往路は18時間。そして、復路は6時間。
……という「のんびり」と「スピード重視」の度合いが極端に異なる交通手段を用いて、神奈川県の自宅から四国は阿波国、徳島県を訪れて帰ってきた。
いつものように一人旅。
高校の修学旅行以来10年ぶりの訪問で、初めて県内を気ままに散策できてたいへん楽しく、大好きな土地のひとつとして記憶に刻まれたのが嬉しい。魅力的な建築物があり、喫茶店も多くあった。入ったお店も旅館の人も温かかった。
徳島までの旅程で18時間を費やした乗り物とは、船舶である。帰りの6時間は高速バス+新幹線。
「オーシャン東九フェリー」……これまでに名前だけは聞いたことのあった存在に乗り込み、そこで寝て、起きたら港に着いていた。
鉄道網が拡充する以前、日本では水上の領域がまさに「路」そのもので、船での移動や貨物の運搬が活発に行われ、常に海運業は陸路より先行していたともいえる。けれど全国的な鉄道交通システムの整備後、速度や運賃、利便性の面で引けを取った船は、利用客のほとんどを鉄道に譲ることとなった。
閑話休題。
私は乗り物だと、鉄道や飛行機が特に好き。
でも今回わざわざフェリーでの移動を旅程に組み込んだのは、単純に自分がこれまで経験したことがない行為で、とても面白そうだったから。それだけ。そもそも何かをするのに理由はいらない。あらゆる理由は後付けにすぎない。
先人の方々がウェブ上に残してくれた記録を参考にしつつ、私も今記事にオーシャン東九フェリーのうち一隻「しまんと」を利用した感想を綴る。
こうしている今も凪いだ海原の上で穏やかに揺られる感覚が残っていて、夜、布団に入ってからそれを思い浮かべると、陸地でもよく眠れた。
波の音はもう遠いけれど、瞼を閉じれば耳朶の奥に蘇ってくる。低く。夜は空よりも暗く黒い海、あの太平洋のうねりと一緒に。
目次:
オーシャン東九フェリー乗船記
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フェリー概要
基本情報
このフェリーの航路は東京(有明)~徳島(沖洲)~北九州(新門司)を結んでいる。
公式サイトによると運航予定の発表は2カ月前の月末で、例外を除けば基本的に「日曜日が休航日」となっていた。今回利用したのは、月曜日の19:30に東京有明港を出発する下り便。
その場合だと徳島港に到着するのは翌日の13:30となる。
もしも徳島で下船せず終点の新門司まで向かうなら、そこからさらに14時間くらいかかるので、総合乗船時間は約34時間程度にまでなる。この場合の大きな利点は「新門司到着が早朝5:35~6:30頃になる」ことであり、早くから活動を始めたり、何か用事があったりする人にはとても便利な仕様。
2023年現在、運航しているのは全部で4隻のフェリー。
・びざん
・しまんと
・どうご
・りつりん
……名前から察せられる通り、それぞれが四国の各県を特徴にした内装で、内部にある乗船記念パネルと基調カラーが異なっている。
いずれも全長約191メートル、重さは約12,636トン。
初乗船の今回引き当てたのは「しまんと」(2016年から就航)なので、飲食スペースのオーシャンプラザ中央柱には四万十川のある高知県がはりつけにされており、入口では坂本龍馬とおりょうさんをイメージしたキャラクターのイラストも見た。廊下の壁に魚が泳いでいるのもそのイメージ。
ソファや天井の装飾など、赤茶系の色に囲まれた空間は落ち着く。これは、高知県の花である「やまもも」の実から採用された色だった。また、クリーム色の方は桂浜の砂をイメージしたものらしい。
全体的に目に優しく、なんとなく温もりを感じさせる。
特徴・傾向
船内レストラン、なし。
インターネット(wi-fi)、なし。
けれど24時間、いつでも各種自販機で飲食物(お酒だけは真夜中の販売中止)が買えて、大浴場に関しても24時間利用できる。シンプルフェリーと呼ばれる船の設備は、簡素ながら乗客にかなりの自由をもたらしてくれる。この「乗船後の諸々は各自でお好きにどうぞ、こちらはお構いしませんので」と放っておかれる、圧倒的な心地よさ!
