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彷徨する自由帖

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境界線の向こう側で行われる営み:映画《ミッドサマー(Midsommar)》の感想と覚え書き

アリ・アスター監督の映画《ミッドサマー》を見た感想と、監督のインタビュー記事や解説を読んで考えた事色々。ごく個人的かつ偏った見解です。※物語の内容・場面・登場人物に言及しているのでネタバレ注意。監督がインタビューの中で「ダニーには私自身がた…

日本郵船 氷川丸は今も夢想する乗客を運ぶ|海上の博物館船・近代化産業遺産

横浜港は年間を通して多くの船が発着・寄港する場所だが、その片隅――山下公園の向かいで60年近くも係留し続け、博物館として一般に保存・公開されている貨客船がある。それが《日本郵船氷川丸》だ。昭和初期に竣工した豪華な船は、過ぎし大正時代の面影を色…

内の顔・外の面

家の外で、知らない人間に突然話しかけられるのが苦手だ。というか大嫌い。例えば歩いていて道を訊かれたり、座っていたら隣の人に雑談を持ちかけられたり、撮影を頼まれたり…… 挙句の果てには何かの勧誘や、驚くことに「歌を聞いてくれ」などと言われたこと…

小雨ふる新吉原遊郭跡 - 樋口一葉の《たけくらべ》を片手に歩く、静かな昼の旧花街

昔も今も変わらない、人が誰かを恋い慕う心。だがその向かう先、行きつく場所はそれぞれに違う。私が折に触れて読み返す、樋口一葉著の短編《たけくらべ》には、決して声高に叫ばれることのない感情のやりとりと結ばれ方がとても丁寧に描かれていた。時代は…

お茶の時間に囚われる:時に食事も "tea" と呼ぶ彼らに倣えば

私にとって、元気――というか、活力の源は間違いなく「お茶の時間」だ。日常の中にそれがあるから何とか生きていられる。叶うならば、延々とお茶会をしていたい。そこが洋室でも和室でも、一人だろうと複数人いようと構わない。飲むものと食べるものを机の上…

稲佐山と坂道と街歩き~レトロな電気軌道に運ばれて|長崎市旅行(4)

長崎を歩き回る際、電気軌道という乗り物にはとてもお世話になった。私はこの呼称が好きだ。単に路面電車やトラム、と表現するよりもずっと。街に張り巡らされた線路を辿る車両、その軌道が100年以上変わらずにあることに、どこまでも深い感慨を抱く。時間を…

家に籠り、放浪を渇望する睦月

流行り病が怖くて、仕事以外の日はすっかり家に籠っている。もう一月も終わる。呼吸器系が昔から弱いので「肺炎」の言葉を耳に入れるだけでも恐ろしい。旅行や散策をしようと思うものの、どうしても大型の駅や空港を経由することになるため、その辺でうっか…

ロンドンの街で気軽にアート作品に触れよう【訪問したギャラリーまとめ・現代美術が中心】

イギリスの首都・ロンドンには、優れた収蔵品を誇る国立美術館の数々に加えて、無数のアートギャラリーが存在している。特にモダンアートやコンテンポラリーアートに興味があるなら、より訪れたいのは後者だろう。広大な街のどこかで常に何らかの展示が行わ…

《文字禍》中島敦 - アッシリア|近代日本の小説家による、外国を舞台にした短編のお気に入り(4)

文字の霊などというものが、一体、あるものか、どうか。中島敦の短編《文字禍》はこんな書き出しで始まる。題の字を読むごとく、文字による禍(わざわい)の話だ。舞台は遠い昔の新アッシリア帝国。そこで紀元前7世紀頃に支配者として君臨していたアッシュー…

ウズベキスタン旅行記(5) 首都タシケント:美しい地下鉄駅と黄煉瓦のナヴォイ劇場、残る旧ソ連の空気

サマルカンドとシャフリサーブスを観光した後、タシケント(タシュケントとも。古くはチャーチュ、石国などと呼ばれていた)を訪れた。一番初めに降り立った都市でありながら、実際に色々と見て回ったのは最後。ここはソビエト統治時代から現在に至るまで、…

