JR松戸駅の西口を出たら、歩行者デッキの階段を下りて、線路沿いに道路を北へ。
2分程度歩くと左側、角を曲がってすぐの場所に見えてくる。通りに面した大きな四角い窓に植物の葉が茂り、レンガ風の壁の上には、青と橙の細いしましまで彩られた庇がある店舗が。COFFEE SHOP FUJI (富士) という喫茶店で、サイフォンのイラストが描かれた看板の下には洒落た手書きのロゴもある。よーく見ると文字に影がついているのと、コーヒーカップと豆が存在を主張しているのもポイント。
ここは1980年代に創業、「喫茶富士」として開店してからすでに40年以上が経過しており、現在も変わらず地域に愛されているようだった。平日の夕方頃に入店してみると、常連さんらしき面々が多い。昔の広告写真(白黒)にはなかった大きなテレビが壁に設置されていて、その前の開いていた席に座った。
……なにやら美しい獣が徘徊している気配があり、足元に注意を向けていると、現れたのは2匹の猫だった。あごの下に首輪が光り、毎日きちんと世話されているのが分かる、それはもう綺麗な毛並み。三毛のようなのと、トラ(ヒョウ)っぽい柄のと。利発そうで怜悧な賢い目をしていて、体型も整っている……。
赤い布張りの上品な椅子も、実は人間ではなく、猫たちが座るためにこそ用意されているのではないかとすら思えてくる。そんな彼らの美しさに著しく心を惑わされながら、自己をきちんと保つためにクリームソーダを注文した。
テーブルに届けられたものを見て内心で歓声を上げたのは、その「色」が非常に印象的だったせい。透き通った薄い水色をしている。グラスの下に敷かれたプラスチックのコースターも似た系統の色彩で可愛かった。ソーダ水に配合されているのは何のシロップか分からないけれど、飲んでみると爽やかなほどよい甘さで、炭酸の泡が細かい。
氷の量はグラスの3分の1くらいだった。訪れたのが7月だったので外は非常に暑く、おかげで命の水にありつけたような気分。
もうひとつ特筆すべき要素はアイスクリームの部分にあり、単なるバニラ味ではなく、ブラウンのマーブル模様が入っているところを見るとチョコバニラ味なのではないかと思った。チョコの香ばしさがある。うっすら浮かんだ泡も含めて美味しい。
アイス自体の食感は硬めでシャリシャリしており、その点でソーダ水部分との相性が良く、少し溶け出しても全体的に味が崩れないと感じられた。夏に全力でおすすめ。
ふと隣の開いた席に目をやると、机の中央に丸い深皿が設置されていた。
形からして明らかに人間用のものではない。するとおもむろに猫がやってきて、椅子に後ろ足で立ち、皿に盛られた餌を静かに食べ始めたではないか。やはり、基本的には猫用の席なのだ。人間は彼らの善意により、着席することを許されているだけ。ヒトよりも猫の方が立場が上、ということ。
喫茶富士にいると、つかず離れずの位置をまるで妖精のように動き回ったり、時には座って周囲を眺めていたりする獣の影の気配が、常に感じられる。
カウンターの近くでは、ある作成中のパフェをじい……っと見つめる対の瞳があった。