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彷徨する自由帖

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東京駅・丸の内駅舎(中央停車場)の復原 - 辰野金吾が手掛けた大正初期の煉瓦造り建築

 

 

 

 

参考サイト・書籍:

本の万華鏡|国立国会図書館

日本建築学会

Tokyo Station City

新詳日本史(浜島書店)

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 神奈川県在住の私が、品川区の高校に進学したことでよく東京方面をうろつくようになった2011年頃、東京駅・丸の内駅舎は復原工事の真っ只中であったように思う。シートにすっぽり覆われていた外観と、ほんの少しだけ上部が見えたドームの様子をよく覚えている。

 やがて翌年の6月に保存復原工事が完了し、もとの駅舎(かつては中央停車場と呼ばれていた)の姿が空の下に再現されて以来、何度か足を運んだ。主に東京ステーションギャラリーや三菱一号館美術館に立ち寄ったり、東京會舘の建物を見たりするために。

 駅に到着して、正面広場の方面に出てからあのファサードを振り返る際、ぼんやりと胸に浮かぶ感慨はなんだろう。

 赤レンガを飾る白い石の線、ヴィクトリアン・ゴシックに影響を受けたいわゆる「辰野式」の佇まいを前に、自分がイギリスで生活した数年間を思い起こすからかもしれないし、大正期の東京に暮らしていた人々の毎日に心が引き寄せられるからかもしれない。

 そういえば辰野金吾は1919年に、その前年から世界中で流行していたスペイン風邪(インフルエンザ / 流行性感冒)が原因で亡くなっている。新型ウイルスの蔓延する現代の様子をもし遠くから眺めていたら、どんなことを思うのだろう。

 

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 中央停車場は大正3(1914)年に創建された。新橋と下関の間で特別急行列車が運転されるようになってから、2年後のこと。

 この頃は近代化・洋風化という言葉が国の上層部だけでなく、大衆の間に吹き荒れていた時代で、ランプが電灯に変わり、人々の装いは和装と洋装が入り交じるようにり……と、明治以上に新しい動きの多い時代だった。なので調べていてとても面白い。辰野金吾が好んで設計した赤レンガの建築も、当時を象徴するような佇まいとなっている。

 建物の特徴や、特筆すべき部分を挙げればきりがないが、先日初めて気が付いたものの一つに「覆輪目地(ふくりんめじ)」がある。壁に近寄ってじっと目をこらすと、レンガとレンガの間を埋める迷路のような目地が、外側に向かって半円形に膨らんでいるのが分かるのだ。

 なかでも縦と横の目地が交差している地点は蟇股(かえるまた)と呼ばれる仕様になっていて、接触部分に特徴的な継ぎ目が見られる。

 覆輪目地の技術は一時期継承が途絶えていて、丸の内駅舎の復原にあたって改めて職人が習得した技であるらしく、単に近代建築の外観を再現するということ以上の意義がこの事業にはあるのだと感じた。

 

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 非常に丈夫な造りをしていた竣工当時の駅舎は、関東大震災の際も倒壊しなかったほど堅牢で、むしろ後の戦災により大きな被害を受けた。復原は、1万本以上の木の柱からなる地下の基礎部分から、地上の外観、内装に至るまでの規模に及び、現在見られるような姿になっている。

 東京大空襲で失われた建物の部分で最も気になるのは、駅の南北両端の空間を彩る、壮麗なドーム。天井で羽を広げているのは8羽の大鷲だ。

 復原が開始されるまで、この空間には屋根として、戦災復興工事の一環で設けられたジュラルミン製のドームがかぶせられていた。東京駅を利用した人の中では、まだそちらの方を見慣れているという人の数がきっと多いだろう。

 大正期に中央停車場が創建したばかりの頃の資料、文献や白黒写真などから得られる情報をもとに完成したドームには、実は当時から運よく生き残っているパーツも一部に使われている。石膏のレリーフなどがそれだ(下の写真、並ぶ白いアーチのうち灰黒色の飾りが施されているところ)。

 

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 ちなみに、カメオのような意匠の彫刻が合計8カ所に設置されているのだが、これは十二支から選ばれた8種類の生き物であるらしい。関連は不明であるものの、残りの4種類の動物が佐賀県にある武雄温泉楼門(これも東京駅と同じ辰野金吾による)の天井から見つかっていて、何か設計者の意図を考えずにはいられない。

 ふと築地本願寺に沢山の動物像を配置した伊東忠太を連想したが、縁起のよいモチーフとして動物を用いたのか、あるいは単純に好きだったのか、勝手な想像がふくらむ。

 

 このような通りすがりに楽しめる外観の特徴に加えて、もっとたくさん丸の内駅舎を堪能したい場合、東京ステーションギャラリーに足を踏み入れたり、駅舎内のホテルを利用したりする選択肢がある。

 そうすると、外装とはまた異なるレンガ壁や再利用されたシャンデリア、ステンドグラス等を鑑賞でき、八角塔の内部を階段から楽しめる。またステーションホテルでドーム上部に面した部屋に滞在すると、なんとあのレリーフが窓から至近距離の位置に見られる贅沢仕様。

 泊まりたい。近年の情勢下で国内外旅行へ行けていないので、その分貯まったお金を使って、近場でのマイクロツーリズムに身を投じるのも悪くないかもしれない。

 

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