旧柳下邸&横浜競馬場跡がふしぎな郷愁を誘う - 根岸にある近代の建物ふたつ

根岸駅から徒歩10分もかからない程度の距離にある、緩やかな丘の上には、細身のさんかく屋根が目立つお屋敷が建っている。頂点にいただくのは銅の棟飾りで、目の前にはシュロのような南国風の木が何本か。写真を撮りながらさらに近付いてみると、その洋館は…

塔|言葉の残骸

あの塔が完成間近で見捨てられてからというもの、人間の舌にはすっかり強固な呪いがかけられてしまっている。それは世代を超えて繰り返され、より複雑に僕たちの身体に編み込まれ、もう誰も、かつての人々のようには想いを誰かに伝えられない。かつての人々…

目標を追わない。決意をしない。そして、少し駄目になりたい

最近は無気力で色々なことがどうでもいい。可能ならば、気の済むまで延々と眠っていたいとすら思う。……では、本当の本当に何もしたくないのか? と訊かれれば、いや実はそういう訳でもないんだと否定したくなる程度には興味関心が潰えていないから、厄介だ。…

《文明開化と近代日本の跡》めぐり|和洋館・産業遺産などの建築物や、当時を学べる博物館【国内旅行&お散歩まとめ】

平成から令和へと、年号が変遷した2019年が過ぎ去った。数年前に一人で旅行し始めてから引き続き、今年も決して多くはないけれど、色々な場所を訪れることができた……と思う。特に国内で重点的に巡ったのは明治・大正・昭和初期に建てられた邸宅や史跡。その…

記事を寄稿しました:「会社員なんて絶対できない」思考だった私が、少しだけ自信を持てるようになるまで - WEBメディア〈りっすん〉へ

外部で執筆した記事の紹介です。今回はご縁あって、webメディア〈りっすん - はたらく気分を転換させる深呼吸マガジン〉さんにて、「会社員として働くこと」について書いたものを掲載していただきました。昔の自分からは、とても想像できないような場所で働…

ウズベキスタン旅行記(4) ティムールの故郷シャフリサーブスへ - サマルカンドから山を越えて

サマルカンドから直接シャフリサーブスまで行くには山を超える必要があった。これから対峙するのは、最も高い地点で標高2000メートル近くなる、それなりに険しい道。位置としては、国境を隔てたタジキスタンに大部分が存在している、ザラフシャン山脈の「西…

聖夜譚|お屋敷のクリスマス

体調を崩すと著しく食欲がなくなる。それでも、何かを口に入れないと弱る。ならば逆に、わずかでも飲み食いできるうちはまだ、人はこちら側の世界に根を張っていられるのだ――とも思えた。黄泉や冥界ではなくて、現世の食べ物を喫することができる限りは。今…

『選ばれし者』と『選ばれざる者』の物語が好き

選ばれし者(The Chosen One)という大層な響きの言葉を聞くと、何だか心がムズムズしてくる人……は読者の中にもきっと少なからずいる。それが好意からなのか、はたまた嫌悪からなのかはまだ判断せず、据え置いておこう。ごく個人的な話になるのだが、最近は…

光源としての瓦斯(ガス)と明治~大正時代の日本|GAS MUSEUM がす資料館にて

突然だが、先日アニメ版《鬼滅の刃》を26話まで視聴した。作品の舞台は、大正時代の日本だ。フィクションではあるものの実際に存在する場所が度々描かれており、アニメ第七話で主人公一行が浅草に辿り着いた際は、暗闇に浮かぶ電気館らしき建物や凌雲閣の姿…

ウズベキスタン旅行記(3) 黄昏前のシャーヒ・ズィンダ廟群はとても『天国』に近い場所

ここは、前回の記事で少しだけ言及したアフラシャブの丘だ。今は見渡すかぎり何も残っていないが、昔はサマルカンド(旧名:マラカンダ)の中心地として長く栄えていた、美しい場所だったという。宗教や民族の隔てなく、多くの人々が集まり賑わっていたと伝…

辿ってきた紆余曲折は、自分の強みになり得るだろうか?