なので利用してみて思ったのは、好きな時に好きなことをして自分のペースで過ごしたい人や、その都度何かをする必要に迫られずゴロゴロしていたい人には最適だということだった。つまり、私にはとても向いている。特に今回は一人の旅なので。
友達などと一緒に赴く豪華旅や、サービス充実の客船とはまた異なる楽しみ方で、海上の時間を過ごす。
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チケットを取得、乗船
徒歩乗船をウェブ予約
オーシャン東九フェリー公式サイトの「ご利用の流れ」がとても分かりやすいので、利用を検討する際はまずこのページをチェック。出発地と目的地ごとで変動する価格を確認する。
私は車・バイク・自転車を伴わない徒歩乗船で、ペットの同伴なし、また特別な支援やバリアフリー設備の必要なし……な一般客のため、それに該当するプランを探した。相部屋よりも個室がいい。
なので、通常の2名個室を選択して予約を進めることに。
ウェブで事前に予約しクレジットカード決済を行うと、割引になる。
キャンセルの可能性がゼロに近い人におすすめの支払い方法。
東京~徳島の2名定員個室を1名、徒歩で利用する際、単純にウェブ予約+事前決済の組み合わせだと目安となる価格が約23,000円。もしも2名で利用するなら個室利用料の方を半分に割れるので、約19,000円程度に抑えられるだろう(2023年4月現在)。
予約後、送られてくるメールに記載のURLをクリックし、そこに表示されるQRコードを含めたページを印刷(現地でスマートフォン画面に表示できればペーパーレスで済むが、私は「スマホが壊れた時のこと」を考えてしまう心配性なので絶対に・絶対に・絶対に印刷する)したり、予約番号を手帳に控えたりする。
これを携えて有明の乗り場まで赴けば、特に何も心配いらない。
建物の2階で自動発券機を使い「乗船票」を手に入れ、あとは3階の待合室でフェリーの雄姿をじっと見つめていれば、やがて案内の放送が入る。出発が19:30の場合、徒歩乗船客はだいたい19:00頃から船内に足を踏み入れることができるはず。
待合室からの流れ
この広い広い待合室!
徒歩乗船の人間が、全然、いない。
それもそのはず、首都圏から徳島へ向かうのに、飛行機や高速バスなどの手段だって色々充実しているのにもかかわらず、わざわざ大幅な時間を費やす船を選ぶのは「マイカーかバイクか自転車を自分と一緒に運びたい人」がほとんどなのだから。中には貨物を積んだトラックのため、徳島や新門司まで利用する運送会社の運転手さんなどもいるはず。
何らかの事情がない限り、純粋な道楽のためにフェリーに乗る人間の数は、もちろん一定数存在してはいるが決して多くはないのである。それ……楽しすぎる。
案内のアナウンス後にいよいよデッキから乗り込むのだが、そのとき係の人に機械でピッとしてもらう乗船券、捨てたり失くしたりしないように注意。
乗る時だけでなく下船時にもピッ……とするため、無いと目的地でスムーズに降りられないと思う。鞄にきちんとしまっておくか、客室の中の目立つ場所に忘れないよう出しておこう。
乗船直後にオーシャンプラザ付近で、個室の鍵を受け取る。
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客室(2名定員)
基本設備
ここがこれから十数時間を過ごす、自分の城。鍵がかかる個室というのは安心かつ安全で本当に良いものだ。もう、存分にゴロゴロさせていただく。無窮の坂を転がり落ちていくおにぎりの如く。
部屋に備えられているものは、
・テレビ
・冷蔵庫
・折り畳み式寝台(プルマンベッド)
・コンセント
・ハンガー
・除菌消臭スプレー
など。
耳を澄ますと隣室のテレビの音がうっすら聞こえてくる程度の防音なので、無音でないと眠れない人は耳栓を持参するか、船内の自動販売機(フォワードロビー側に置いてある)で購入するのがおすすめかもしれない。フェイスタオル等のアメニティもそこで買える。
折り畳み式の寝台は結構重たいので、展開する際は怪我などしないようにゆっくりと。
