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彷徨する自由帖

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繊細かつ鋭い歌詞が魅力的なイギリスのシンガーソングライター、ローレン・アキリーナ (Lauren Aquilina) の楽曲

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 留学生時代、ロンドンで暮らしていた頃にはじめてその存在を知ってから、今に至るまでずっと聴き続けている歌手の楽曲がある。

 

 

 私と同い年のシンガーソングライター、ローレン・アキリーナ(Lauren Aquilina)

 

 両親はマルタ共和国出身で、イギリスの都市ブリストルで生まれ育った彼女は、澄明な歌声と作曲の才だけでなく「言葉」に対するとても鋭い感覚を持っている。

 手がけるのは恋愛や友情をはじめとした人間関係にかかわる楽曲が多く、心情や状況をあらわすために選ぶ表現が繊細で、思わずノートの隅に書いておきたくなるような一節がたくさん。ほれぼれするような韻が踏まれている箇所にもたびたび出会う。

 

 それなのに、どうしてこんなにも知名度が低いのか私には分からない。

 ある特定の曲だけでなく、彼女自身を紹介・推薦する日本語のブログにはまずお目にかかったことがないし、ほかに諸外国のリスナーからのコメントにも "underrated"(過小評価されている)の言葉が散見される。本当にそうだ。

 その魅力をもっと多くの人々に知ってほしいので、はてなブログ今週のお題に沿っておすすめ楽曲プレイリストを作り、各曲の良さを語ってみようと思った。

 

目次:

 

EP《Fools》(2012) より

  • 1. King

 

 おそらく、ローレンの楽曲の中でもっとも有名なものが『King』だろう。 これだけは知っている、という人もそれなりにいるはずだ。

 

You're alone, you're on your own, so what?
Have you gone blind?
Have you forgotten what you have and what is yours?

 

出典:Lauren Aquilina『King』

 

 自分を見失い、嘆きの淵にいる誰かに対して、後ろからそっと言葉をかけているかのような詞が優しい。「持っていないものや欠点を数えるのではなく、既に手のうちにあるはずの、沢山のものを見つめてみて」と歌っている。

 そうすれば冠を取り戻し、ふたたびあなたがあなた自身の王様(King)になれるはずだ、と。

 Geniua.comのサイト上で、彼女がこの曲に対するリスナーの質問に答えている。『King』の歌詞は、学生だった頃の友人で、いつも己の人生に対して不満をこぼしていた女の子への手紙として綴ったが、最終的には自分へのメッセージのようにもなったと感じているそうだ。

 

 

EP《Sinners》(2013) より

  • 2. Sinners

 

 罪人たち、を意味するタイトル(Sinners)にまず惹かれる。

 どうやら周囲あるいは現状の制度から、その関係を「正しくない」と糾弾されている恋人同士のうち、片方の独白として語られている歌詞であるようだ。悪魔や禁じられた果実といったキーワードが特徴的に使われている。

 

And judgement taught us that our hearts were wrong
But they're the ones that we'll look down upon
The rules say our emotions don't comply
But we'll defy the rules until we die

 

出典:Lauren Aquilina『Sinners』

 

 共に罪人になろう、と語り手は恋人に言う。

 たとえ世界の側からこの関係が認められなかったとしても、私にとっての「世界」はあなた以外ではありえないのだから。堕ちるのが地獄のような場所であったとして、一緒にいられさえすれば、そこは天国に感じられると。

 二人が引き裂かれずに歩んでいく未来を願わずにはいられない。また、他の色々な作品に登場する、許されざる恋人たちのイメージソングとしても楽しめる。

 

 

EP《Liars》(2014) より

  • 3. Lovers Or Liars

 

 私達は恋人(lovers)? それとも、嘘つき(liars)?

 サビで投げかけられる印象的な問い。

 

Are we lovers or liars?
Are we burning up to keep this fire alive?
God loves a trier, but there's nothing left to try

 

出典:Lauren Aquilina『Lovers Or Liars』

 

 これからも二人の間に炎を燃やし続ける(=この関係性を継続する)ことが果たして最良の選択なのかどうか、彼らは迷っている。そして、別離という答えが目の前にあることを、切なく思いつつも受け入れようとしている感じだ。

 確かに、長く寄り添った人間同士が簡単に離れてしまうのは寂しい。今まで積み上げてきたものをすべて更地に帰すことに似ているから。けれど、このままでいても、二人の先に新しい道が開けることなどないのも分かってしまっている。

 もはや互いに恋をしていないのに恋人同士だと偽るならば、それはまぎれもない嘘(lie)。そんな曲。

 

アルバム《Isn't It Strange?》(2016) より

  • 4. Suddenly Strangers

 

 タイトルの『Suddenly Strangers』は「私達は突然、他人になった」とでも意訳しようか。これまでにとても深い関係を築いてきたのにもかかわらず、いちど別れた途端、もう友達ですらない赤の他人のようになってしまう苦しさが歌われている。

 曲が収録されているアルバムのタイトル『Isn't It Strange?』は、このナンバーから付けられたものだ。

 

From talking every waking hour
To not knowing where you are now
We're suddenly strangers
Isn't it strange?

