前回の記事の続きです。壁をなめるように火の玉が飛んでいる。そう直感して意気揚々と近付いたら、ただの明かりだった。けれど心を惑わされたことには変わらない。金属製の花の萼に乗るふっくらとした白いガラス。インペリアルスイートルームの上層から退出…
前回の記事の続きです。仮にこのニューアカオを沈みゆく船に見立てるなら、きっと中庭は甲板に対応する部分だろう。ダイニング錦の脇にはそこへ上る小さな階段がある。レンガ風の壁に挟まれた踊り場に立って背後を振り返ってみたら、半円のアーチに飾られて…
前回の記事の続きです。サロン・ド・錦鱗のある15階からエレベーターに乗り、何も分からないままに指示通りのボタンを押す。すると、眠っているのか起きているのか不明瞭なニューアカオの体内で、私の身体は縦の方向に大きく動かされる。どういう仕様になっ…
ホテルニューアカオは老朽化などの理由で2021年の11月に閉館が発表された。現在では、平成初期に建てられた新館ロイヤルウイング(現・ホテルアカオ)が熱海にあるアカオ系列施設の中心となっている。そして同年の冬。11月16日から12月12日までの間、旧館ニ…
この前、三菱一号館美術館で開催されていた展示《イスラエル美術館所蔵 印象派・光の系譜》を鑑賞した。数年ぶりに訪れた場所だった。ジョサイア・コンドルによる設計で、1894(明治27)年に建てられた洋風事務所「三菱一号館」を再現し、2009年に復元竣工した…
中央停車場は大正3(1914)年に創建された。新橋と下関の間で特別急行列車が運転されるようになってから、2年後のこと。この頃は近代化・洋風化という言葉が国の上層部だけでなく、大衆の間に吹き荒れていた時代で、ランプが電灯に変わり、人々の装いは和装と…
友達に教えてもらったり自分で調べたりして最近訪れた飲食店のまとめ。大通りに高級なお店ばかりが立ち並ぶ印象のある銀座ですが、ここで紹介するのは全てふらりと気軽に入れるものです。ぜひ街歩き途中の休憩などに。
とても良質なのにあまり知られていない近代建築や近代の史跡に出会うと、嬉しい気持ちになると同時に、何か慨嘆(がいたん)にも似た念が心に湧き上がってくる。これらの存在が気付かれず、見過ごされるのはあまりにもったいない! と。過去に訪れた場所だと…
上の記事に引き続き、今日も海より広い香水沼の浅瀬で、ゆるゆると手の届く範囲のものを取り寄せて楽しんでいます。ここに記録しておくのは、ペンハリガンが展開しているもののうち「ルナ」と「クララ」の他にも試してみたミニサイズのディスカバリーセット…
画室の外に出て玄関の扉を閉ざし、横を見れば、いま閉めたのと全く同じ色と形をした四角い扉があった。これをそっくりそのまま、密かに入れ替えてみても、きっと誰にも気が付かれないだろう。だからふと、まるで「自分の姿だけ映らない鏡」がそこに置いてあ…
まったく馴染みのない風景を前にして、あるいは初めて聴く音楽に触れて、どうやら自分は以前からそれを知っているのではないか……と感じたことはあるだろうか。一体いつ、どこで体験したのかは思い出せない。それでも確かに頭の隅にあり、ふとした瞬間に浮か…
昔は塩が金に匹敵するほどの価値を持っていたのだと学んだとき、幼い私は理由を確かめる前に内心で深くうなずき、納得した。だって、こんなにも見た目が鉱石に似ている。小児科の待合室に置いてある図鑑で見た、あの石英の柱を、台所で唸り声を上げるミキサ…
自宅で過ごす時間の長さにともない、作業中の気分転換に香水をつける機会が増えました。これがとても楽しいんです。家なら他人が同じ空間にいないので、いわゆる香害となり、不快な思いをさせてしまう心配もありません。まるで小説を読むように香りから情景…
鮮魚の取引される場外市場で有名な、東京都中央区の築地。そこにある「築地本願寺」の建物はとても面白い近代建築だ。もとの本願寺は、1657年に起こった明暦の大火をきっかけに浅草方面から移転されており、度々の小火災を乗り越えて再建を繰り返しつつも関…
明治・大正・昭和初期という変化の大きな時代に建てられた邸宅や施設の数々は、当時の人々の生活様式や趣味、あるいは国や自治体の意図を如実に反映していて、遭遇するたびに学びがあり心をわくわくさせてくれる存在です。最近では大河ドラマ「青天を衝け」…