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彷徨する自由帖

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横浜開港資料館へ|近代化産業遺産の旧館およびペリー来航以前から命を繋ぐ中庭の玉楠

 

 

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参考サイト:

横浜開港資料館(公式)

 

 

 代表的なものだと県立歴史博物館、郵船歴史博物館、それから横浜三塔など……。横浜市中区は、規模が大きくてかっちりとした印象を持つ近代建築の宝庫だ。

 特に地下鉄・みなとみらい線の馬車道駅から日本大通り駅に至るまでの短い距離に、珠玉のファサードがずらりと並んでいる。雰囲気もそれらしく、歩きながらまばたきをするたび、和装や洋装の人間が足早に行き交うのを眼前に幻視してしまうほど。

 そのうちの一人が不意に振り返ったと思えば、周囲の情景はまた現代のものに戻る。

 

 

 横浜三塔を眺めやすい本町通りから道路を数本挟んだ山下公園には、私が「海上の近代建築」と勝手に呼んでいる氷川丸がある。

 ここは船自体の歴史が興味深いのもさることながら、大正アール・デコの影響を多分に反映した内装がほんとうに美しく、目に楽しい。何時間でも滞在して船体が前進する錯覚を楽しんでしまう。次の寄港地は一体どこだろうかと。

 

 

 自身の地元という贔屓目を抜きにしても、近代好きにとっては必見の事物が、横浜には溢れている。実際その空気に触れるたびそう思う。

 昨今の情勢の影響でずいぶんと遠ざかっていたけれど、久しぶりにみなとみらい線を利用してみて、とても驚いた。馬車道駅がこんなに綺麗というか、リニューアルされて風貌が明るく変わっているなんて、まったく予想外で。昔はもっと薄暗い、本当に地下鉄然とした感じだったはず。

 もしかしたらこれも、2020年に開催が予定されていた某大規模スポーツイベントを意識した企画だったのだろうか。仮にそうだとすれば、かなり苦い感じもするのだが。

 

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 レンガ積み風の「それらしい」壁の意匠が、文明開化期の横浜を連想させる。

 目的地である横浜開港資料館の最寄りはもう一駅先だけれど、気分転換に途中で降りて、表を歩いた。気が滅入るような日差しと湿気を避けるように、少しでも水と緑のある一角を目指して進むと、公園の木陰に白味のかった石造りの館が見えてくる。そこが施設の東門。

 奥にあるのは、2007年に近代化産業遺産としてリストにその名を連ねた、昭和6年竣工の旧英国総領事館の建物だった。現在の横浜開港資料館である。

 

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 内装の一部にスクラッチタイルが使われているようで、以前横須賀で見た、逸見波止場衛門(これも昭和初期の竣工である)に施されていた意匠を思い出した。この時代、特に好かれた素材だったのかもしれない。表面の光沢は焼成時にかけられた釉薬なのだろうか。

 入口正面にある館内の記念ホールは休憩室として使われ、かつて執務室だった記念室の方は時期によって一般公開されている。

 左右対称で整い、無駄な空間を設けないつくりの建物を味気ないと感じる人もいるかもしれないが、ここはそれが良さのひとつなのだと思う。

 歩き回っていたら、そうして今まさに自分が立っている場所で、嘉永7年に日米和親条約が締結されたのだという掲示を見つける。当時は領事館ではなく「応接所」が用意されていて、約1か月にわたり交渉が行われていたのだとか。

 

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 それに関連して、中庭に生える大きな玉楠(タマクス)の木も素通りできない。4つのガス灯に囲まれて、葉を青々と茂らせている大樹。全体を視界におさめると傘によく似た形をしているのが分かる。

 この木は正式名称をタブノキといって、ペリーがはじめて来航した頃からこの土地に生えていたとされる。根拠となるのは画家ハイネが描いたいくつかの絵のようだ。明治・大正期の横浜で、近代化する街をずっと見守ってきた存在。

 慶応2年の大火、そして大正12年の関東大震災の折には原型をとどめない程の火災被害を受け、完全に焼失してしまったかと思われたが、その都度あたらしい芽を根元から吹き復活を遂げてきた。植物の生命力は強い。

 震災後に現在の敷地へ移植されて以降も、こうして変わらず海からの風に葉をそよがせている。

 

 玉楠は中庭にあるため、開港資料館の敷地に入らないとよく見えない。旧館と新館に囲まれ、まるで守られるようにして生えている佇まいは、どこか好ましい感じがした。

 今までたくさんの波乱や出来事を経験してきた分、末永く旧英国総領事館の建物と寄り添って、のんびり日がな一日を過ごしていて欲しい。閉館後に訪問者がいなくなって、周辺のガス灯に火が灯される頃、彼らは一体どんな話をしているのだろう。

 

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