンゼルにご馳走を振る舞って太らせ、丸々としたところで調理しようともくろんでいた魔女と同じ。私も彼らを台所に置いておくことで、さらにおいしくなるのをずーっと待っている。忍耐強く。

 せっかちな性質のため、朝起きたらまず様子を見に行くし、寝る前にもしつこく確認する。

 それで4日が経過した。かすかにいい匂いがしてきて、季節柄、虫の発生などに気をつけないといけないとも思う。

 

 明日は食べられるかな。

 

 

 

  ◇   ◇   ◇

 

 引用部分を除いて約500文字

 以下のマストドン(Masodon)に掲載した文章です。