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【その壱】野外博物館《明治村》で近代建築&聖地めぐり - 愛知県・犬山市

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 近代建築を愛する人間として、一度は絶対に訪れておきたかったのが野外博物館・明治村。入鹿池の西側に面し、岐阜との県境にもほど近い愛知県犬山市にある。

 そこは、かつて国内の各地に点在していた貴重な建造物を保存し、次世代に継承するために移設公開している「たてもの園」のような施設。

 敷地総面積はおよそ100万平方キロメートルで、ハウステンボスとリトルワールドに次ぎ、国内第3位の広さを誇る規模の大きな村だった。

 

 

 名前には明治とあるが、実際は明治・大正・昭和初期と近代から幅広く選ばれた建築物――そこには市電やSLの車両、鉄橋なども含まれる――が軒を連ねている。

 アニメ《Fate/Zero》や漫画《ゴールデンカムイ》、ゲーム《明治東亰恋伽》に《古書店街の橋姫》、そしてドラマ《坂の上の雲》などの作品中に登場する建物もあり、聖地として扱われることも少なくない。

 文明開化から大戦景気を経て発展し、諸外国から得た技術や様式が建築にもふんだんに用いられていた頃の、宝石のような遺産。その数々を前にしてしまったら常時の妄想がさらにはかどること請け合い。当時への郷愁や憧憬を胸に、園内の徘徊を楽しみたい。

 

  • 名古屋から明治村へのアクセス

⑴名古屋駅から名鉄犬山線に乗り、まず犬山駅へ行く方法。

その後、犬山駅東口から明治村行きの岐阜バス(明治村線)に乗る。

※岐阜バスの対応ICカードはayucaのみなので、持っていない方は現金必須。

 

⑵名古屋駅のバスセンターから名鉄バス明治村行きに乗車する方法。

ICカードmanacaが利用でき、公式サイトによると全国の各種交通系ICカードも使用可能。

 

 著者は明治村にこれまで2回訪れており、それぞれ上記の方法を1回ずつ利用した。

 どちらも快適さや所要時間に大きな違いはなかったので、その時によって都合の良い方法を選ぶのがおすすめ。

 

公式サイト:

博物館明治村

 

 

明治村の展示物より抜粋【1】

 敷地内にある展示物の総数は67件にもおよぶ。

 今記事ではその中から10件程度を選んで種類別に掲載してみようと思う。約半日を費やしたけれど残念ながらじっくり見学しきれなかったものも多いので……。時間ごとのガイドツアーに参加しないと見られない箇所も複数ある。

 建物以外の遺構も、後に別記事でまとめる予定。

 

 

 上は《古書店街の橋姫》に登場する川瀬の家(池田邸)のモデル。

 

目次:

 

  • 官庁建築

三重県庁舎(重要文化財)

 明治12年竣工、かつての所在地は三重県津市栄町。

 実はこの中の一室に《Fate/Zero》にて、間桐臓硯が雁夜を刻印蟲でさいなむ部屋のモデルがある(リアルタイム視聴時は全く気付かず)。

 また、テラスや知事室は《坂の上の雲》のロケにも使用された。

 

 

 目まぐるしく移り変わる情勢や不平等条約に翻弄されながら、「近代国家」の成立を強く志向した明治政府。

 当時の諸外国との関係や文化的な発展を推し進めようとした結果、公共の建築物が強い洋風の趣を纏うようになった時代だ。

 特に、官庁の建築などはその最たるものだった。

 この三重県庁舎、玄関のある正面から見ると左右対称のつくりがよく分かる。古代ギリシアの神殿のように立ち並ぶ白い柱の数々と、半円形の欄間が美しく、二階ベランダからの眺めも壮観。明治9年に先んじて完成していた、東京・内務省庁舎の様式を全体的に踏襲している。

 個人的には内部に展示されていた「未決・既決書類の分類棚」に心惹かれた。資料で散らかった自室を片付けるのに一役買いそう、欲しい……。

 また、設計は三重県出身の大工・清水義八によるものだが、彼は以下に紹介する東山梨郡役所もあわせて手掛けた人物である。

 

東山梨郡役所(重要文化財)

 明治18年竣工、かつての所在地は山梨県山梨市日下部町。

 二階の部屋は《ゴールデンカムイ》原作124話にて、鶴見中尉と宇佐美たちがいた場所のモデルだった。

 例の、ホクロに落書きをするシーン。

 

 