2人部屋をひとりで占領するにあたって、私は引き出したベッドのうち、下段は「普段着のままゴロゴロする用」、上段は「着替えて本格的に眠る用」と決めることにした。なぜならお手洗いやお風呂、自販機などの設備は客室の外側にあるため、基本的には普段着のまま過ごすことになるから。半裸で公共空間には出ていけない。
でも、それによって寝る場所は汚したくないし、普段着のまま床ではなくて寝台に寝転がりたい。という願望を叶えるために、寝台はひとりでも2段使いする方法に落ち着いた。
過ごし方の例
初めて乗る長距離フェリー、かなり興味を惹かれたのが船の揺れ方だった。どんなに海が穏やかでも船体は絶えず動いている。なので食事やお風呂を済ませて客室にいる間、私は下段の寝台に寝転がり、背中から伝わる振動の「感じ」を記憶して遊ぶことにした。
まず気が付いたのは、進行方向に向かって右と左へ交互に傾く動き。そこへさらに、ゆるやかな上下の揺れが加わっている。
徐々に沈み込むかと思えば、ある地点でわずかに静止して、そこからまた反対側に傾いていく。巨人の掌で両足の裏から床板をぐわっと持ち上げられるみたいな意識。この動きが、感じられる範囲で一番大きな揺れ。大海原で船が前方へと進むために発生している。
次の振動は、海面に発生している波。
大小のうねりがフェリーの側面にぶつかるたび、泡を含んだ白いしぶきが立って、音と共に船体がふるえを伝える。風の有無によってその強さは異なり、特に私が利用した日の真夜中は、わりと穏やかなはずなのに結構迫力のある音がずっと外で響いていた。あの低いざわつきは轟音と呼んでも差し支えない。眠りを妨げない、轟音。
まだ暗いうちに目が覚めて窓の外を眺めた時の、あの奇妙な感動はちょっと言葉では言い表すことができなかった。
時空の狭間の「どこでもない」ところ。
強化ガラス越しに広がっていたのはそういう灰色の情景で、最初は恐怖に駆られて頭から毛布をかぶったが、今度はまた違う振動を感じた。多分フェリー自体の、動力のふるえ。人間の体内で血液を全身に循環させる、心臓の鼓動みたいな不断の運動。
「板子一枚下は地獄」という船乗りの言葉がある。
果てなき虚ろな海と空の狭間を、黙々と往く船は果敢な感じがした。進んでいる、と教えられなければ単にその場で揺蕩っているようにも思える。船体を上下させて。けれど見れば、確かに前方を見据えて着実に目的地へと向かっている。恐れを知ってなお、役目のために歩みを止めない使者にも似て……。
頼れる誰かの背に負われるというのはこういう感じなのかもしれない。例えば孤立無援の地で、その人が倒れれば自分も一緒におしまいなのだと理解して、けれど万が一にはそうなっても仕方がないと思うように全ての体重を預けている。
少し前に、飛行機の窓から俯瞰した海原と、その表面で米粒のように小さく点々としていた船の影を思い出した。あの中に今、自分も存在しているのだと分かった。
こうやって考え事をして遊ぶ以外には本を読んだり、メモ帳に文章を書いたり、あとは流れ星を見たりする楽しみもある。夜、目を慣らして何時間か空を仰いでいると、晴れていればいくつかは驚くほど簡単に観測できるはず。
お酒やジュースを飲みながら探してみよう。
にわかに空が明るくなってきた、18時間は、あっという間に過ぎる。
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食事
自動販売機
ここは船内の公共飲食スペース、オーシャンプラザ。あるのはずらりと並ぶ自販機、レンジでチン、のフェリー飯である。自分にとってはまったく未知の存在……。
乗船前から何を食べようか迷っていたし、実際に乗り込んで商品ラインナップを眺めてもみたけれど迷いは変わらなかったので、あらかじめ調べておいた人気商品を試してみることにした。優柔不断なのだ。加えて、あまり外したくない。でも初めてものなので、いずれかは絶対に食べてみたいと意気込む。
比較的評判が良さそうだったのは「チャーシューまん」だった。
商品名は「陳健太郎 チャーシューまん3個入り」で、自販機「C」で買うことができる。ポチリと購入してこれまた指定された「Cの商品専用」電子レンジに赴き、数分待った。
のんびり食べたいので部屋に戻る。さあ、行ってみよう!
