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彷徨する自由帖

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旧送水ポンプ所の建築を使った「神奈川県水道記念館」- 近代水道百選にも選ばれた土木遺産・寒川町

神社の正面から境内を出て道を辿り、まっすぐに三の鳥居、二の鳥居と順に出会って、一の鳥居が視界に入る手前で右折をする。交差点に看板があるので分かりやすい。そこからしばらく歩くと、テニスコートとプールの向こうに「それらしい」建物の影が見えてき…

泥水の染みたパン

どうにも幸先の悪い日というやつは、いちど地面に落としたパンみたいなものだ。決して食べられない訳じゃない。けれど付着した砂を払っても、あるいは乾かしてみても、地面に落ちて汚れた事実だけは消えない。名前も知らない、体によくない物質が残っている…

明治に登場した「勧工場(かんこうば)」- 百貨店の前身、文明開化期を象徴する商業施設|横浜市歴史博物館の模型

客の要望に応じて商品を奥から出してくるのではなく、あらかじめ店内に陳列しておく新しい販売の形態。また購入に際して、値段の決定に交渉を必要としない、いわゆる現金掛け値なし。現代においては当然でも、当時は画期的だった営業の仕方の源流は、他なら…

サム・ロイド著《The Memory Wood(邦題:チェス盤の少女)》「記憶の森」で対峙する脅迫的な幻想は、現実の殻を被った童話

この物語は、現代のイギリスを舞台とし、架空の誘拐事件を扱ったサスペンス・スリラー小説だ。イギリスの作家、サム・ロイドのデビュー作である「チェス盤の少女」の原題は、ザ・メモリー・ウッド(The Memory Wood)。直訳すると「記憶の森」になる。英国ハ…

精霊馬を思いつつ茄子を育てる

お盆の風習のひとつに精霊馬(しょうりょうま)というものがある。キュウリやナスに木の棒の足を刺して、動物の牛と馬をかたどった、一種の供物。私の住んでいる場所では比較的多く見られ、幼い頃から自然とその存在を認識していたからか、日本国内でも地域…

魂の瑕疵

ひとりの人間が抱ける限界まで膨らんだ大きな感情。それが動かされるとき、私たちの眼前に目を瞠るほど美しい紋様を綾なすのは、特定の物語の中だけだ。現実ではありえない。よく似たものはたくさんあるが、残念ながら、そのうち九分九厘は偽物なのである。…

旧新橋ステンション(国鉄汐留駅)跡の再建駅舎と地下の遺構 - 鉄道歴史博物館

著名なところでは、三代目歌川広重や小林清親。そして、他にも同じ明治を生きた多くの浮世絵師たちが残した、旧新橋停車場のようす。新橋停車場は、1914(大正3年)に東京駅が開業した折、汐留駅と改称することになった。その跡地に立てられている駅舎は、紙面…

夏目漱石の《文鳥》もういない人の幻を籠の中に視る官能|日本の近代文学

夏目漱石が1908(明治41)年に発表した短編小説《文鳥》。初めて読んだときは冒頭から中盤にかけて、これは作中の「自分」が文鳥を飼うこととその様子を、淡々と繊細に描写した話なのだろう……と勝手に思い込んでページをめくっていた。実際、そんな感じで物…

近代化遺産《記念艦 三笠》- 明治時代にイギリスで造られた戦艦の復元

ある街や都市の内外を行き交う人間の役割を表現するのに、しばしば血液という言葉を使っている。張りめぐらされた道を血管に見立て、時には内臓のような建物に流れ込み、あらゆるものを機能させる彼らの様子をたとえて。そう考えれば、大きな船はそれ自体が…

「私はこうして鬱から回復しました、だからあなたもきっと大丈夫」という、根拠のない言説にはうんざりです|かつての当事者として

「しばらく鬱状態だったけれど、○○をしたら症状が大幅に改善した! 他の皆もそうするべき」とか、「こういった工夫をすれば精神の状態が安定する」みたいな発言が世間でやたらともてはやされるのに、心底うんざりしていませんか。私はしている。もう、大いに…

【アニメ版第1話・第2話】ジョーカー・ゲームの背景に登場する日本の近代建築や文化的要素

柳広司による小説作品「D機関シリーズ」。現在、角川文庫から既刊4巻が刊行されており、2016年4月からはProduction I.Gによって制作されたアニメーション(全12話)も放映されていた。それから今年でちょうど5周年を迎える。私は基本的に原作のファンなのだ…

ネギ、葱、禰宜

昔は外で「ネギ坊主」を見かけるたび、単なる野菜ではなく何か特別な、魔法の植物だと思っていた。そもそも、彼らがネギだということすら知らなかった。畑のうねに沿って細長い緑の首が並び、先端にやわらかそうな白い花をつけている。近寄って吹けば、コロ…

残存する米海軍EMクラブ(旧海軍下士官兵集会所)のシャンデリア

横須賀市のショッピングモール《コースカ ベイサイド ストアーズ》の一角には、かつての米海軍EMクラブで使用されていた、一台のシャンデリアが今でも使用・展示されている。場所は、汐入桟橋から吾妻島の周囲を廻り、新井掘割水路を通って戻るクルーズ「YOK…

近代の軍事施設、レンガの歴史遺産が残る「猿島」へ - 横須賀市の無人島・国史跡の旧要塞

生まれてこの方、英国に留学していた数年を除いてはずっと住み続けている地元、神奈川県。代表的な横浜をはじめとした地域に、私の大好きな近代遺産が多く集まっている興味深い県なのだが、ではそのすべてに足を運んだことがあるか……と問われれば、答えは否…

愛蔵版《シェーラ姫の冒険》と《新シェーラ姫の冒険》人間を愛する魔神たちのまなざし

まだ幼い頃、夢中になって読んだだけでなく、いまでも自分の心を捉えて離さない。もしもそんな児童文学作品をひとつ選んで挙げなさいと言われたら、私は間違いなく「シェーラ姫の冒険です」と答えるだろう。主に1990~2000年ごろ生まれた方々の中で、児童書…