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ひるまの電飾がたたえた光は不自然で妖しい|イングランド北部・リーズ (Leeds)

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 数年前に行ったリーズは陽が翳っていたからか、なんとなく公平な感じがした。

 よそ者の私達を歓迎するともしないとも宣言せず、街を構成するすべてが、ただ普段着をまとって適度に整った髪型でそこにいる。建物も街路樹も少し素っ気ない。かといって、邪険にされているわけでもない。

 ヨークシャーから南へ帰る途中に寄ったので、あまり長くはいられなかったけれど、街のはずれの方に展開していたクリスマスマーケットで短い時間を遊んだ。晴れ間の見えない厚い雲は、さながら地上ではなく、頭上にある天空の方が雪に覆われているみたいだった。

 

 

 曇った空の下では、ものの姿が必要以上に強調されて、やけに「はっきり」と見える。色も形も。単純な光量の点では、雲が太陽を隠していない時よりも劣るはずなのに、ずっと明瞭に。とても不思議なことだった。暗闇とまた、全然違う。

 誤解を招くのを承知で言えば、よく見える、という意味においてのみ、たぶん鮮やかになるのだ。いろいろなものが。曇天それ自体に対して抱く印象とは、ほとんど反対に。

 だから曇りの日に外を出歩くのが苦手なのかもしれない。別段求めていないところまで、事物の表面が見え過ぎる点で。そんなに無粋な演出をしなくても良いではないか、と個人的には思ってしまう。少しは誇張でもしてみた方が、より美しくなったり、楽しくなったりする箇所も存在するのに。

 だって、そういう要素が何もなかったらつまらないもの。

 

 

 どこかシニカルな雰囲気をまとい、修飾を排した曇天の風景には「余地」がほとんどない。私は世界の側から一方的に何かを示されている、あるいは理を語られ、諭されているかのように感じてしまう。まるで、これこそが真実の光景なのだ、とでも言いたげに目の前にあるから。

 実際はそれも、この世のあらゆる事物が持っている、無数の側面のひとつにすぎないのだけれど。現実や本当、真実のたぐいは、決して唯一の状態には収束しない。

 そんな、周囲の物事を必要以上に等身大にし、何かを浮き彫りにする性質の曇天の下に、あえて移動遊園地とクリスマスマーケットを設置したら果たしてどうなるのだろうか。

 自分の身で体験してみて、それに対する個人的な答えを得た。随分と面白かった。案外、夜ではなくて、曇った昼間に訪れるのも一興かもしれないと、改めて真剣に考えるくらいには。

 

 

 ものを、ただそこに有るようにはっきり見せる曇りの日と、この手のアトラクションの相性は基本的によくない。曖昧な部分、その余地がなければ世界は広げにくいものだから。しかし相性がよくないおかげで、むしろ華やかさよりも、独特の妖しさが際立っていたのが意外だった。

 本来ならあるべきではないものがここに出現している、そんな奇妙さ。

 たとえば、暗闇の中にあると電飾の存在はかなり「正当」に見える。ふさわしい場所にあると思える。一方、白昼に灯された電飾はどこか唐突だ。周辺の環境や時刻、それらの文脈からあまりにも切り離された脈絡のなさ。旅の途中で黙々と荒野を歩き、ふと顔を上げたら、きらびやかな屋台が目の前にあった時のような違和感。

 そもそもクリスマスマーケットは特定の期間にしか街の中に出現しないもので、観測時期が限定されているのは生き物みたいだった。風物詩の桜とか、ホタルとか、渡り鳥にも似た。

 

 

 平べったい電子音と焼き菓子、グリューワインの匂いに誘われて、細い路地を抜けたら妖精の市。何の変哲もない建物に囲まれて、真っ昼間から営業している不思議なマーケットと小さな遊園地はまぎれもなく異界だった。繰り返して言うが、これが夜だったら大した違和感もない、ごくありふれた存在になる。

 でも昼間だから。しかも、曇り空の下に出ているから。

 そのあたりを歩いている人々に関しては人間だろうけれど、各店舗の店番はどうだろう。城壁や境界線を越えて、この時期だけこちら側にあらわれる何かなのかもしれない。人間に化けられる魔物も多い。

 ハーフ・パイントの量で売られているものも本当はビールではなく、身体の一部を別の動物に変化させる薬かもしれないし、ハンガーから下がっている沢山のプレッツエルは、単なるおやつではなく儀式に使う紐の結び目かもしれない。

 

 

 屋根に "suitable for all" と記載されている、メリーゴーラウンド。

 ご親切かつ意味深長な感じがする。

 人間でも、別に人間ではなくても、乗っていいよと言われている。

 

 

 

 

 

 

 

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