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彷徨する自由帖

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夢の日記:レストラン気仙沼

塗装がはげかけてくすんだ青色の看板に「レストラン気仙沼」と白く抜かれた文字がある。か細く寂しい感じのする文字の形、そのすぐ下に小さく、筆記体のアルファベットでRestaurant Kesen’numaとも書かれていた。温泉地の商店街にある喫茶店のような佇まいで…

小金井公園内にある博物館「江戸東京たてもの園」は近代文化遺産の宝庫|東京都

約7ヘクタールの敷地を3つのエリアに分け、江戸時代から昭和中期までのさまざまな復元建造物を野外に展示している博物館、江戸東京たてもの園。墨田区の方にある江戸東京博物館の分館である。入場口とビジターセンターを兼ねた旧光華殿を抜けて東へ向かうと…

「規則的な現象」としてはたらく幽霊の要素:小野不由美《営繕かるかや怪異譚》

私は幼いころから「怖い話寄りの不思議な話」が好きだった。それらの何に惹かれるのか改めて考えてみると、例えば発生する(遭遇する)怪異の怖さ・奇妙さそのものとか、あるいは祟りの発端、根本原因を探る面白さとかが挙げられるけれど、一番はお話に登場…

シャーリイ・ジャクスンの小説《くじ (The Lottery)》を読んで映画《ミッドサマー》を思い出したこと

わずか数ページに収まる量の文章で、読後に長く残る余韻を読者のなかに残していくのがシャーリイ・ジャクスンの短編小説「くじ」だ。先日、同作者の《We Have Always Lived in the Castle (ずっとお城で暮らしてる)》を手に取り、嗜好に合ったのでこちらも…

渡り鳥みたいに移動する遊園地・ロンドン

数々のお話に出てくるサーカスや芝居小屋は、決まって怪しく魅力的だった。すべての興行が終われば忽然といなくなる。開催期間のあいだだけ、そこにいる。街の片隅に発生した蜃気楼みたいな性質も、そんな一時的かつ限定的な存在のおもしろさを強調している…

シャーリイ・ジャクスン《We Have Always Lived in the Castle (ずっとお城で暮らしてる)》より:私もずっと「そこ」にいる

なにも予定のない休日の朝に起きて、まずやることといえば、玄関の扉がきちんと施錠されているかの確認だろう。もちろん前日の夜、就寝前にしっかり鍵はかけている。それでも念には念を入れて、間違いなく家の安全が保障されているかどうかを確認してようや…

エミリー・ブロンテ《嵐が丘》Ⅰ - この世で魂の半身に出会うことは幸運か、それとも悲運か|19世紀イギリスの文学

己の半身。あるいは魂の片割れ、とも呼べる「なにか」。果たしてそんなものが、本当にこの世界に存在するのかどうか、実際に確かめるすべなどない。だからその判断は個々の意識にのみ委ねられている。要するに問題は、当事者であるふたりが周囲の目にどう映…

結局、現実でもインターネットでも疲れる

「個人的な記録の公開」と「人との交流」のふたつを主な目的としてしばらくインターネットを利用してみて、特に後者に関して考える機会が増えた。それで、私は半匿名のまま長く続く人間関係とやり取りには、あまり価値を見出せないのだとなんとなくわかった…

方丈記、夏目漱石、テムズ川:都に暮らす

寝台に横たわったまま耳を澄ました。雨の音も、風の音も聞こえない。それでいて休講日である。首だけを動かしてカーテンのわずかな隙間から外をうかがい、どうやらよく晴れているらしいと天候を把握した瞬間、嬉しさでにわかに働き出した心が身体に外出の支…

瞬間が保存されて永遠になる - 人生最大のトラウマを言語化する試み

「あなたはこの世界に必要な人だと思う」と言われたことがある。次の瞬間、思考も感覚もすべてが真っ白になった。固く握りしめた拳……いや、そんなに生やさしいものじゃない。まるで鉄製のハンマーのようなもので、薄く透明なガラスに覆われた時計の文字盤を…

誰かそこにいますか?

おそらく接触する人間の9割には「こいつが何を言っているのかも、何を言いたいのかもぜんぜん分からない」と思われているだろう。けっしてあからさまではなくても、相手から言外にそう示されればきちんと伝わってくるし、その実感は年齢を重ねるごとにますま…

小説同人誌(A6判・文庫サイズ)制作時のメモ

オリジナルの小説同人誌(フィクション短編集)を作ってみた際の記録です。この時は電子書籍版として別のPDFを作り、それから紙本の入稿用データを改めて用意しました。以下は、今年秋の文学フリマ東京へ出品するための個人的な判断材料に。基本情報・サイズ…

サム・ロイド著《The Rising Tide(満ち潮)》嵐が訪れて始まる悲劇の連鎖、幸せだった家族に迫る不穏な過去の波

イギリス、サリー州在住の小説家、サム・ロイドの新刊《The Rising Tide》が2021年7月8日に発売された。正式な日本語訳版がまだ出ていないので、ここではタイトルを「満ち潮」と訳することにしてみる。前作《The Memory Wood》に引き続き、今作も物語の開始…

横浜開港資料館|近代化産業遺産の旧館、およびペリー来航以前から命を繋ぐ中庭の玉楠

県立歴史博物館、郵船歴史博物館、それから横浜三塔など……横浜市中区は規模が大きくてかっちりとした近代建築の宝庫だ。特に地下鉄・みなとみらい線の馬車道駅から日本大通り駅に至るまでの短い距離に、珠玉のファサードがずらりと並んでいる。雰囲気もそれ…

画面越しに眺めているだけの人を、まるで友達のように感じてしまう心理

いわゆるブログ記事でも、他のウェブ上の呟きでもなんでも構わない。書かれていること自体や、文面から滲み出る発信者の考えに惹かれたり共感したりして、あるいは単純に興味をそそられて、けっして短くはない期間その動向を追っている人というのが幾人もい…