甘じょっぱい豚肉がシンプルかつ弾力のある肉まんの生地に絡み、味は濃すぎず薄すぎず、何よりチンしたてなのでアツアツなのも嬉しい。惜しむらくは量が多くないことで、食べ始めると即座に胃へ消えてしまう。もっと食べさせてほしい。これが450円だった。
そして飲料で気になったのが、エナジードリンク「アワライズ(AwaRise)」の存在。
ゆずとすだちの風味がする炭酸飲料で、缶には「阿波踊り専用エナジードリンク」の文言のほか、英文で「踊る阿呆に見る阿呆……」のくだりが記載されている。面白かった。ジュースとしての味も美味しい方。
Flutes and drums, the prerude of Yoshikono.
The endless dancing, a night in Awa.
The dancers are fools, the viewers are fools.
As all are fools, join in and don't lose out!
プレリュード・オブ・ヨシコノ、の語があまりにインパクト大。
他の場所ではなかなか味わえない限定商品。
館内の食事は全体的に満足だったのだが、一点だけ。
この飲食スペース(オーシャンプラザ)の一角で機械のボタンを押すと出てくる、無料の緑茶とほうじ茶、かなり「美味しくない」! 本当に味がよくない。申し訳ないんだけれど。
もちろん無料で提供されているものに文句をつけるなという話になるが、できれば個人でティーバッグやお茶の粉など持って行った方が良いかもしれない……と思う。お湯と紙コップも無料なので。部屋で一息つくときには、できるだけまずくないお茶や紅茶が欲しい。
持ち込み弁当
船内の自販機以外でご飯を調達する場合、テイクアウトを実施している飲食店のお弁当を購入し、乗船時に持ち込む方法がある。持ち込みは全面的に自由だった。
今回は試しに、有明パークビル2階のファミレスCOCO'S(ココス)でいろいろ調達してみる。チーズハンバーグとシーザーサラダと白飯、そしてプリン、とちょうどいいボリューム。プリンは小腹が空いた時に食べたいから、冷蔵庫で冷やしておくことにした。うっかり存在を忘れないように注意しないと。
利用できるのは船内電子レンジの「A」で、これこそが持ち込み品を好きな長さで加熱できるものだった。熱しすぎて爆発させないように注意しつつ……湯気を立たせる。
さらに船内でお酒「アサヒ贅沢搾りぶどう」を買って飲んで満足した。
ファミリーレストランの食事の味は学生時代の思い出と強固に結びついているのか、炭酸飲料と本当によく合う。つい、なんとかソーダ(アルコールが入っていても勿論同じ)を傍らに用意して楽しんでしまう。
ドリンクバーでメロンソーダばかり汲んできていた人間です。たまにコーラと混ぜたり、何かしたり。
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各種設備
それぞれの個室にあるのは寝台付きのプライベート空間と冷蔵庫なので、お手洗いやお風呂、パウダールーム等を利用する際は各設備のあるところまで出ていく必要がある。
船内はそんなに広くないのだが、慣れるまで少し迷った。
ずっと同じ姿勢でいると血流に影響するので、ときどき散歩がてら歩き回ってみるのも良いと思う。人通りの少ない夜中と早朝は特におすすめ。ひっそりと徘徊する。
……そういえばレトロフューチャリズム(retrofuturism)という言葉がある。
「昔の人々が思い描いていた未来像」を指して使われるもので、こういう角の取れた四角い窓が一直線に並んでいるのを見ると、なんとなくそれが脳裏に浮かぶのだった。色合いと雰囲気がどこか、伊東ハトヤホテルの渡り廊下みたい。
