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彷徨する自由帖

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旭川遊歩の回想、とめがき【2】零雨の平らな街と古い銭湯

// 羽田空港を出発し、津軽海峡上空を通過したあたりで眼下、飛行機の窓一杯に見える北海道は、視界の及ぶ限り山々のうねりで構成されている。 季節にもよるのだろうけれど夏だとかなり濃い緑で、むしろ黒い、と言ってしまっても間違いではないような深い色…

旭川遊歩の回想、とめがき【1】出来秋の紅輪蒲公英

晩夏も過ぎた頃の旭川に4日間、いた。合計で3度の夜を越したと書こうとして、辞書を引いたら「夜越(し)」なる言葉が存在していたのを知る。その意味のひとつに「夜中に山河を越すこと」というものがあったので、ぼんやり光景を想像し、可能ならぜひともそ…

COFFEE SHOP FUJI(喫茶富士)- 薄水色をしたクリームソーダ、しなやかな猫の気配があるレトロ喫茶店|千葉県・松戸市

JR松戸駅の西口を出たら、歩行者デッキの階段を下りて、線路沿いに道路を北へ。2分程度歩くと左側、角を曲がってすぐの場所に見えてくる。通りに面した大きな四角い窓に植物の葉が茂り、レンガ風の壁の上には、青と橙の細いしましまで彩られた庇がある店舗が…

J・P・ホーガン「星を継ぐもの」かつては現実に思えた夢の名残り|ほぼ500文字の感想

本棚から創元SF文庫「星を継ぐもの」が出てきた。J・P・ホーガンの著作で日本語訳は池央耿。《巨人たちの星シリーズ》3部作の、第1部だった(しかし、かなり後になって新しく第4部が発行されている。さらにそれ以降の続刊は日本語に訳されていない)。読む…

JUL7ME(ジュライミー)のフレグランスハンドクリーム使用感と香りの印象

昨年の秋頃に人からもらったハンドクリームのギフトセット、しばらく使い続けてみたのでその感想を置いておく。JUL7ME(ジュライミー)のフレグランスハンドクリームという商品。それぞれ匂いの違う楽しみがあり、いわゆる香水とはまた違うものなので、その…

椿の絵ろうそく:福島県・会津若松土産

透明な袋に包装されていた状態から本体を取り出し、少し顔を近付けてみると、意外にもはっきりとした匂いが認識できた。香りのつけられていない、素の蝋燭の匂い。独特で、どこか懐かしく、他の何にも似ていないと思う。手に持って矯めつ眇めつ、触りながら…

妹背牛町をぶらぶら散策 - にわか雨・天然温泉・函館本線|北海道一人旅・妹背牛編(2)

郷土館の見学を終えたら大通りに出て、北へ向かって歩いてみる。道道(どうどう。他の地域で言う「県道」や「府道」にあたる)94号線が描くゆるやかな曲線を、車とは違う、亀の速度で進む自分の足跡でなぞった。道路の幅に沿い、一定の間隔で頭上に矢印が掲…

夢野久作《女坑主》口先で弄する虚無より遥かな深淵を覗いたら|日本の近代文学

いかにも気弱そうな青年と凄艶な女坑主とが、シャンデリアの明かりも絢爛な応接間で向かい合い、会話をしている。紙上に展開する空間は、冒頭から余剰を感じさせるほどにきらびやかで、それでいて、どこかうす暗い雰囲気にも包まれているのだった。昭和初期…

会津名物「ソースカツ丼」とカツを模したお菓子 - 近代から現代に受け継がれてきた味|福島県・会津若松

福島県は会津。先日に初訪問を果たした会津若松では、ソースカツ丼が地元の名物として紹介されていた。ここでは昭和5(1930)年に「若松食堂」が提供を開始したのがその起こりとされ、15年後の昭和20(1945)年には続いて「白孔雀」食堂が、丼の直径よりも大きな…

月の女神と街路樹

彼らの孤独について教えてくれたのは、本だった。ドイツに生まれ、営林署での勤務経験があるペーター・ヴォールレーベンの著した『樹木たちの知られざる生活:森林管理官が聴いた森の声』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)では、森林の樹木たちがどれだけ…

文章を寄稿しました:白昼の歓楽街、取り残された街 - 青春ヘラver.6〈情緒終末旅行〉へ|文学フリマ京都7

この度どういうご縁があったのか、大阪大学感傷マゾ研究会さんからお声掛けくださり、そちらの会誌「青春ヘラver.6 〈情緒終末旅行〉」に文章を寄稿することとなりました。2023年1月15日に文学フリマ京都7で頒布する同人誌で、ver.1から順に刊行されている…

天鏡閣 - 窓が多く塔屋が印象的な白い明治の洋館、湖の傍に建つ旧別邸|福島県・猪苗代

令和5年現在、天鏡閣は年末年始であろうと関係なく「無休」で公開されているのがかなり意外だった。本当に年中無休。ここは会津若松に隣接する地域で、寒いとすっかり雪に閉ざされてしまう地域の印象があったため……。それでも、辿り着ける人は辿り着くのだろ…

病的な飽き性による驚嘆すべき「ブログ継続5年目」の感慨

「昨日はあれほど欲しかったものが、今日になってみると、もう欲しくなくなる」そういう難儀な性質を人格に内包しているみたいで、もっとひどい場合では、例えばほんの10分前に死ぬほど実行したかったことをいざやろうとすると、もう考えるのも嫌になってし…

吟鳥子《きみを死なせないための物語》生命に優先順位をつける「愛」の差別的側面を浮き彫りにした社会契約制度

元日に漫画「きみを死なせないための物語(ストーリア)」を読んでいた。作者は吟鳥子氏で、作画協力は中澤泉汰氏、また宇宙考証協力に首都大学東京の佐原宏典氏が迎えられているSF作品。表面上の分類は少女漫画になる。秋田書店のサイトSouffleにて、2023年…

帰省をはじめとする世間の年末年始文化

帰省というもの、大晦日の挨拶、年賀状の歴史など。 ◇ ◇ ◇ 高校時代にいわゆる満員電車で通学していた記憶はかなりの悪夢として若年期の記憶に刻まれており、その影響もあるのか、ラッシュという言葉(もちろん、入浴剤や化粧品を販売している会社の名前では…