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身不知(みしらず)の柿を食べた夜 - 居酒屋《ぼろ蔵》福島県・会津若松

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 会津若松市内で宿泊したのが、中町……というところ。

 隣接する日新町やその近くの本町も含めて、その範囲内には「旧町名」を示す看板が、それぞれ間隔をあまり開けずに立てられている。現在のように統合される以前、より細かく区分されていた頃の町名には、当時の土地、建物、住民の様子がつぶさに反映されていたらしかった。

 たとえば、今は日新町となっている旧針屋町。ここは本当に文字通り、針仕事をする針工が多く居を構えていたのがその由来とか。それから、旧諏訪四谷。かつては諏訪神社(現在も存在する)の境内の一角で、蒲生氏郷が設けた濠の脇に築かれた町がこう呼ばれるようになったらしい。

 

 私達が夜に出掛けた旧老町の近辺にも興味深い背景があった。

 老町、で「おとなまち」と読んだらしいのだが、もとは楼(ろう)の字が転じて老となったのだそう。なんでも3階建ての楼(この1文字だけでは妓楼だったのか望楼だったのか判断しかねるが、付近に大規模な歓楽街があるので前者かもしれない)が昔ここに存在していて、楼が姿を消してからは老町と表記されるようになった。

 その旧町名看板のある通りに、明かりの灯った小さな店舗が。

 

 

 古い蔵を改装し営業している居酒屋で、名前もそのまま「ぼろ蔵」という。

 ホテルの近くの飲食店で、できるだけ桜肉の取り扱いを前面に押し出していない店を探していて、気になったので行ってみた。なぜ会津で会津名物たる桜肉を避ける必要があったのかというと、友人が宗教上の理由で馬の肉を口にしないから。なら、別の何かを美味しく食べられるところがいい。

 あと居酒屋にこだわった理由は、Twitterのフォロワーさんがこっそりおすすめの日本酒を教えてくれたため。沢山の銘柄があって、できれば少しずつ飲み比べができるプランがあるところなら、楽しめそう……。

 そういうわけで入店する。

 

 

 まず注文したのが日本酒飲み比べセット。

・末廣酒造 山廃純米吟醸

・高橋庄作酒造 会津娘にごり

・ 廣木酒造 飛露喜

 の3種類、最後の飛露喜に関してはフォロワーさんにおすすめしていただいたもの。

 

 とても面積が狭いこぢんまりとした構えで、6人くらい入ってしまうともう空間は一杯だった。それにママさんがお一人で切り盛りされているようだったので、単純にサービスを提供する余裕の面でも、大人数は捌けない。行くならひとりかふたりが最適。

 特にこの日は、本当の本当に常連さんしかいなかったアウェー感をしみじみ味わいつつ、友達と今日の散策中に見た面白いものの話をしたり、明日寄ってから帰りたい場所について相談したりした。かたわら、カウンターの中で手際よく準備されていく調理器具を眺める。

 おそらくは必要なものだけが揃えられているキッチン。

 

 

 狭くても蔵なので天井が高く、解放感がある。頭上に太い梁が光る。飲みながら食べたものは揚げ餃子、ほっけの塩焼き、そして玄米おこげのチーズ焼き。どれも日本酒に合う美味しい料理だった。

 玄米おこげのチーズ焼きに関しては私がいちばん好きだと思ったもので、爆速で平らげてしまったため、残念ながら紹介できる写真がない。笑うところ。パリパリになった香ばしいお米のおこげの上に、味に深みを与える黒い海苔が敷かれていて、最後にとろけたチーズが全体を包括してくれる感じだった。おすすめできる。

 揚げ餃子の方にかかっていたのはおそらくポン酢だったような気がした。厚すぎず、薄すぎもしない衣はからりとして、その内側には肉汁と野菜の風味が閉じ込められている。ちなみに添えられていたキノコも油で揚げられており、そちらも地味~に美味しいのであった。

 そんな食事がひと段落した頃に、スッと差し出していただいたものが、柿の欠片。

 

 

 品種名を身不知(みしらず)柿、というらしい。

 会津身不知柿は福島県の名産品。推測されている名前の由来には諸説あって、枝に対して身の程知らずなほど多くの実をつけるから、とか、過去の将軍をして「こんなにも美味な柿を知らない」と言わしめたからとか、また我が身も顧みずに食べてしまうくらい美味しいから……など、多岐に渡っている。

 私はもともと柿をあまり食べない(別に嫌いなわけでもない)性質なのだが、身不知柿はこの果物に対する自分の先入観を払拭してくれた。

 まず、淡い黄色をしていて、今まで食べてきた濃い橙色をしたものと全然違う。果肉が締まりすぎておらず柔らかい。柿というよりも林檎か梨の食感を連想させられ、それらをもう少し濃厚にした感じ、と表現すると伝わるものがあるだろうか。良いなぁ、と思った。献上品に選ばれているのも頷ける。

 

 支払いを済ませて外に出る頃には、身体はすっかり温まっていた。

 そうして、再び冷え切らないうちに宿泊施設へと帰った。