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彷徨する自由帖

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サム・ロイド著《The Rising Tide(満ち潮)》嵐が訪れて始まる悲劇の連鎖、幸せだった家族に迫る不穏な過去の波

イギリス、サリー州在住の小説家、サム・ロイドの新刊《The Rising Tide》が2021年7月8日に発売された。正式な日本語訳版がまだ出ていないので、ここではタイトルを「満ち潮」と訳することにしてみる。前作《The Memory Wood》に引き続き、今作も物語の開始…

横浜開港資料館|近代化産業遺産の旧館、およびペリー来航以前から命を繋ぐ中庭の玉楠

県立歴史博物館、郵船歴史博物館、それから横浜三塔など……横浜市中区は規模が大きくてかっちりとした近代建築の宝庫だ。特に地下鉄・みなとみらい線の馬車道駅から日本大通り駅に至るまでの短い距離に、珠玉のファサードがずらりと並んでいる。雰囲気もそれ…

画面越しに眺めているだけの人を、まるで友達のように感じてしまう心理

いわゆるブログ記事でも、他のウェブ上の呟きでもなんでも構わない。書かれていること自体や、文面から滲み出る発信者の考えに惹かれたり共感したりして、あるいは単純に興味をそそられて、けっして短くはない期間その動向を追っている人というのが幾人もい…

《木の精のドリアーデ》より -「憧れ」の感情へ注がれる著者の優しいまなざしと近代文明批評|ハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話

アンデルセンの紡いだ数々の作品は、いわゆる「昔話」と呼ばれる童話(ここではヨーロッパのものを指している)の形式や特色とはまた違った種類の魅力、すなわち近代の童話としての良さをたくさん持っている。ここで紹介するお話「木の精のドリアーデ」には…

あなた(たち)のいない世界はつまらない

// 尊敬する人とは別の時代に生まれてしまったり、とても大切な人と疎遠になったりしたことのない人間には、絶対に理解できないであろう感覚のこと。 読み終わった本を閉じて、表紙の著者名をじっと見る。 さながら漢字の一画一画を、瞳孔から伸ばした細い筆…

旧浦上天主堂(現カトリック浦上教会)の鐘楼~大正時代に完成、昭和20年に倒壊した近代建築の遺構|長崎一人旅(6)

長崎電気軌道。そのうちいくつかの路線は浦上川に沿い、地図を眺めてみると、まるで南の港から北の水源地を結ぶようにして伸びているのがわかる。無数の橋が渡された川は、それ自体が線路の記号にもそっくりだった。私は平和公園停留場で車両から降りて北東…

喫茶店随想(2) 万全なプリンアラモード

銀色のものと透明なガラスのもの、素材はどちらでも構わないけれど、その形は必ずカヌーを思わせる横長であってほしい。また中央下部から脚が一本伸びて、机の面よりも幾分か高い位置に積載物がくるとなおよい。これでこそ、という感じがする。プリンアラモ…

喫茶店随想(1) ゆで卵の殻をむく

旅行先で、早朝に大きな駅の地下道を歩いていると、まったく異なる二つの時間が同じ空間に流れているようでおもしろい。このときは、友達と名古屋の「メイチカ」にいた。出勤か出張なのかは定かでないが、急ぎ足とは言わないまでも左右交互によどみなく足を…

エンドロールの後に用意されたおまけの映像、さらにその先の先、みたいな日々を過ごす不思議な感覚

このお話はもう完結して、きちんと区切りがついた。だというのに一体いつから、また、どこから新しい流れが始まっていたのかが、全然分からない。そんな感覚をおぼえる時がある。「お話」が指しているものが、他ならぬ己の人生であるのにもかかわらず。いや…

巡礼者の街カンタベリーにある12世紀の宿泊施設 - イーストブリッジ・ホスピタル|英国南東部ケント州

ロンドン中心部から東へ90kmほど進んだ場所、ケント州の北東に位置するカンタベリー。そして噂の大聖堂の入口が以下の写真。通常は参拝者や見学者がここから敷地内に足を踏み入れるのだが、私はそうしなかった。また、ブログ記事のタイトルからも分かるよう…

夜のコーヒーゼリー

// 江崎グリコ株式会社から販売されている、「カフェゼリー」という商品名のコーヒーゼリー。 昭和54(1979)年にはじめて登場し、その後2015年にリニューアルされてからも生産が続いている、40年以上のロングセラーらしい。私は偶然にも冷蔵庫を覗いたらこれ…

鑑賞後感想メモ《劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト (2021)》

※作品の内容や詳細に言及しているネタバレありのメモです。ある日、友人からLINEによる長文のメッセージが送られてきた。内容を要約すれば、アニメ「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」を視聴しなさい、という勧誘に尽きる。私はそれから監督の古川知宏氏を調…

「特別」

私達はかつて、毎朝のように闇市を開いていた。上から許可されていない、語義通りのブラックなマーケットだ。具体的には「シール交換」という。幼稚園の送迎バスの座席に座り、平たい鞄のふたの裏に貼り付けたそれらを互いに見定め、いつも声を低くして交渉…

夏目漱石の《坑夫》暗い銅山で青年が邂逅したもの・絶え間なく移ろう人の心|日本の近代文学

夏目漱石の作品のなかでも、現代文の教科書でよく取り上げられる「こころ」や「草枕」に比べると、話題にのぼる機会が驚くほど少ない「坑夫」という小説。私はこれがとても好きなのだ。物語全体の流れも、内容も本当に面白いから。著者が「坑夫」を執筆する…

横須賀駅の周辺で見られる近代遺産や関連する記念館など

JR横須賀駅の改札を出て徒歩1分ほど。当初は臨海公園と呼ばれていたが、平成13年に新しく庭園を整備し、ヴェルニー公園と名称を改めた海沿いのエリアがある。幕府からの依頼を受けて1865年に来日したフランス人技術者、フランソワ・レオンス・ヴェルニーの名…