細長いお皿の上に、桃色をした、イチョウ型の「何か」が並べられている。
一片ずつ、分厚く切られているのに確かな透明感があって、白いすじが大理石の紋様みたいにその表面を走っていた。とても柔らかそう。魚のお刺身にも見えるけれど、魚ではない。ピクルスを枕にするようにして並べられ、ひんやりと静かに横たわっている様子には、なんだか奇妙なほどに食欲を刺激される……まだ、名前も知らないのに。
そっとつついてみてもいいだろうか?
どうやらこの何かは、生ハム、であるらしかった。北海道産のしばれ生ハム。時にルイベハム、とも呼ばれるのだとか。
うちのひとつを箸でそっとつまみ上げる。
わさびが添えられた醤油の小皿、その水たまりに浸してから口に運ぶのだそう。従ってみれば、瞬間まぐろの赤身のような風味がして驚き、しばらく咀嚼していると今度は疑うまでもなく生ハムになった。わざわざ醤油をつけていただくだけあってか、そのもの自体の味はしょっぱすぎず、淡くまろやか。
生ハムといえば薄くスライスされたものしか知らなかったけれど、なるほど、商品によってはこういう食べ方もできるのだなぁ。
この日は友人のご両親が経営されているレストランに集って、昔の級友とご飯を食べていた。
東京都江東区、南砂2丁目商店会に店舗を構える、ベルテンポ (bel tempo)。地元の方々に愛されている、こぢんまりとした可愛いレストラン。
団地や、その1階部分が商店街になっている場所が身近にあまりないため、このあたりを訪れるたび新鮮に面白いと思っている。まるで町の中に、また別の小さな町が設けられているみたい。地下鉄東西線の東陽町駅から徒歩数分で辿り着く。
ベルテンポでは平日お昼の時間、数種の日替わりランチが提供されている。内容は主にスパゲッティやハンバーグ……メニューによってサラダかライスが付き、飲み物はコーヒーか紅茶から選べて、2022年8月現在それで税込950円。食べに行きたい……。実はまだ、白昼に伺ったことがないのである。
先日お店にお邪魔したのも夜だったので、この記事には夜のメニューの写真を載せる。イチオシのポテトサラダが提供されるようになるのは11月からのことだそうで、もう、今からそれを楽しみにしているのだった。
手始めに、野菜のグリルをば食はむとす。焼き立てであっつい。
続いて、これはホタテのカルパッチョ。
つややかで柔らかく、中まで十分に香草の香りと味が染みていて、噛んだあとにのどを滞りなく滑り落ちていく際の感じがたまらないのだった。
そしてホタテ自体もさることながら、特筆すべきなのは細切りの紫玉ねぎ。わずかな辛みと甘さ、シャキシャキした歯ごたえがあって、これがお皿の上に残っていようものならすべて回収せざるをえなくなる。ひとかけらも残したくないので、飲み物のように吸い込む。
メニューの中でもっとも種類が充実しているのは、パスタ類。
大変恐縮なのですが、上の赤い方の写真は料理名を失念しました。おい。先日食べたばかりなのに、自分の頭は大丈夫か……?
辛さのあるトマト味で、確かプッタネスカだった、はず。も、もし間違っていても許してくださいね。
下の写真はバジルペンネ。申し分のない適度な固さにゆでられたパスタにバジルソースが絡んでいる、仮に迷ったらこれで間違いない安心の一皿。この種類のパスタはあとになってお腹の中で膨らんでくるのだけれど、フォークを動かしている瞬間は、不思議といくらでも食べられそうな気がしてしまう。
イタリアンといえば定番のピザ、もおすすめ。これは3種のチーズのピザで蜂蜜つき。回しがけすれば、表面に点々と黒く見えるゴルゴンゾーラの渋さと結びついて、やめられないアクセントに。お酒もすすみます。ちなみにこのとき皆で飲んでいたのは、赤ワインのキャンティ。
やっぱりお肉も食べたい、と思ったら。肉、肉、肉……と念じて顔を上げると、そこには北海道ベーコンの厚切りステーキがある。歯ごたえがあって、赤い部分から滲み出る汁も、こんがり焼かれた表面の香ばしさも魅力的。
この記事冒頭で言及したのも北海道のしばれ生ハムだったけど、ベルテンポで提供されている料理には、北海道産の食材が使われていることが多い。実はホタテのカルパッチョもそうだったし、お酒にも「ハスカップサワー」というものがメニューにある(ハスカップ《アイヌ語:haskap》はスイカズラ系の木の実、甘酸っぱい)。私はこれが大好きでおすすめ。
さらに別系統の肉を求めるなら、ハンバーグステーキ包み焼きもどうだろうか。
ソースの味はあっさりと濃厚の中間で、例えばデミグラスソースなどの味が少し濃すぎると感じる人でも、おいしく食べられるような気がする。個人的に驚いたのは付け合わせのニンジンの甘さ。柔らかく、バターの風味がして、正直これだけでも大量に欲しい。
カットフルーツたっぷり、生クリームの添えられたチョコバニラアイス。
これで食事はおしまい。私は普段メロンをすすんで食べない(かなり独特な味がすると感じる)人間なのだけれど、この日はとにかく炭水化物を沢山摂取したし、外は蒸し暑いしで、水分を含んだほんのり甘い果物が舌と胃袋に染みた。大満足。
最後に、営業時間等の詳細を公式サイトから引用しておきます。
ランチタイム 11:30~14:00
ディナータイム 17:00~22:00
(土日はディナーのみ営業)定休日:
水曜日・祝祭日
こんな風に最低でも年に数回、友達とご飯を食べるのが、人生で最も大きな楽しみのうちのひとつ。