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彷徨する自由帖

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喫茶店 サザンクロス - 南十字星の山盛りクリームソーダ|香川県・坂出市

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「さあもう支度はいいんですか。じきサウザンクロスですから。」

 ああそのときでした。見えない天の川のずうっと川下に青や橙やもうあらゆる光でちりばめられた十字架がまるで一本の木という風に川の中から立ってかがやきその上には青じろい雲がまるい環になって後光のようにかかっているのでした。汽車の中がまるでざわざわしました。

 

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」青空文庫より

 

 この北半球にいて、南十字星(Southern Cross)を拝める場所というのはさほど多くない。

 首都圏から南西の方角に下った四国も例外ではなく、けれどそこには、実際見えるはずのないサザンクロスが存在して人間を招いているのだった。道路際で、きちんと光を放つ。暗くなると赤く発行する看板の文字に、ガラスケースの中の食品サンプル、レンガ風の細めの階段……ダートコーヒーのマーク。屋根付きの商店街にあってその店舗部分は2階になる。

 通りに面した壁は透明なガラス張り。丈夫だったり脆かったりするその性質は非晶質と呼ばれて、たとえば鉱石に見られる結晶のような構造を持たない。だから、ガラスは固体でも、なんとなく液体に似て感じられる。

 夏に扉を開けると、冷房の効いた店内に満ちた空気がひんやり、流れてきて背後に去った。かすかに煙草の匂いがする。ランチタイムを少し過ぎたのか、ぽつぽつと食事をしていた人々が会計を済ませて去っていった。昼間でも軒の影になって、店内の照明が明るく点っている空間は、猛暑から隔絶されていてまるでシェルターみたい。

 奥行きがあり、広い。

 

 

 何とも言えない可愛いフォルムの椅子には印象に残る趣がある。海や畑や宇宙から疲れて帰って来た人を、そっと受け入れてくれるような形。ほとんど黒に近い深緑色も目を癒してくれる。優しく。椅子は硬そうな感じもあるけれど、座ってみると硬くない。

 机に運ばれてきたクリームソーダは山盛りだった。

 控えめな装いですました顔の店外の食品サンプルとは異なり、少しでも動かす前にストローで液体を吸ってしまわないと、溢れる。グラスが大きく、ソーダ水がなみなみと注がれ、さらに惜しみない分量のアイスが上に浮かべられていて壮観だ。炭酸の泡の細かさは中程度、かつ風味は爽やか寄り。

 コースターも透明なガラスでとても綺麗なのだが、なめらかに湾曲しているのでうっかり倒してしまわないように触る。それにしてもグラスは持って帰りたくなる形をしていること……。最後に撫でまわした。

 食事がおいしそうなので次回は何か食べに来たいもの。

 

 ……岡山から、あるいは高松から、マリンライナーを下車して南十字星を見に行こう。

 コーヒーラウンジサザンクロスは夕方4時まで輝いている。