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彷徨する自由帖

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魅惑のラム酒とバニラ、秘密の女・クララ|ペンハリガン (Penhaligon’s) のポートレートから

 

 

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 森の奥か、それとも湖のほとりだろうか。どちらにせよ朝や晩には周囲に薄く霧が立ち込めているのだろう。きっと、空気を伝って鳥の声がよく響いているはず。

 英国、という以外には場所も時代も不明などこかに佇む、中世盛期に建てられた大きな邸宅にはある貴族の一家が住んでいた。

 彼らはそこで多くの使用人を抱えながら、実にイギリス上流階級らしい生活を送っているそうだ。

 

 一見すると単に優雅で平穏な毎日が営まれているようだが、集う面々の間には秘された謀略や不義、嘘の数々が存在し、不穏な事件の種があちこちに蒔かれていた。

 ある日、その屋敷に招待されたひとりの調香師ウィリアム・ペンハリガンは、彼らのポートレート(肖像画)を自らの手がける香りで表現してみたくなる……。

 

 そんな設定をもとにして創作されたフレグランスのシリーズがある。

 

 1870年の創業で英国王室御用達、現在では2つのロイヤルワラントを授けられているブランド、ペンハリガンが展開しているポートレート コレクション (PORTRAITS) 。

 2021年現在、日本では12種類のラインナップが購入可能となっている。

 

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 ※画像は上記ラトリエデパルファムのWEBサイトより。

 

 以前、愛用している「ルナ (LUNA)」を紹介したブログでも言及したように、私が初めてペンハリガンの製品に出会ったのはイギリス、ブレナム宮殿のお土産ショップだった。

 その場所に着想を得た「ブレナム ブーケ」という香水が置いてあったのだ。

 

 横にポートレートコレクションも並べてあって、まず、キャップを含めた瓶の外観に夢中になったのを覚えている。

 古代エジプトのカノプス壺を連想させるシルエットがとても神秘的で。

 同時に1本の値段に驚き(当時でも日本円に換算すると3万円を軽く超えた)、いつかは自分のお金で購入したい……と渇望し続けて3年以上が経過した今、ようやくその小さな願いを叶えることができてとても嬉しい。

 

 実は明日が誕生日なので、自分用に買った。

 

 購入したのは、クランデスティン クララという名称のオードパルファム(EDP)。試したそれぞれのサンプルの中でいちばん好きだった。

 ポートレートコレクションの登場人物の中では「秘密の女」という肩書きを冠している。キャップにあしらわれているのはクジャクで、体現しているキーワードは “自信・自由・華やかな存在感”。

 

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 シリーズの中で最も香りに惹きつけられたのがこのクララ。

 オードパルファムらしく、吹き付けた瞬間から数時間の間で徐々に雰囲気が変化していくのだが、全体的な印象を一言で表現しようとするなら「ラムレーズンとスパイス、バニラアイス」……になる。

 

 

 始めの苦く渋みのあるラム酒の香りから、徐々に酸味を帯びたドライフルーツと香辛料(シナモンやナツメグ系)が顔を出し、最後にはパウダリーなバニラになってフェードアウトしていくような。

 公式の説明にはイントキシケイティング(お酒に酔うような)アンバー オリエンタルとあるので、あながち外れてもいないはず。

 

 寝香水にするか、寒い時期に外出する際に少しだけつけたくなる。絶妙な中毒性にすっかり魅了されてしまった。

 

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 ちなみにこの「クララ(CLARA)」が体現しているキャラクターは、ポートレート コレクションの中では屋敷の主であるジョージ卿の愛人、ということになっている。

 貴族の人間ではなく、仕事をしながら同僚と議論に興じ、日常的に車を運転したり煙草を吸ったりと、自由に自分の人生を謳歌する近代以降の女性像が反映されている。

 いわゆるグルマン系のおいしそうな香りの要素も、クララという人間の持つ魅力を表現しているかのよう。

 

 他者からの抑圧や支配をはねのけて軽やかに歩いているイメージは、瓶のキャップや外箱の意匠に採用されたクジャクの姿と重なり、部屋の片隅に置いているだけでも日々を生きる力を分けてもらえる気がした。