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【アニメ版第1話・第2話】ジョーカー・ゲームの背景に登場する日本の近代建築や文化的要素

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公式サイト・書籍:

TVアニメ『ジョーカー・ゲーム』

ジョーカー・ゲーム(角川文庫)(著・柳広司 / 絵・森美夏)

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 柳広司による小説作品「D機関シリーズ」。

 現在、角川文庫から既刊4巻が刊行されており、2016年4月からはProduction I.Gによって制作されたアニメーション(全12話)も放映されていた。それから、今年でちょうど5周年を迎える。

 私は基本的に原作のファンなのだが、映像化したことで街の様子や小物などをより具体的に想像できるようになり、近代好きとしては視聴していてとても楽しかった。

 この記事では主に、アニメ版「ジョーカー・ゲーム」で画面に登場したいくつかの建築物や、戦前の昭和を感じさせる特徴の数々に目を向けて、当時の文化に思いを馳せてみることとする。

※ここから先、物語に軽く言及しています。鑑賞前のネタバレに注意。

 

 

◇アニメ版1話&2話の時系列:

 昭和14(1939)年の春。

 

◇原作本文との相違点:

 ゲーム中の学生の発言「先年、ロンドンで行われた軍縮会議(1930年)の時の日本が~」の部分が、アニメ版では地名が「ワシントン」になり、発言者も結城中佐に変わっている。

 史実におけるワシントン会議は1922年。

 

建物および交通

  • 参謀本部と銅像

 第1話・第2話では佐久間が何度かここに出入りする。当時の所在地は東京府、麹町区永田町。

 綺麗な屋根が特徴的な参謀本部の庁舎は、当時教師として来日していたイタリア人、カッペレッティによる設計で、明治14年に竣工した。明治27年に起こった地震で被災したため、その4年後に本部の機能を隣の新館へと移している。

 やがて昭和16年になると、陸軍省と参謀本部はここから市ヶ谷へと移転するので、劇中で見られる姿はその直前ということになる。

 また、建物の前に鎮座する騎馬像は、有栖川宮熾仁(ありすがわのみやたるひと)親王をかたどったもの。彼は明治元年に東征大総督という任に就き、同年4月の江戸開城に貢献した。

参考:中央官庁の集積地 ~ 霞が関・永田町 | このまちアーカイブス | 三井住友トラスト不動産

 

  • 国会議事堂

 ほんの一瞬だが国会議事堂が出てくる。これは大正9年(1920年)に着工、そこから17年にわたる長い工事の後、昭和11年(1936年)に竣工した。なので、アニメ第1話・第2話の時点では完成してからまだ3年しか経っていない、できたてほやほやの状態。

 丈夫な鉄骨鉄筋コンクリート造りということもあり、工事中の大正12年(1929年)に起こった関東大震災でも、被害を免れた箇所が多い。

 参議院のページ 「国会議事堂案内 国会外景」に色々な説明が載っている。貴重な当時の白黒写真や、建物細部のレリーフ、照明などは必見。

 

  • 服部時計店

 ゴードン邸から視点がズームアウトする際、大通りの交差点に面して、目立つ隅丸建築が建っているのが分かる。昭和7(1932)年に竣工した、服部時計店(現セイコーホールディングス株式会社)の「二代目」時計塔がそれだ。

 今では和光本館として知られ、近代化産業遺産にも認定されている。

 ネオ・ルネッサンス様式を踏襲した優美な時計塔、震災にも耐えうるように選ばれた石の素材と、窓などに施された繊細な装飾……。まさに、銀座のシンボルと言ってもいい存在。

 設計を手掛けた渡辺仁は他にも、日本航空や東京ガスの会長を務めた、原邦造の邸宅(昭和13年竣工)にも携わっている。これは原美術館として最近まで開館していたが、主に老朽化を理由として2021年1月に閉館となった。

参考:和光と時計塔の歴史

 

  • 東京駅

 第2話の中盤で佐久間の背景に描かれたのが、言わずと知れた東京駅の丸の内駅舎

 辰野金吾による設計で1914年(大正3年)に竣工した。後の第二次大戦中に空襲で大きな被害を受けたため、現在でも見られる駅の外観は、2012年の工事で復元されたものとなる。その際、3階部分が省略されたり、南北のドーム部分が取り払われたりした。

 東京駅丸ノ内本屋として国の重要文化財に指定されている。

 

  • 明治生命館

 上の場面で東京駅が映り込んだ直後に、この白い明治生命館も登場する。設計は岡田信一郎。つまり、佐久間が歩いていたのは現在の日比谷通りということになる。

 1934年(昭和9年)に竣工した荘厳な古典主義の外観と、古代ギリシアを思わせるコリント式の柱が特徴的だ。皇居の堀と三菱一号館に挟まれても、緊張している様子などまったくない。

 国会議事堂と同じ鉄骨鉄筋コンクリート造りで、柱頭にあしらわれているアカンサスの葉の意匠は、建物内部1階の天井にも見ることができる。戦後の一時期はGHQにより接収されていた。

 内部は特定の日時においてのみ、無料で一般公開されている。

公式サイト:明治生命館|国指定重要文化財

 