 

出典:Lauren Aquilina『Suddenly Strangers』

 

 今までに出会った誰よりも分かり合え、あれほど側にいて心地よかったのに、こんなにも突然他人のようになってしまう。でも、それって変じゃない(Isn't It Strange)? という切実な疑問が胸に突き刺さってくる……やめられない。

 全から無へ。恋人じゃなくなっても友達でいようね、などと人々は言うが、その試みが常にうまくいくとは限らないのだ。

 

  • 5. Thinking About

 

 上の『Suddenly Strangers』と呼応しているような歌詞を持つのがこの『Thinking About』。では一体何について考えているのかといえば、すでに道を違えた「あなた」のことを「もう考えないようにしよう、と考えている」という。この部分の言葉遊びがおもしろい。

 だって、それはもはや相手のことを考えているのにも等しいじゃないか。

 

Now all I'm thinking about, is not thinking about you
All I'm thinking about, is not thinking about you

 

出典:Lauren Aquilina『Thinking About』

 

 別れた後の恋人を見て、自分に比べるとまったく影響を受けていない(ように見える)ことに落ち込み、こちらも平然と振る舞うようにしてみたけれど落ち着かない。空っぽになってしまった胸を抱え、彼女は知らない人間の集まるパーティーに行って、気を紛らわそうとしている。らしくない行動をしながら。

 それでも、考えないようにすればするほどに、結局はあなたのことを考えてしまっていると歌う。本当につらいけれど可愛らしくて私は好き。

 

 

EP《Ghost World》(2020) より

  • 6. Swap Places

 

 隣の芝生は青く見える、ということわざは、実はイギリスをはじめとしたヨーロッパ諸国で古くからよく用いられてきた。

 ローレンもこの『Swap Places』のなかでそれを使っている。

 

Is the grass really greenеr on the other side?
Seems like everybody else doesn't have to try

Can I swap places with someone
Who's kinder to themselves?

 

出典:Lauren Aquilina『Swap Places』

 

 自分自身を見つめ直すために、たった一晩でも良いから他の誰かになってみたい、という願望。

 別人の視界から己を眺めることができたら、思いがけない良さが発見できるかもしれない。また、そこまで他人の目を気にして過ごさなくても問題ないのだと、心から感じられるかもしれない……。その気持ちがとてもよく分かる。

 歌詞中の "someone who's kinder to themselves" も印象的だ。自分に対して厳しすぎる評価を下さない、いわゆる肯定感を少なからず持っている人間を指しているのだろうが、そこに現代の若者らしい悩みが織り込まれている。

 

  • 7. Best Friend

 

 仲良くなった、気まずくなった、そして別れた、というキーワードから一般に連想されるものは、やはり恋愛が圧倒的らしい。けれど当然ながら、人間同士の関係性はそこにすべてが収まるわけではなく、実に多様だ。

 なかでも友情は何より尊い。これは一般論ではなく、自分の実感から言えること。

 大切だった友人と、はっきりした理由も分からず疎遠になってしまうことほど心を抉ることはない、と『Best Friend』は歌っている。

 

Yeah, you taught me to smoke cigarettes
Now you're teaching me how hard it is to forget
Someone you thought you'd know 'till the end 

 

出典:Lauren Aquilina『Best Friend』

 

 いつのまにかあなたは固く扉を閉ざしてしまったけれど、私の方は広く開け放ったままで待っている。親密に過ごしていたあの頃が恋しい。一緒に煙草を吸っていた思い出が、その習慣と共に体に染みついてしまってとても忘れられない、なんて。

 よくある出来事や関係性も、ローレンの手にかかるとこんなに綺麗な楽曲になる。

 

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ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

 

 という感じで、7曲をおすすめプレイリストに選んでみた。これを機に、今までまったく知らなかった方々にも沢山彼女の曲を聴いてもらえますように。

 個人的な意見としては、まず1stアルバム《Isn't It Strange?》を最初から最後まで通して味わってみるのがおすすめです。

 

《Isn't It Strange?》on Spotify:

 

はてなブログ 今週のお題「わたしのプレイリスト」

 

※2021/06/06 追記:

 

 先日発表されたシングル『Empathy』も良かった……!

 誰かの苦しみや悩みをまるで自分のことのように感じてしまう、そんな強すぎる共感性を持て余す難儀さが歌われた、これまた「わかる」と思わず頷いてしまうような一曲で。

 

 

 

 

 

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