 二階建ての母屋の両翼に平屋が付随しているため、桟瓦葺きの屋根は非常に複雑な様相を見せている。機能性と外観の美しさを兼ね備えているのが見事。

 東山梨郡役所には、日本の職人が西洋建築の細部を再現しようとし、様々な工夫を凝らして造り上げた意匠が多く見られた。

 例えば外壁の角部分に施されているのは石積みを模したレリーフで、黒い漆喰が用いられている。また、細い柱を束ねて一本にしたようなものは、胡麻殻决り(ごまがらじゃくり)の溝を応用したものだそうだ。

 室内の照明周りには花鳥風月の漆喰(鏝絵かな?)も。

 破風の下に設えた大きな金の菊花紋が威光を放っている。

 この時代の山梨県令・藤村紫朗は多くの西洋建築を造らせたことで知られており、ゆえに一連の建物は「藤村式」と呼ばれていた。……現代に生きる自分が、和洋の不思議な融合にこんなにも心惹かれるのは何故なのだろう。

 

  • 医院・病棟

清水医院

 明治30年代竣工の医院で、かつての所在地は長野県木曽郡大桑村。

 漫画《ゴールデンカムイ》で杉本の頭を治療した刺青の囚人・家永カノが座っていた一角が奥の診察室にある。

 首を伸ばすとかろうじて置いてある椅子や机が確認できた。

 

 

 城郭の壁じみた風よけの付随する、アーチ状の入り口。そこを潜ると右手側が各部屋に繋がっているが、そのまま前進すると建物の反対側まで抜けるつくりになっていた。

 調剤用具と薬瓶のずらりと並ぶ棚や、木の抽斗、二階の生活空間へと続く階段を前にするだけで気分の高揚と胸のどきどきが治まらない。これにも治療が必要だろうか?  薬局部分の壁には薬を手渡しできるよう、二つの投薬口が設けられている。

 大きな窓が開放的な待合室のふすまには「養生の訓」なるものが沢山貼られていた。人々はこれを眺めながら順番を待ち、完治するまで大人しく休んでいよう、と気を新たにしていたのが伺える。

 建物外観の下部は石積み風になっているが、これも東山梨郡役所の壁と同じく、凹凸をつけることでそう見せている装飾の一種だ。洋風建築など殆どなかった当時の木曽街道で、清水医院はきっと良い意味で異彩を放っていたに違いない。

 

 

 

 

 

日本赤十字社中央病院病棟

 こちらは明治23年竣工の、かつて東京都渋谷区広尾にあった病棟。

 ドラマ《坂の上の雲》ではラストシーンを飾ったほか、近年は《鬼滅の刃》に登場する胡蝶しのぶの邸宅(であり鬼殺隊員の病院)「蝶屋敷」に佇まいが似ているとして話題になった場所だ。

《ゴールデンカムイ》ではモルヒネ中毒の二階堂が入院していた

 

 

 日本赤十字の礎は、西南戦争の折に人々の救護を行った博愛社が築いたとされる。

 館内にはベッドが設置されている横に、当時の病院食の模型展示もあった。たまごサンドのようなものや、椀に盛られたシチューかお粥風の柔らかそうな一品が目を引く。味はともかく胃に優しそうではある。

 建物が現役のころ北側に面していた廊下の窓は、日光の不足しがちな方角を明るく照らそうとする配慮のあらわれだ。鎧戸に施された透かしも、屋根の上に頭を出している換気塔も、病や怪我で沈みがちな気分を上向けてくれるかのよう。

 建物の設計者は片山東熊(かたやま とうくま)で、赤坂離宮などの宮廷建築も手掛けている。生涯を通して貴族の邸宅づくりに多くかかわった彼なりに、病院という場所や利用者のことを考え、より心地よい空間を作ろうという意向が感じられた。

 

  • 監獄

金沢監獄中央看守所・監房

 明治40年竣工、旧所在地は石川県金沢市小立野。《ゴールデンカムイ》にて、白石がシスター宮沢を追って前橋監獄を脱獄した後に向かった場所がここだ。

 また、書信室で熊岸長庵が書き物をしていたシーンもある。

 

 

 建物外、中央上部に聳え立つ12メートルの塔は見張り台としての機能を果たす。とはいえ、その姿は純粋に見た目も美しい。火の見櫓の進化版か展望台のようにも思える。小屋の裏側に、上へと昇るための階段があるとのことだった。

 看守の見張所を中心として、放射状に監房が伸びるつくり洋式なのだそう。また、木造の壁は厳重な三層構造で、監獄と囚人を外界からしっかりと遮断している。通気口も、万が一にも脱獄者が出ないように絶妙に設定した狭さ。

 ふと部屋の一つを覗き込み、等身大のダミー人形が置かれているのにびっくりしてしまった。無表情で食事をしている……。

 実は明治村の金沢監獄内部、中央見張所のみ、北海道にあった網走監獄のものが移設されている。以下の写真がそれ。

 