全然自分と関係のないはずのものに対して感じる、おかしな懐かしさと、過去の雑誌の片隅に乗っていそうな何とも言えない佇まい。
外が暗くなって目を凝らしたら、遥かな海原は、いつの間にか銀河の浮かぶ宇宙空間に変わっているかもしれない。
大浴場・シャワールーム
オーシャン東九フェリーの船内には24時間利用できる、大きなお風呂があるのが嬉しい特徴。鍵付きロッカーに衣服を入れて、鍵は腕に巻いて入浴する。スーパー銭湯みたいに。
混雑の度合いは他の乗客との兼ね合い次第……といった感じで、私は夜の12時ごろに行ってみたところ、誰とも遭遇しなかった。ゆっくり全身を洗い、浴槽に浸かることができる。船舶内の浴槽なのでちゃぷちゃぷ揺れ、かなり面白いし、これにどういうわけか癒される。
朝や昼間にお風呂を使う利点は、窓から海原が見られること。
お湯の温度はどちらかというとぬるめ。激熱を期待していると拍子抜けするかもしれないけれど、お家で入るお風呂と似たようなものだと思う。
備え付けられているのはボディソープと、リンスインシャンプー。
浴槽に浸かる必要を感じない人、または洗い場が混んでいてとりあえずシャワーを使いたい時などは、隣にあるシャワールームも便利。
備え付けのタオルはないので持ち込むか自販機で買うかしよう。
お手洗い・パウダールーム
とても新しく綺麗なトイレの近くには、歯を磨いたり洗顔をしたりできる化粧室と、鏡の前に椅子が置かれたパウダールームがある。
パウダールームはお化粧したり髪型を整えたりする際に便利。お手洗いや浴室からは独立しているのが好印象で、コンセントがあるからヘアアイロンも使える。
どの設備も明るく近代的な感じ。
休憩スペース
お風呂の近くにあるリラクゼーションスペースと、フォワードロビー。
誰でも自由に利用できる空間で、後者は昼間だと進行方向が窓越しに見られる。個室ではなく大部屋の場合はこういう場所で時間を過ごすのも良いのではないだろうか。
私は夜中にブラブラ徘徊していたところ、知らないおじいちゃんに「この船って最終的にどこへ行くんでしょうか……よく分からなくてお恥ずかしいんですが……博多に行くことになってるんですよ……」と話しかけられ、内心笑いながら心配になった。「徳島を出たら終点は北九州ですよ~」と一応言っておいたが、仮に乗船後にボケてしまったのなら支援が必要な案件である。
徒歩乗船組にいなかったので、車で来ているはず……運転、大丈夫なのか?
でも、次の日の朝に友達らしきもう一人のおじいちゃんといるのを見て、納得した。その人が旅程や運転やその他を全部担当しているなら、助手席に座っているだけの方のおじいちゃんは本当に何も知らないのだろう。「博多行くよ!」とだけ言われてついてきたのかもしれない。
こういうわけのわからない出会いもフェリー旅にはある。
デッキ
深夜や悪天候時には閉め切られるため、デッキ上で空気を吸うのは晴れている時のお楽しみ。
ちなみに有明を夜に出発するフェリー、大人気なのが「東京ゲートブリッジ」を通過する際の眺望で、多くの人がライトアップされた橋を見にデッキへ集合するのだが、私は動くのが面倒になってしまってまさに通過の瞬間部屋でゴロゴロしていた。怠惰の極み。
その代わり、翌朝の午前中に軽く運動をしに行った。
時間を選べば進行方向右側の遠くに、和歌山は紀伊大島と、本州最南端の地点も見える。クレ崎だ。春も暮れらしく緑に色づいた陸地は、ぼんやりと薄い青にかすんで、まるで御簾を挟んで誰かの気配を感じるようだった。
そのうちアナウンスが入る。まもなく徳島……沖洲。
天候に恵まれれば、到着予定時刻よりも少し早く入港できる場合が多いよう。
徳島旅行記(2)へつづく……↓