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英国ペンハリガン(Penhaligon's):セントライブラリーに入っていた香水の印象

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 上の記事に引き続き、今日も海より広い香水沼の浅瀬で、ゆるゆると手の届く範囲のものを取り寄せて楽しんでいます。

 ここに記録しておくのは、ペンハリガンが展開しているもののうち「ルナ」「クララ」の他にも試してみたミニサイズのディスカバリーセット(セントライブラリー)の感想。

 興味のある方の参考になれば幸いです。


目次:


1. エンプレッサ (Empressa) EDP

 エンプレッサはオーデコロンもあるけれど、セントライブラリーに入っていたのはオードパルファムの方。19世紀末、英国が貿易で栄えた時代の事物や土地から着想を得た、「トレードルート」というコレクションのうちのひとつになる。

 最初の印象は弾けるようなブラッドオレンジで、その後もピンクペッパーなど爽やかな香りが、カシスやネロリと他の柑橘系香を巻き込んで流れていくような感じがした。ピーチをはじめとしたフルーティーな要素が、珍しい果物や、調味料の乗った皿の並べられた部屋で着飾り、のんびりしている貴婦人のイメージを喚起する。

 季節でいうなら秋や初冬……?

 そんなフルーティーでなめらかな香りは、徐々にミルキーかつ落ち着いた甘さになっていく。ベースにバニラやココア、キャラメルが入っていて、当時は贅沢品だった砂糖を連想させられた。上流階級の楽しみを詰め込んだような香水。

 

調香師:クリスチャン・プロベンザーノ

 

2. エンディミオン コンサントレ (Endymion Concentré) EDP

 ギリシア神話において、月の女神に魅入られた青年・エンディミオンをイメージした香り。同ブランドの「ルナ」とは対の関係になっている。

 永遠の眠りにとらわれた彼の物語にふさわしく、布団にくるまって目を閉じたくなるような、それから夢の世界に誘われるような感じがした。安眠効果があるといわれるセージやラベンダーがその一因かもしれない。ペンハリガンの香水は、特にラベンダーを印象的に使っているものが多い気がする。

 中盤からはスエードがより男性的に立ち上り、やがて深い甘みのあるコーヒーとスパイス(ナツメグ)などが一つにより合わされて、最後には煙を思わせるスモーキーな香りが漂ってくるのが特徴的。インセンスが燃えた後の灰が、夜明けの風に吹かれている光景を頭に浮かべた。

 夜の考えごとに向いていそう。あるいはこれをつけている男の人の隣で、死んだようにぐっすり眠りたいかもしれない。涼しくなってきた時期の夏にぴったり。

 

調香師:記載なし

 

3. ハルフェティ (Halfeti) EDP

 これも、エンプレッサと同じ「トレードルート」コレクションの一員。

 プッシュした瞬間は未知の香り(特定できないけれど、構成を見るかぎりサフランかなのだろうか……)で、徐々に年季の入った木の家具を思わせる香りになっていく。トルコのハルフェティ村に咲くブラックローズをイメージしているそうで、ヨーロッパから見た「異国」の感じがよく表現されていると思った。

 どこかの民家の台所で、ナツメグやカルダモンが砂糖で練られていくような風景が広がり、窓の外から花の香りが風に乗ってやってくるような。かと思えばプラスチックっぽさもある。最後に少しの爽やかさと、強烈な懐かしさが残るのは……レザー?

 付けた後お風呂に入って洗い流したとき、肌に残る花の香りがとても素敵だった。香りの拡散性は結構強め。

 なお、イギリス本国では「ハルフェティ シダー」や「ハルフェティ レザー」などの派生製品が販売されているようす。ちょっと気になる。

 

調香師:クリスチャン・プロベンザーノ

 

4. ザ・フェイバリット (The Favourite) EDP

 春から初夏にかけて、別荘として使われる宮殿の一角で窓から外を見ている女性が頭に浮かんだ。お花とドレス、そしてこの瓶にあしらわれているベルベットのリボンの印象が強い。うるさくはないけれど、とても華やか。

 最初にスミレの香りに圧倒される。そのあともとにかく花々の匂いが鼻に殺到する感じで、ノートを見るとミモザやアイリス、ジャスミンのようだった。前の二つは特に際立って感じられた……気がするけれど、イエローフローラルに対する造詣が浅いので何とも言えず。

 人の集まる所で必ず一度は出会いそうな香りだと感じつつ、複雑さと軽快さが凡庸な場所から一歩進んでいるような。社交界と、お城の窓際に飾ってある花瓶の花と、知的で自信に満ちた表情の女性。

 華やかだけれど、初めの浮き立つような感じはすぐ薄れていく。

 そして、ベースのムスクとサンダルウッドへ移行する頃にはすっきりとした甘さがあらわれ、最後まで残る。ここは親しみやすい。全体的にパウダリー。

 

調香師:アリエノール・マスネ

 

