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この前、三菱一号館美術館で開催されていた展示《イスラエル美術館所蔵 印象派・光の系譜》を鑑賞した。数年ぶりに訪れた場所だった。
ジョサイア・コンドルによる設計で、1894(明治27)年に建てられた洋風事務所「三菱一号館」を再現し、2009年に復元竣工したクイーン・アン様式の建物を利用した美術館である。中央階段や一部のレンガ壁など、解体を経ても保存されていた部位は復元の際にふたたび素材として用いられ、往時を現代に継承するよすがとなった。
1階部分の旧銀行営業室はミュージアムカフェ&バーのCafé 1894として営業しており、展覧会のテーマに沿った個性的なメニューが提供されている(なお、展示替え期間中の限定メニューもあり。気になる)。
展示はタイトルにあるように、中東イスラエルの都市・エルサレムに建つ博物館の収蔵品から選ばれた、印象派の流れに属する作品群が中心となって構成されている。今回初めて日本に上陸するものも多いのだとか。
会場内は大きく4つの章に分かれており、
チャプター1は「水の風景と反映」
チャプター2は「自然と人のいる風景」
チャプター3は「都市の情景」
チャプター4は「人物と静物」
と、それぞれに異なる特徴を持った絵画が並んでいた。それゆえ同じ作者の手によるものでも違う部屋に設置されている場合が多く、主題ごとに各作品を見比べられるのが面白い。初期か後期かでも大きな違いがある。
「先人たちが森や川の詩を発見したように、今日の画家たちはいま、鉄道駅の詩を発見せざるを得ない」
エミール・ゾラ
チャプター3の「都市の情景」において引用されているのが上の一文で、ここでは市街地の風景をほとんど主題としなかったバルビゾン派と、近代化に伴って急速に変わりゆく情景を積極的に画面に取り込んだ印象派との対比が語られた。
光と色彩を利用して描き出されるのは、植物や水の揺らめきや小さな村だけではない。
川の水面に映る工場の煙や、公園の空気を人工的な機構で潤す噴水、そこに計画して植えられた木立であったり、あるいは往来で雨上がりの道を彩る電灯の光であったり……。
そもそも印象派の画家が屋外での制作に集中できるようになったのは、チューブの絵の具が販売されるようになったことと決して切り離せない事実もあり、彼らと時代の変遷との関連はかなり深い。意図する・しないにかかわらず、影響は画面上に顕在する。特にチャプター3はそれを再確認できる章となっていた。
この展示がきっかけで大きな話題を呼んだドイツ印象派の画家、レオ・レッサー・ユリィの作品のなかでも、雨の夜景を切り取った《夜のポツダム広場》は、着眼点と構図がまさに上の要素に合致していたのではないだろうか。
「イスラエル美術館所蔵 印象派・光の系譜」展は2022年1月16日まで開催されている。一部、撮影が可能なエリア有。
また、Café 1894でタイアップメニューを注文してみたので紹介する。
実際に展示されている作品をイメージした料理が出てくるので、鑑賞後に味わうのも楽しいし、鑑賞前に食べて後で答え合わせのようなものをするのも面白い……かも。
前菜とメインとコーヒーor紅茶で、印象派の収穫祭と題されたランチ。
モルタデッラハム、舟形マッシュルーム、玉子のペイザンヌサラダはセザンヌの《川のそばのカントリーハウス》をモチーフにしていて、フランスの田舎風サラダに仕上がっているそうだ。
ミモザの花のような黄色いソースが全体的に柑橘系の酸味を与えて、まったりしたハムの味が引き立っていて良かったと思う。うすーくスライスされているマッシュルームや底に眠ったクルトンの食感も二重丸。
メインの奥州いわい鶏と海老のフリカッセ、バターライスに添えられているソースは優しいカレー風味。モチーフはゴッホの《プロヴァンスの収穫期》だった。
まさに干し草のような外観をしている細切りの野菜が、絵に描かれた藁を連想させ、秋から初冬にかけてのとりわけ乾いた風がそばを吹き抜ける錯覚をおぼえる。鶏肉も海老もジューシーで、最後までソースに絡めながら完食した。
ランチタイムを過ぎればタイアップデザート「花咲くリンゴのシブースト」が提供されるようになるので、訪問時間帯に合わせて異なる限定メニューを注文できる。
体が温まる、ウォームスパイシーかつミルキーなチャイラテもおすすめ。
こちらもタイアップなので、この展覧会期間中の限定メニュー。
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