  • 路面電車

 第1話・第2話で幾度となく画面を横切る路面電車

 その多くは車体が緑とクリームの二色で塗り分けられており、記載されている番号は5013だ。すなわち、東京市電の5000形である(第二次大戦後に都電と改称)。実際に5013~5024の車体が製造されたのは昭和18年のことなので、本来、設定が昭和14年の世界には存在しないはず。

 アニメ劇中ではそれらしい架空の車体として、あえて5013を登場させたということなのだろう。

 実はジョーカー・ゲームで描かれる昭和初期の頃、東京市電は関東大震災からの復興に尽力しつつも、経済恐慌や車(バス、1円タクシー)の台頭を受けてなかなかの苦境を経験していたそうだ。

 その後も第二次大戦中には空襲被害に遭い、なんとか持ち直した時期があったものの、昭和38年の杉並線廃止を皮切りとして衰退の一途を辿った。

 

  • その他

D機関の周辺

 アニメにおける〈大東亞文化協會〉の外観、赤レンガの積み方が何を採用しているのかはちょっと判別ができず。所在地の設定は九段坂下、愛国婦人会本部の裏手となっている(原作本文参照)。

〈大東亞文化協會〉の建物隣には「名峰堂薬局」と号を掲げた看板建築があり、向かいには「大帝都印刷」の表記が見えた。手前の電柱にも「○○眼科」という広告が出ている。そういった細かい部分に目を凝らすのが楽しい。

 

昭和初期のカフェ事情

 D機関の学生たちが夜の街に繰り出すシーンでは、一時停止しないと追いきれないほどの看板およびネオンがきらめいている。

「喫茶ノグチ」「喫茶トランジスタ」「カフェ メアリー」系の表記もあれば、「夜汽車」や「紅桜」などちょっと怪しいものまで様々だ。

 一般にカフェというと純喫茶を思い浮かべる人の割合が多いと思うが、料理よりも女給との接触と酒に重きを置いた、「特殊飲食店としてのカフェー」が脳裏をよぎる人も割といるはず。私はどちらにも興味がある。

 関東大震災以降、特殊なカフェーの件数は増加。そもそもこの区分が生まれたのも、昭和初期に警察が規制を強め、純喫茶とそうでない店を分ける必要が生じたからだった。

 同じ時代に生きたD機関の学生たちが遊んでいるところ、ちょっと覗きたい。

参考サイト:大正2年〜昭和14年・都市文化の勃興とビール (1)新しい娯楽施設「カフェー」の隆盛|キリン歴史ミュージアム

 

小物や文化的要素

  • 腕時計

 佐久間が食堂へ水を取りに行く際、窓際に置いていた腕時計

 盤面にはSHIRATOと書かれている。枠にはJAPANとも。実際にその名前の時計製造会社は存在していないため、おそらくアニメ版ジョーカー・ゲームのチーフリサーチャー、白土晴一氏の名前から取ったものだろうと推測した。

 日本で初めて作られた腕時計は精工舎(セイコー)の「ローレル」であるらしく、発売は1913(大正2)年のこと。劇中の時間に重なる昭和12~14年の頃は、日中戦争や第二次世界大戦の影響で、セイコーも時計より兵器の生産に注力する必要があった。

参考:第一期:世界を追いかける(1881~1920年代) | 会社と製品の歴史 | THE SEIKO MUSEUM GINZA セイコーミュージアム 銀座

 

  • 黒い車

 ゴードン邸前に停められていた車は「ダットサン セダン」に似ている。正面の意匠がそれらしい感じ。ただ、16型なのか17型なのかまでは分からなかった。

 もしも17型であれば、日産自動車から1938年(昭和13年)に発売されたものなので、この家宅捜索が昭和14年であることを考えると当時としては最新のものになる。

 上のセイコーをはじめとした時計会社と同じく、自動車など製造系の他の会社も戦争の機運が高まると、乗用車より軍需用トラックなどの製造に力を入れざるを得なかった、

参考:NISSAN HERITAGE COLLECTION online

 

  • 広告気球(アドバルーン)

 アニメ版ジョーカー・ゲームでは何度かアドバルーンが映る場面がある。目を凝らすと、旗の部分には「祝 浪漫科学館開館」「○屋呉服店大賣出し」などと書かれているようだ。

 戦前まではこうした広告気球が、各店舗や会社だけでなく帝国陸軍においても使われていた。だが昭和14年を境にして、アドバルーンや百貨店の大売出しが禁止されている。それだけではなく、商品の宣伝自体が鳴りを潜め、ほとんどの張り紙が国威発揚、戦意高揚を目的としたものに変わった。

 ちょうど、JGの第1話・第2話がそれと同じ年であるのだと認識して視聴すると、あの宙に浮かんだ球体も何かの象徴のように思えてくる。

参考:ニッポン広告史 昭和篇 初期から戦中・終戦まで  | アドミュージアム東京

 

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 アニメ版は他に第8話・第9話の「ダブル・ジョーカー」、第10話の「追跡」、そして第11話の「XX ダブル・クロス」で当時の日本の様子が描かれている。

 今後それらに登場するものも順にまとめてみたい。

 

 

 

Amazon.co.jp:ジョーカー・ゲームを観る | Prime Video

 

 ほか、明治村の聖地などまとめ: