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彷徨する自由帖

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「規則的な現象」としてはたらく幽霊の要素:小野不由美《営繕かるかや怪異譚》

 

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書籍:

営繕かるかや怪異譚(著:小野不由美 / 角川文庫)

営繕かるかや怪異譚 その弐(著:小野不由美 / KADOKAWA)

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 今年も、精霊馬が町の路地を飾るお盆の期間が過ぎた。

 

 私は幼いころから「怖い話寄りの不思議な話」が好きだった。

 それらの何に惹かれるのか改めて考えてみると、例えば発生する(遭遇する)怪異の怖さ・奇妙さそのものとか、あるいは祟りの発端、根本原因を探る面白さとかが挙げられるけれど、一番はお話に登場する怪異のシステムやレギュラリティの部分なのだと思う。

 つまり「一定の条件を満たすと起こる何か」としての怪奇現象。

 多分、それに興味がある。

 

 そして重要なことに、この性質は町や道路、家など、ヒトの手による建造物......またはそれに付随するものとの相性がとてもいい。ものすごく、いい。土地に何かを建てるという行為、意図、規則性を見出しやすい構造に外観……すべてが幽霊的なものと絶妙に絡み合わさって怪談を完成させる。

 だから建物好き、かつ怖い話好きの自分の心に、同系列の物語は深く食い込んでくるのであった。

 

 上を踏まえたうえで、最近読んだ小説の中でもとりわけ良かったのが「営繕かるかや怪異譚」

 かの「十二国記」や「ゴーストハント」などのシリーズを手掛けた小説家・小野不由美の作品で、作者自身も建築物に大きな関心を持っていると明らかにされているように、本文を目で追っていると著者の関心が如実に伝わってくる。

 日頃から家屋や邸宅の類に鋭い観察眼を向けていなければ、決して出てこない描写だろう、とわかる部分が端々にあるから楽しい。

 そんな「営繕かるかや怪異譚」の物語は各話の世界が繋がった連作短編の形式で進む。建物にまつわる怪奇現象に悩む住民たちに対し、営繕の仕事をしている尾端(おばな)という青年が実際の現場を調べ、それぞれの対処法を提案する、という流れだ。

 

 ここで重要なのは、依頼者へと提示されるのが事件の「解決」ではなくて、あくまでも「対処法」なのだという点である。

 作中に登場する怪異には、私の興味を引いてやまない、規則的な現象としてはたらく幽霊……その動き方に強く関係する要素がたくさん内包されていた。

 

 

 

 2021年8月現在、「営繕かるかや怪異譚」は単行本が第2巻まで、そして第1巻に関しては文庫版が刊行されている。

 

 

 

  • 家々で起こる怪奇現象と対処法

 

 営繕屋の尾端は、俗に言う霊感のある人間ではない。けれど、どういうわけか不可解な現象に関連する依頼を受ける機会が多いのだ、と語る。

 この部分からも全編を通してぶれない傾向が浮き彫りになっている。何らかの能力を用いて怪異の内情を推し量るのではなく、外から観察し、規則性を見つけ、どうすれば家の住民が再びつつがなく生活を送れるようになるのかを考えて方法を探す……。

 どうしてそれが起こるのか、の根本的な原因をすべて詳らかにはできない。霊的なものが何かをしていたとして、消し去ったり、いわゆる成仏をさせたりすることもできない。彼の役割は違うものなのだ。

 

「籠が壊れて、箱が壊れても、天井があって瓦が屋根裏にある間は大丈夫だった。それが何を意味しているのかは分かりませんが、大丈夫だったのだから、同じ状態に戻したほうがいいです」
「それで……妙なことは治まるのかな。たったそれだけのことで?」

 

(角川文庫「営繕かるかや怪異譚」(2018) 著:小野不由美 p.81)

 

 尾端はただ、怪奇現象や幽霊の発現と、それを引き起こしている現状がどのようなものかを見極めて、家に適切な処置を施す。そもそも「営繕」とは、建物を造ったり直したりすることを意味する言葉だ。

 

「あの女は何なんでしょう?」
「分かりません」と、尾端は言う。
「女が来ると死人が出るのね?」
「お聞きした限りでは、そのようです。ただ、死人が出るから女が来るのか、それとも女が来るから死人が出るのか、それは分かりません。いずれにしても魔ではあるんでしょう」

 

角川文庫「営繕かるかや怪異譚」(2018) 著:小野不由美 p.123)

 

 謎の現象が発生するのは、雨の日か、晴れの日か。時間帯はいつか。

 また、出現した幽霊的な何かは、どんな「法則」に従って動いているようだと判断できるか。

 たとえば舞台となる古い城下町の、道に沿って直進する魔(理由はともあれ、結果的に害をもたらす何か)がいたとして、その突き当りに家の門があると侵入されてしまう可能性が高い。ではどうするのかというと、営繕を行い、門の位置を少しずらしてみる、などの対策をしてみる。

 重要なのはそこに至るまでの過程、考え方だ。この小説のなかでは怪異をシステムとレギュラリティの観点からとらえ、家での安全な生活に支障をきたしている住民を助ける。

 

「……祠を壊したことと関係があると思います?」
「壊す以前にはなかったことなら、無関係ではないんじゃないかな」

 

角川文庫「営繕かるかや怪異譚」(2018) 著:小野不由美 p.214)

 

 なんとなく……ではなく、実際に現場で見たものと営繕屋としての知識から、総合的に現象を判断する彼の一貫した姿勢。

 本文からいくつかの台詞を引用させてもらったが、これらを読めば、ああこの小説ではそういう傾向の怪談話が展開されるんだな、と分かってもらえると思う。続刊を楽しみにしている、建物と怪談好きにとてもおすすめの物語。

 

 

 

 作者の小野不由美は、他にも建物にまつわる傑作ホラー小説「残穢」を生み出している。あの展開が面白くて興味を持ったという人も、ぜひ上作品を手に取ってみては。