chinorandom

彷徨する自由帖

MENU

小説作品が「不快なものを見て消費したい方にオススメ」という言葉で紹介され、出版社側のKADOKAWA公式がそれを特に是正せず引用していたこと

※当ブログに投稿された記事には一部、AmazonアソシエイトのリンクやGoogle AdSenseなどの広告・プロモーションが含まれている場合があります。

 

 

 

 2023年3月20日、公式バッジのついたTwitterアカウント「KADOKAWAさん@本の情報」の投稿に、あるツイートの引用があった。曰く「弊社作品もいくつかランキングに入っていましたので便乗して紹介させてください」とのこと。

 その、集計に基づいて小説のランキングを作成したという引用元「ひろたつ@読書中毒ブロガー」さんの投稿内には、作品を紹介するにあたって複数の印象的な文言が使われている。

 

「限られた人生の時間を、わざわざ不快なものを見て消費したい方にオススメ」

「最悪なランキング」

「文学的価値と鬱はとっても相性がいい(画像2枚目、太宰治「人間失格」に対する書評より)」

 

 など。

 

 

KADOKAWAさん@本の情報」は、上の投稿を「引用」して自社から出版されている作品を宣伝しているが、その際にこれといった語句の訂正などを行っていない。

 追加されたのは「※人によっては心がざわざわします」「※苦手な方はスルーなさってください」……の文言だけ。

 自社が扱う作品タイトルが挙げられているランキングが実際「最悪なランキング」と称されている部分にも触れられず、この言葉自体に関しても特に否定されていない。

 

「限られた人生の時間を、わざわざ不快なものを見て消費したい方にオススメ」

 

 この言葉が組み込まれた投稿に便乗する形で、6つの作品が紹介された。

  • 桜庭一樹「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet」
  • 太宰治「人間失格」
  • 夏目漱石「こゝろ」
  • フランツ・カフカ「変身」訳:川島隆
  • 夢野久作「瓶詰の地獄」
  • 重松清「疾走 上」

 

「限られた人生の時間を、わざわざ不快なものを見て消費したい方にオススメ」というのは、単純に個人の見解であり自由である。

 しかし、その紹介文を出版社側であるKADOKAWAが公式のアカウントで引用するにあたって、文言を是正せず嬉々として宣伝を実行していたのを見て気が滅入った。とはいえ社の方針というべきか、運用の規範に照らし合わせても特に問題がないのでそうしているわけなのだろう。

 おそらく本を買い、小説を読む購買層の読者がその引用を目にしてどう感じるかは、外野の領域であって関係がないということだ。知名度を上げて売らなければどうしようもないのもあるのだろう。

 

「不快なもの」というのも個人の投稿なら個人の意見で終わる。

 一方、出版社公式アカウントが発言をそのまま引用すれば、実際に挙げられていた作品が「不快なもの」として推薦される行為が公に肯定され、多くの読者の目に触れることになる。

 

 そんな風にして宣伝され、「最悪」とまで評されたランキングに組み込まれたいくつかの作品について考えを巡らせていた。

 私は名前の挙げられた6作品の中で、自分がこれまで実際に手に取り読了した小説に対し「わざわざ不快なものを見て時間を浪費した」とは全く思わない。

「限られた人生の時間を、わざわざ不快なものを見て消費したい方にオススメ」または「最悪なランキング」という推薦文。

 これを引用した出版社KADOKAWAの宣伝文句が、単に「弊社作品もいくつかランキングに入っていましたので便乗して紹介させてください」であったことに対し、かなりの落胆を感じた。