JR徳島駅から徒歩約12分。
駅出口から南に進んで新町川を越えた先、「銀座商店街」周辺にあるギャラリーの、2階部分に趣ある喫茶店が存在しているのだった。ちなみに前回紹介した「喫茶びざん」からも近い距離にあり、いずれも両国橋を渡ってすぐの場所。このあたりは居酒屋、寿司屋、ラーメン屋と、夕方以降に賑わいそうな多種多様な飲食店がひしめいている。
商店街のアーケードから逸れて少し歩くと、お目当ての建物があった。正面右側に細い階段が伸びていて、そこを上がると喫茶店の入り口。足を掛ける前に庇の上を仰ぐと大きなガラス張りの窓が見える。
聞くところによれば、2階の喫茶店ができたのは1階のギャラリーよりも前の時代であったようで、昭和53年頃だとか。そうすると令和5年現在でもう創業から45年が経過していることになる……。わくわく。
赤い布張りのソファに、背もたれ部分に彫刻が施された椅子が気になった。綺麗。欲しい。
アンティークかヴィンテージか、私の眼では分からないけれど(そもそもこういった分類基準は国などによって異なる)この球体が連なったようなデザインは一般にボビン・ターニングと呼ばれるもので、そこだけ見るとジャコビアン様式初期の家具を連想させられた。もしくは後世に生産された、その雰囲気を模して作られた椅子かもしれない。
店内は花と、おそらくは下の階でも開催されているであろう展示の、作家が手掛けた水彩画で飾られていた。遠くの窓際の方に鍵盤楽器も置いてある。
静かで、私以外にお客さんはいなかった。朝10時半が開店時間だったので同40分くらいに伺ったところ、そこで照明とBGMをオンにしていただけたので、その日最初の利用客だった可能性が高い。お邪魔します。そして、何にしよう。
なんだか気温が上がってきたので、ひとまずアイスコーヒーにしてみた。小さなお菓子つきで、さらに例の金属のカップで出してもらえるのが嬉しく、やっぱり器がこれだとどういうわけか美味しく感じるのだった。不思議なことに。
後はお腹が空いたので、迷った末にセットのピザトーストを選択。これから高速バスで淡路島を横断し、新神戸経由で横浜まで帰るので、良い感じに何か朝食を食べておきたい。蜜を吸う蝶々よろしくほんのちょっとずつストローでアイスコーヒーを飲みながら、待っていた。今まさに作ってくれている音が台所の方からする。
具材を炒める音と香ばしい香り。
ついに登場したできたてのピザトーストはアツアツで、手で持てないくらいに強い熱を放っていた。だからお皿にフォークを添えてくれているのだと思う。端からかじってみると、かなりしっかりと焦げ目がついた食パンにはサクサクとした歯ごたえがあり、好みの焼き加減だったので喜ぶ。
このピザトーストの一番の良さは、それぞれの具材の味が生きていたことだった。
ときどき、使われているピザソースが強すぎて全ての味を呑み込んでしまい、ピザトーストというよりも「ピザソース味のパン」になってしまっているものに出会う。特に、自分の家で作ろうと思うと結構な割合でそうなる。
でも「グレイス」のピザソースでは玉ねぎも、ピーマンも、ベーコンもトマトも丁度良く主張していて美味しかった。そこにペロッとかかっているチーズがさらに秀逸で、喧嘩せず調和している。いくらでも胃に収められそう。
高速バスの出発時間に合わせるため、少し長く滞在していたら、ほうじ茶のようなものを食後に出していただけたのもありがたかった。そんなサービスをしていただいても良かったのだろうか。感謝感謝。
ピザトーストを食べにまた行きたいなぁ。