Twitter上で #10年を振り返る タグが流行っていたのが、今から約数か月前のこと。その頃、私は24歳の誕生日を迎えた。とはいえその実感は全く湧かないけれど。世間ではまだ若い、の部類に入るこの年齢を思うと、何かをコツコツ積み重ねるのが苦手な自分が辿…

明治の長崎に住んだ外国人商人たちと居留地の面影~グラバー園の邸宅群|長崎市旅行(3)

港町・長崎は洋館の宝庫だ。訪問時は肌寒い空気を感じつつ街歩きを楽しんだのに加えて、グラバー園で3つの重要文化財指定建造物を中心に、各所から移築された貴重な洋館群を記憶と写真に収めた。なかでも旧グラバー住宅は明治日本の産業革命遺産を構成するう…

ウズベキスタン旅行記(2) 青と緑のレギスタン広場&サマルカンドでの食事

オアシス。砂漠の国で、ザラフシャン川のほとりに築かれた美しいサマルカンドの街は、時にそう呼ばれることがある。グーリ・アミール廟から北東へと進み、大通りを渡った先で目にしたレギスタン広場は、その中で「水辺にないオアシス」と称されても良いので…

ウズベキスタン旅行記(1) 古都サマルカンドのグーリ・アミール廟は星の洞窟のようで

目的地を頭に思い浮かべ、はぁ行きたいな......と念じ続けていると、いつのまにか航空券の予約が確定されている。口座からはその分のお金がしっかり減っている。つまり、どこかへ旅行するのを決めるというよりか、もう既に「決まっていた」と言う方が私にと…

無価値な現状を認め、受け入れる|自己肯定感を捨てて

人間はただ生きているだけで、そこに存在しているだけで価値がある――なんてものは嘘も嘘、大嘘だ。それは、世の人間のうちほんの数%が享受できる特権であって、残りの大多数は適切な努力をしなければ、同じ土俵にすら上がれない。確かに生きているだけで、…

元町公園・ジェラールの瓦工場と水屋敷跡:静かな近代産業の史跡

横浜元町は、明治・大正期の雰囲気や史跡が好きな人(私です)にはうってつけのお散歩スポットだ。西洋館をはじめとした異人達の暮らしの痕跡や、歩道の傍らに自働電話ボックスの復元などがあり、どのエリアを歩いていても当時の雰囲気を偲ばせる何かに出会…

マルタ共和国旅行(5) 首都ヴァレッタ編|戦火に耐えた世界文化遺産の街

1980年、その全体がユネスコ世界遺産に登録された町、マルタ共和国の首都ヴァレッタ。マルタ語での表記はイル・ベルト(Il-Belt)になる。宿泊していたスリーマ地区の岬に立つと、海を挟んだ向かいにカーマライト教会の象徴的な丸いドームを望むことができた…

来たる秋には、飽きのこない美味しさを:横浜「食」の散歩記録

自意識過剰なので、今週のお題の説明文にある「秋っぽい」という言葉が勝手に脳内で「飽きっぽい」に変換され、あっそれ私のことじゃん......と思うのだ。お題にこじつけられることが食欲の秋・味覚に関連した散歩の思い出くらいしかないし、もっと友達に地…

《死後の恋》夢野久作 - ロシア|近代日本の小説家による、外国を舞台にした短編のお気に入り(3)

王朝文化が栄華を極めた帝国から、ソヴィエト連邦への変遷をたどったロシア......この時期に囁かれた「アナスタシア伝説」を題材にした作品は多い。私の愛するミュージカルアニメ映画《Anastasia(1997)》や英国ロイヤル・バレエの演目のほか、最近ではスマ…

留学中に出会った友人たちの連絡先を消したわけ

このブログ記事のタイトルを見て「お、クリックしてみよう」と思う人は、一体どんな人なのだろう。その時どんな状況に置かれていて、どんなことを考えているのだろう。今まで色々なことをWeb上に放り投げてきて少し分かったのは、楽しい話と悩みや苦しみの話…