5. ザ・コヴェテッド・デュシェス・ローズ (The Coveted Duchess Rose) EDP

 イギリス上流階級、架空の貴族たちをイメージして展開される「ポートレート」コレクションに名を連ねる1本。

 この「誰からも愛されるローズ公爵夫人」はジョージ卿とブランシュ夫人の娘で、その控えめな第一印象の内側に、表とはまったく違う顔を秘めている。

 その人物造形を体現するように、香りのはじまりは強く主張しない受け身な感じ。薔薇は薔薇でも甘さはほとんどなく、霧雨に濡れながら咲いている生垣の花を思い起こさせ、かすかに茎や湿った土の匂いもするようだった(トップにマンダリン以外も入っているのだろうか?)。

 公式の説明にある「冷たいロゼワイン」という表現にも納得する。今にも、庭に佇む憂いを帯びた女性の横顔が見える気がした。

 ベースにあるウッディーノートは、最後に石鹸のようなムスクと絡み合ってぐっと怪しくなる。控えめだけれど決して純粋ではなく、何か裏がある、忘れた頃にふんわり漂ってくるとかなりどきどきする香り。

 

調香師:クリストフ・レイノー

 

 

 

 

6. ザ・トラジェディ・オブ・ロード・ジョージ (The Tragedy of Lord George) EDP

 こちらも「ポートレート」コレクションから。

 ジョージ卿は同シリーズのクララと秘密の関係を結んでおり、間に生まれたラドクリフという息子がいるのだが、その香りは廃盤になってしまった。それゆえファンの間では「失踪した」と表現されることが多い。

 スプレーを1プッシュした直後に思い浮かべたのは、森のお屋敷。建物のイメージは熱海にある起雲閣の一角だった(多分たてもの好きにしか伝わらない)。洋館部分にそれは素敵な折上げ格天井の暖炉付き部屋があるのだが、そこに冬、お風呂上がりの紳士がやってきて飲む洋酒のイメージ……。

 初めは渋い男の人で、瞼にちらつくのは格式ある木造旅館の梁、威厳はあるが攻撃的ではない懐の大きい感じ。温かみと落ち着きがあり、きっと時折漂ってくるほのかな爽やかさがシェービングソープで、最後に残る甘さはかすかなバニラかトンカビーンのはず。

 だんだんと丸みを帯びて、徐々に本性が明らかになるようでやはり尻尾を掴ませない、社交辞令で本音を隠している英国紳士の香り。

 

調香師:アルベルト・モリヤス

 

7. ブレナム・ブーケ (Blenheim Bouquet) EDT

 炭酸入りレモネードを思わせるシトラス、ラベンダー、そして針葉樹。

 ブレナム宮殿に着想を得て1902年に発表されたオードトワレ、ブレナム・ブーケは、爽やかだけれど軽々しい感じはしない稀有な香りだと思う。ぱりっとした服を着た人によく似合う。

 レモンの弾けるトップから徐々に落ち着いて深み、また渋さも出てきて、それがほとんど消えてしまったかと思うと、屋敷の裏の森や草地を歩いているような気分になってくる。針葉樹やスパイス(ペッパー)と説明には記載があるけれど、後者は特に刺激的というよりは薬草風の……オレガノなんかを連想させられる感じ。

 軽く洗い流してみると動物の皮のような匂いがして、これが香り全体の雰囲気をまとめ上げているのかもしれないと感じた。ムスクはあまり主張しない。

 フレグランスをジェンダーで分類するのはあまり意味がないと理解しつつ、これは男性につけてもらいたい、という個人的な願望。

 

調香師:記載なし

 

8. ジュニパー・スリング (Juniper Sling) EDT

 ジンの香りづけに使われる、ジュニパーベリーの魅力が詰まったオードトワレ。

 試してみたときの印象は、なんというか「明るい」だった。そういえばトップにオレンジがいた。夏から秋へと季節が移り変わる時期の日差しを連想する、すっきりとした甘さ。煮詰めた砂糖みたいなそれは決してしつこくなく、ベースのベチバーやアンバーに至るまで、長くゆったりと漂う。意外とすぐには薄れない。

 出だしのぴりっとするペッパーのほか、カルダモンやシナモンなどのスパイスが中毒性を加えているのかもしれない、くせになる香り。構成にチェリーが含まれているのはついこの前知った。ペンハリガンの中でもかなり人気がある。

 これが似合う人が果たしてどんな人なのかは、なかなか想像するのが難しい。けれど、このジュニパー・スリングの気配と街中ですれ違ったら、うっかり着いて行ってしまいそうになる。そういう魅力を感じる。

 

調香師:オリヴィエ・クレスプ

 

9. ルナ (Luna) EDT

 こちらは、セントライブラリーを入手する前から年間を通して愛用している香水のひとつ。

 

 

 ルナに関しては過去、上の記事に所感を綴っています。

 

調香師:記載なし

 

10. クァーカス (Quercus) EDC

 イメージは夏、弾けるスパイシーなレモンスカッシュ、マリンノート。

 それほど安っぽいわけではないのだが、ペンハリガンの展開する商品の中でもかなり「普通の男性用香水」寄りの香りで、オーデコロンのわりには持続する。ちなみにカルバン クラインのCK One(シーケーワン)に似ているという意見も少なくない。

 私は車の芳香剤の深みが10倍になったら多分これになると思っている。

 

調香師:クリスチャン・プロベンザーノ

 

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 現在ペンハリガンでいちばん気になっているのは「トレードルート」の新作、コンスタンチノープルです。

 好きな要素が揃っていそうな雰囲気だったのでどこかで試したい。