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彷徨する自由帖

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鮨喫茶すすす - 薔薇庭園を通って神奈川近代文学館、喫茶室まで|横浜市・中区山手町

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 みなとみらい線の元町・中華街駅で電車を下り、港の見える丘公園を抜けた。

 今は七十二候で「蚯蚓出(みみずいずる)」の時期。

 薔薇が見頃を迎えた5月中旬、とにかく右を見ても左を見ても、草花の鮮やかな色だらけだった。風が吹くとなんとなく土の匂いも漂ってくるから適当に歩いているだけでも楽しい。それにだんだん夏が本格的に迫ってくれば、こんなに過ごしやすい日にはもう遭遇できないかもしれない、と思うと尚更……。

 ローズガーデン中央にある円形の噴水が今日も綺麗だった。水面が、太陽の光を受けて輝いている。

 

 

 そこから霧笛橋を渡った先にある県立神奈川近代文学館には、特にお目当ての特別展が開催されていない時期にも、たまに足を運ぶ。

 単純に横浜市内在住だから存在が身近というのもあるけれど、何よりここの常設展示室には夏目漱石が暮らした「漱石山房」の書斎を再現した空間があって、いつ来てもそれを鑑賞できる……のが一番の訪問理由かもしれない。ガラスケースの中の火鉢や文箱、文机を眺めてからそっと瞼を閉じると、自分も過去、あの木曜会の一員として歓談に参加していたような気分になれる。

 展示物の撮影は禁止なので、記録は心のアルバムに。

 

 そんな神奈川近代文学館の喫茶室として、2023年4月20日から、新しいお店がオープンしたと聞いた。

 

 

 お知らせを読むと店名は「鮨喫茶すすす」というらしい。

 鮨(すし)喫茶……つまり、文学館内で「おすし」が食べられる、ということ……!?

 かなり気になったので行ってみた。営業開始は9時半だけれどお鮨の提供は11時からとのことだったので、10時過ぎに入館したあとゆっくりのんびり展示(常設展&特別展「生誕120年 没後60年 小津安二郎展」)を鑑賞し、時間になる頃、そーっと喫茶室の扉を開けてみる。

 明るい店内。最初は緊張したので自分以外の人間を連れて行ったけれど、ひとりの客でも全然気軽に入りやすい。空いている好きな席へどうぞ~とのご案内が。

 さっそくメニューの紙に視線を落とすと、まずは「文学作品から着想を得たお鮨」が2品、視界に入った。ここは家から遠くないし、また何度か足を運んで順番に色々食べてみる予定だったので、とりあえず私は一番上にあった「岡本かの子の手毬鮨」をば。

 

 

 これが岡本太郎の母、岡本かの子が著した短編小説「鮨」イメージの手毬鮨。

 

【岡本かの子の手毬鮨(春)】

 

まぐろ(赤身)

小肌 桜ます あなご

本日の白身魚

本日の酢締め魚

卵焼き おしんこ

 

 

 そうして、もう一人は下の「ささめ雪のちらし鮨」を注文することに。

 旧家に生まれた4人姉妹が登場する、谷崎潤一郎の小説「細雪」イメージのちらし鮨。

 

 

【ささめ雪のちらし鮨(春)】

 

まぐろ(中トロ、赤身)

小肌 あなご いくら

金目鯛の炙り

ほっけの酢締め

卵焼き きゅうり

 

 

 いずれもお醤油は、小さな刷毛を使い自分で塗るタイプ。

 お鮨を構成する魚などその細かい内容は季節によって変わるらしい。

 シャリがほんのり色づいている要因は、赤酢。赤シャリと呼ばれるみたいで、調べると江戸前寿司でよく使われているのだそうだ。

 

 テイクアウトも可能だが、店内で食べる場合は温かい汁物がついてくる。汁に入っている貝はしじみ……だろうか。強い磯と海の香りが存在を主張する。また、お鮨と飲み物を一緒に注文すると合計が少しお得になるようだったので、悩んだ末に柚子煎茶(アイス)を合わせた。かなり軽やかで爽やか寄りの風味、苦さや渋さはあまりなし。

 各種お茶の提供元は静岡の「カネ十農園」さんとある。

 個人的に嬉しかったのは、これまで苦手意識のあった魚「あなご」をかなり美味しく食べられたこと。身の食感はふわふわしていて、想像していたような泥っぽい匂いもなく、安心して味わえたのがとても良かった。いずれ別の場所でもあなご、また食べてみようかな……という気持ちになれた。

 

 ◇     ◇     ◇

 

 そんな初来店の後にしばらくして、日ノ出町の中央図書館に寄る用事のついで、ちょっと散歩がてらお昼ご飯を食べて帰ろうと思い2度目の入店。

 お鮨の提供に関しては変わらず11時からだったけれど、ラストオーダーの時間が14時、と少し早まっていた。なんとなく観察していた様子だと、いずれのお鮨も品切れになるのが早そうだったので、お目当てのメニューがある人は留意されたし。公式Instagramに各種情報が掲載されている。

 さて、好奇心のまま、最もお値段の張る「本マグロの箱鮨」を選択。

 ふたを開けたらあらまあ、美味しそうなまぐろが並んで……。すみっこにワサビがちょんと付けられている。

 

 

【本鮪の箱鮨(限定5食)】

 

まぐろ(大トロ、中トロ、赤身)

おしんこ

 

 これに付いてくる汁物は貝ではなく、あおさ(海苔?)の入った赤出汁。

 手毬鮨、ちらし鮨と来て、このまぐろ鮨が一番美味しかった。おすすめ。

 あわせて注文したオリジナルブレンドティー(アイス)はこだわりを感じる風味で個人的にとても好き。かなりスモーキー、まるで焚き火の煙や燻製を思わせるような重厚感を持つお茶で、けれど喉ごしと後味は意外なほどすっきりしている。

 ホットで飲むとまた印象が異なりそう。

 

 

 ごちそうさまでした。

 

 ◇     ◇     ◇

 

 文学館内で「おすし」の喫茶点をやる、というのはなんだか新しい感じの試みだと思うので、今後の発展を興味深く見守ってみたい。

 お鮨のメニュー以外だと基本の営業時間は9時半から17時、もちろん飲み物のみでの利用も可能。ガラス張りの壁から外が見えるので開放的な空間で休憩できる。

 またいつか足を運んだ際には、苺大福などの甘味や別の種類のお茶を試してみる予定。

 

 

 

 

お題「一度は食べていただきたい◯◯」