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彷徨する自由帖

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鎌倉文学館|旧前田侯爵家別邸、上品な蒼い瓦の洋館と薔薇園

鎌倉の長谷にある前田家の別邸は、もとは第15代当主の前田利嗣が土地を購入し建設した、日本家屋だった。しかし、明治43年の頃に残念ながら焼失。その後も洋風建築に姿を変え、大正12年の関東大震災では倒壊するなど受難を経験してきたが、立て直された洋館…

窓の適切な開け方 / 鞄の底は小銭だらけ

欠陥の多い人間の性質を、如実に反映する生活の一幕。私が窓という建具の適切な扱い方、要するに正しい開け方(と表現しても差し支えないものか、どうか)を知ったのは、一体いつ頃のことだっただろうか。記憶を辿れるだけの期間さかのぼってみると、高校に…

すべてがどうでもいいと感じられる時:個人的な鬱と過眠の関係について

人生や人間という存在に何の意味も価値も見いだせないとき、それでとても苦しいとき、けれど状況を好転させようと懸命に努力しているところへ「考え方さえ変えれば楽になれる」「何かに夢中になろう」なんて言われてもまったく説得力はありませんよね。どう…

アンデルセンのおはなし《ある母親の物語》から - 死神の館の温室には、生命の植物が集められている

温室と言えば、折に触れて脳裏に浮かぶ童話がある。「ある母親の物語」といって、近代のデンマークを代表する作家、ハンス・クリスチャン・アンデルセンが手掛けた短いお話だ。彼にとっての主要なテーマだといえるキリスト教的な信仰や、もっと普遍的な「運…

必要以上に残酷な気持ちになるとき

机に頬杖をついて、瞼を閉じ、足先から床へと沈み込んでいきそうな感覚に溺れながら心中で呟く。私は別に、あなた個人のことが嫌いなのではなく、どうしてもこの世界を好きになれないだけなのだと。だから時折、ひどく残酷な気持ちになる。傷つけたいとも思…

繊細かつ鋭い歌詞が魅力的なイギリスのシンガーソングライター、ローレン・アキリーナ (Lauren Aquilina) の楽曲

留学生時代、ロンドンで暮らしていた頃にはじめてその存在を知ってから、今に至るまでずっと聴き続けている歌手の楽曲がある。私と同い年のシンガーソングライター、ローレン・アキリーナ(Lauren Aquilina)。両親はマルタ共和国出身で、イギリスの都市ブリ…

人工的なフルーツの味と色に惹かれてやまない

胸に強烈なノスタルジアを喚起するものとして、各種ソーダ水とか、駄菓子屋によく置いてあった四角いくだものグミとか、そういった色とりどりの飲み物やお菓子が挙げられる。まず目を引くのは彼らの外見だろう。思い浮かべるのは、よく喫茶店のガラス棚の隅…

《Kの昇天》や《泥濘》などから感じられる梶井基次郎の視点 - 分裂する意識、分身への興味|日本の近代文学

「視ること、それはもうすでに なにか なのだ。自分の魂の一部分或いは全部がそれに乗り移ることなのだ」この部分を読んだとき、高校現代文の授業で「Kの昇天 - 或はKの溺死」が取り上げられた際にはうまく呑み込めなかったある種の感覚に、少しだけれど近付…

令和3年に閉室した「八王子市郷土資料館」の収蔵品より:53年の歴史を紡いだ展示場(後に桑都日本遺産センター 八王子博物館へ移転)

2019年2月に「八王子のおまじない」という特別展を見に行った郷土資料館。そこがいつのまにか閉室しており、さらには移転して別の施設になるのだとつい先日知って、驚いた。新しい展示場には桑都日本遺産センター(八王子博物館・通称はちはく)の名称が用い…

旅行とビジネスホテルと私

「予約している○○と申しますけれども」「はい、お待ちしておりました」……このやり取りが懐かしく、恋しい。知らない土地、あるいは知らない国。ひとりの知己もおらず、まったく馴染みのない場所で、私は正しく途方に暮れている。目的は、たぶんある。現地で…

井の頭恩賜公園さんぽ:昭和レトロな趣の連れ込み宿「旅荘 和歌水」の建物内部にいつか入ってみたい

この写真を見てほしい。井の頭公園の北、吉祥寺駅方面に続く大きめの道に出るあたりで、私は魅力的な建物《旅荘 和歌水》に遭遇した。ただ前を通っただけなのに、一目で陥落してしまったのだ。左端の方に少しだけ写っている鮮やかな青緑の壁。そこが入り口で…

酒入りの洋菓子、あるいはキス / 気難しい相棒としての万年筆

雨は地面に潤いをもたらすかたわら、私からは色々なものを奪っていくようだ。外出先で突然降られた時などは特に。冷たい水滴が叩く頭髪や顔、徐々に湿って重たくなる上着……そうして増えた質量のぶんだけ、体温と一緒に何かが失われていく気がしてならない。…

令和3年1月に閉館し、5月に解体される「原美術館」の往時の姿|昭和初期の近代建築・洋風邸宅

茂る木立の葉に囲まれて、建物の白い壁に落ちた影はほんのりと蒼く、展望台のように屋根から突出している部分を見上げれば奥に空が広がっていた。窓から漏れる明かりが際立つ橙色なのも、計算されてのことだろうか。原美術館は、財団法人アルカンシェール美…

短編《霧笛》を読みながら - 大佛次郎記念館と近代洋館群|横浜山手の丘散歩Ⅲ

わりとよく足を運ぶ公園の片隅で、また新しい宝物を見つけたような気分になったけれど、すぐそれはあまりに傲慢な意識だと思いなおす。だって、昔から幾度となくこの前を通っていたのにもかかわらず、中を覗いてみようともしなかったのは自分の側なのだから…

夜の輪郭 / 記憶の中の火

朝を迎えてみると、やる気と呼べるものの全てが残らず失せている。どんなに活動的な気分も払暁には消えてしまう。静かな夜の中では深く考えられることや、そこから実際に行動にうつせることが、それは沢山あったのに。たとえ夜間に十分な睡眠をとっていても…