網走監獄中央見張所

 監房をくまなく見渡せるように、ガラス張りで六角形をした特徴的な部屋。

 

 

 網走監獄が明治42年の山火事でいちど焼失した後、三年後に改めて用意されたものがこの見張所になる。他にも教誨堂や倉庫など、ほんの一部の施設以外は全て失われた。

 やがて昭和52年には更なる建て替えが行われたため、古いものがこうして明治村に移設展示されている。やはり元来の囚人を見張る用途のためか、近くを通るとどこかピリピリとした空気を感じる(ような)気がした。

 私は脱獄囚じゃないよ。

 

  • 教会

聖ザビエル天主堂

 明治23年竣工、かつては京都市中京区河原町三條に佇んでいた美しい教会。

 こちらは《Fate/Zero》本編とオープニングムービー内にて、雪深いアインツベルン城の教会として登場。

 切嗣がセイバー(アルトリア)を召喚した記念すべきシーンもここで展開する。

 

 

 建設にあたっては監督にフランス人神父を迎え、見慣れない外国の設計図を参考にしながら大工や技術者が心血を注いだ。当時の教会建築における宝石といえる。採用されているのは、大きなアーケードが特徴の荘厳なゴシック様式

 全体的に木造と煉瓦造りが組み合わさっており、内外の壁は漆喰による仕上げだった。そこから視線を移して天井を見上げると、木材が惚れ惚れするような様子でぴったりと並んでいて、感嘆の息を漏らさざるを得ない。欅の束ね柱も同様だ。

 頭の中で大浦天主堂との共通点や違いを比べてみるのもまた面白かった。

 巨大な花窓のステンドグラスは、模様を描いた上に透明ガラスを重ねて保護する二重構造。近付いてみるとその繊細さが分かる。どうか損なわれることなく、末永く保存されてほしい。

 

 

 

 

 

  • ホテル

帝国ホテル中央玄関

 独立した記事になりました:

 

  • 商店

東松家住宅(重要文化財)

 江戸末期の頃から度重なる増改築を経て「成長」し、明治34年頃に現在のような姿になったとされる東松家住宅。

 塗屋造という伝統的な工法を用いて建てられている。《ゴールデンカムイ》11巻では、第七師団と稲妻夫婦による苛烈な戦いの繰り広げられた場となった。

 旧所在地は名古屋市中村区船入町。

 

 

 まず、建物外観の側面から発される多量のときめきがある。高い位置にある窓の設え方もたまらない。加えて、間口が狭く奥行きがあるのは典型的な町屋のつくりで、いわゆる「鰻の寝床」の形だ。

 先日訪れた岐阜の川原町でも似た家を多く目にした。

 明治半ば頃までは油問屋を営んでいたからか、玄関脇には油と書かれた樽が沢山置いてある。その後、昭和初期まで堀川貯蓄銀行として店を構えた。

 少し通り土間の内側に入れば二階、三階の側面が見える吹き抜けで、上階は家族の暮らしの空間だったそうだ。格子の向こう側には茶室もある。花の形の照明も気になるところ。お店としてもお家としても趣味の良い、思わず住みたくなってしまう建築。

 

高田小熊写真館

 明治41年、新潟県上越市本町に建てられた高田小熊写真館。

 豪雪地帯ならではの様式と撮影に必要な設備から来る要素が合わさって、特徴的な外観を形成している。

 過去にはNHKの《タイムスクープハンター》《坂の上の雲》のロケ地としても使用された。

 

 

 北側の屋根の一面がガラス張りになっているのは、当時は人工の照明がなく、光を取り入れるのに様々な工夫を凝らしたためだとか。そのため他の多くの商店とは異なり、一階部分に作業場も兼ねた居室が設けられている。

 海を渡って日本の文明開化の象徴になった写真銀板、湿板、乾板と移行し、やがてフィルムへと至る。

 まだ個人が手軽に風景を切り取るのは難しかった頃、高度な技術を要する撮影と識者の需要は高く、値段も相応のものだった。

 肖像の背景も現代のように簡単には切り替えられないので、撮影時に書き割りの風景画を用意したり、輸入品の小道具を持たせたりして個性を演出したようだ。

 

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 今回は最後に、《ゴールデンカムイ》原作198話にて、鯉登邸として描かれた西郷從道邸(重要文化財)の写真でお別れしましょう。

 明治村散策記事は【其の弐】へと続きますのでお待ちください。

 

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 最近、JGのアニメ劇中に登場する聖地も調べ始めました: