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彷徨する自由帖

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旧旭川偕行社・竹村病院六角堂 - 明治時代の木造擬洋風建築、春光園前|北海道一人旅・旭川編(1)

この建物は旧旭川偕行社のもの。現在も偕行社という組織は存在するし、設立当時から地続きのものではあるが、第二次世界大戦以前と以後で性質は少々異なっている。「偕行」の語は、中国の古い詩篇「詩経」に登場する一節が由来とされているようだった。旧陸…

誰もがいて誰もいない、インターネット

何か目的のもとに発されている音を、虫たちの側が意図しているようには、人間の側は受け取れない。知らない言語だからだ。音として存在しているものを認識できるので、いるのは判る。おそらくはこうだろうと予想することもできる。少なくとも研究者は仮説を…

妹背牛町郷土館 - 旧村役場のフランス風近代建築、その内部にある約600点の資料|北海道一人旅・妹背牛編(1)

拠点にしていた旭川駅から妹背牛町まで来たのは、この「郷土館」に寄るためだった。茶色い板張りの壁、なめらかな緑色の屋根、そんな建物の入り口に掲げられているのは校章のような丸いもの。円と星に囲まれた「妹」の字は、妹背牛町をあらわす1文字なのだろ…

抽斗の奥から、昔の手帳を取り出して中身を読む

抽斗の片付けをしていて、異なる段を開けるごとに「手帳」が出てくると気が付いた。手帳。何かを書き込むための冊子であり、高校入学から現在に至るまで、年度ごとに新調しながら私がいつも欠かさず持ち歩いているもの。基本、カレンダーの欄には予定が、自…

焚き火のそばに物語はあった

小さな火種から炎が徐々に立ち上がり、ゆるやかに(かつ、時にはこちらが考えるよりもずっと速く)縦横に広がって、揺らめく姿。火は半透明に見える。幾重のごく薄い布でできた、衣服にも。それに包まれて燃える薪が小さく爆ぜる音。生まれる高い温度と、煙…

言葉の寿命は人より長い / 魔法や知識を受け継ぐこと

数十年、数百年、あるいは千年以上前に書かれたものの一部が、現代を生きる自分にも難なく読める形式で周囲に存在していることを考えると、本当に途方もない。書き手がいなくなり、やがてその声や、眼差しや姿が忘れられても、書物は焼き捨てらたり引き裂か…

「道ありき」を片手に作家ゆかりの地を訪ねて - 見本林の文学館と塩狩峠記念館(三浦綾子旧宅)|北海道一人旅・塩狩&旭川編

その著書を読んで、またそこに記された、周囲の人々から見た三浦綾子の印象を参考にして、頭に浮かべるのは魅力的な人物像だった。考え深く、しかし静的というよりはかなり激しいものを瞳や胸に抱いている、気の強い女性。はっきりとした物言いに、ややもす…

ル・クルーゼの鍋の伝説

旭川空港で黙々と腹ごしらえをしていたとき、不意にそれと邂逅する瞬間があった。羽田を発ってからおおよそ1時間半。首都圏から北海道の中心部まで、航路の発達により、どれほど体感距離が近くなったことか。到着後、2階にカレー屋があると聞いた私は喜び勇…

山形日帰り一人旅(2) 静かな峯の浦・垂水遺跡、山寺千住院の境内には電車が通っている

振り返ってみると、山形行はほんの2カ月ほど前の出来事なのに、すでに思い出せなくなった要素がいくつもある。例えば、このとき山寺の周辺を歩いていて、蝉の声を聞いたかどうか、とか……。蝉は鳴いていたような気がするし、鳴いていなかったような気もする。…

夏目漱石が遺した未完の《明暗》- 虚栄心と「勝つか負けるか」のコミュニケーション、我執に乗っ取られる自己|日本の近代文学

武器になる言葉。盾になる態度。それら、日頃から己を守っている武装を不意に解いて他人と直接向かい合う時、私達はどんな形であれ、必ず、何かしらの傷を受けることになる。どう足掻いても避けられない。人間の世界では、少しでも弱みや綻びを見せた瞬間に…

ベロア生地の、よそゆきの服

2022年の北海道では、特に内陸部の空知や上川方面などを中心に、晩夏の8月末から9月頭にかけて、とある「蛾」が大量発生していた。成虫が翅を広げると、最大で10センチ程度にもなる大きな蛾。ヤママユガ科に属しており、名前をクスサン、というらしい。何ら…

山形日帰り一人旅(1) 思い立ったが吉日、まずは時間に燻された旧山寺ホテル(やまがたレトロ館)へ

日帰りで、山形県の山寺、という場所に行ってきた。実は一緒に行こうと話していた友人がいたのだが、急遽、かなり面白い理由で当分先の予定まで隙間なく埋まってしまったとのことなので、いつも一人旅ばかりしている私は今回も変わらず、単独で目的地に足を…

心的抑止力を弱める虚無感の効能について:「どうでもいい」って思えるから動けるとき、がある

試みが全部裏目に出てうまくいかないことが多く、自分自身の未来や世の行く末に対して、希望などの明るい展望をこれといって見出せないでいるとき。暗い気分というより、まったくの空白、虚無。そういう、どちらかというと諦念を抱いて投げやりな意識を持っ…

レストラン ベルテンポ (bel tempo) - 東陽町 南砂2丁目商店会、団地の1階にある小さなお店|東京都・江東区

この日は友人のご両親が経営されているレストランに集って、昔の級友とご飯を食べていた。東京都江東区、南砂2丁目商店会に店舗を構える、ベルテンポ (bel tempo)。地元の方々に愛されている、こぢんまりとした可愛いレストラン。団地や、その1階部分が商店…

「雪の女王」と「氷姫」- アンデルセンの持つ多面性の一端、冷たく美しい世界の描写|近代の創作童話

デンマークの作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンの手がけた物語の中で、とりわけ印象に残るのが「雪の女王 (Snedronningen)」と「氷姫 (Iisjomfruen)」であり、同時にそのタイトルが示すふたりの登場人物でもあった。いや、登場人物というか、あるいは…