南木曽駅の出口から徒歩で5分くらいの距離、福沢桃介記念館と桃介橋からもすぐの場所に、「桃介亭」というお蕎麦屋さんがある。金曜日、土曜日、日曜日……と、週のうち3日間だけ開店しているのだった。
首都圏から移住してきた親切なおじさまがおひとりで回されている店で、付近は閑散としている印象だったけれど、お昼時(金曜日)には私達のほかにもう一組のお客があったのを覚えている。休日なら、これよりもう少し忙しくなるのだろう。
提供されている蕎麦の種類はざるそばとかけそばの2種類。
2022年6月時点でそれぞれ750円とかなりお得だった。数量限定で、だいたい1日10食限定らしいから、9時30分の開店時間を狙っていくか、事前に電話で問い合わせをしてみるかすれば、きっと確実にお蕎麦が食べられる。
またコーヒーやビール、ソフトクリームの取り扱いもあるので、昼食以外にもおやつ休憩ができておすすめ。仮にお蕎麦が品切れでもソフトクリームはなくならないだろう。
前述したように、おひとりで準備から提供までされている都合上、入店してから少し待ち時間が発生するときもある。その場合、店内に自由に汲んで飲めるお茶が用意してあるほか、写真のようなお菓子(無料)を提供してもらえるので、席でのんびり過ごしていよう。
いただいたのはほんのり甘い豆菓子と、その隣にある細長い方は、蕎麦の麺を揚げたもの……だろうか? どちらも香ばしさがあって、じっくり噛めば噛むほど美味しかった。
やがて到着したのは注文したざるそば。トレーの上には蕎麦の麺とつゆ、季節ごとに品目の変わる天ぷら(筍や大葉、南瓜)、そしてサラダが載っている。サラダに添えられている白いものはチーズで、茶色いものはお味噌だった。全部あわせて昼食として十分な量があり、これで750円!
そばつゆに、ネギとワサビを落とす。ワサビはよく見ると半透明で、つやつやしていて、本当にさっき擦ったばかりのような新鮮さを醸し出していた。辛すぎず、奥深い風味がある。
蕎麦の麺は、なじみのある灰色よりも幾分か明るい白色をしていたのが印象的。噛んで飲み込むと抵抗なくなめらかに喉を滑っていった。この味をどう表現したらいいのか考えたけれど難しい……けっして重たくなく、軽やかな感じでありながら、どこか芯もある感じ。食感にざらつきが少ないので、おそらく一番(更科)粉と二番粉を比較的多く使っているのかな、と思った。
そして食べ始めてしばらくすると、蕎麦湯を持ってきてくれる。
私は蕎麦湯の使い方をよく知らなかったので母の真似をした。そばつゆの入った器に蕎麦湯を注ぎ、薄まったつゆを飲むのだそう。うん、おいしい。つゆを蕎麦湯で割ったら、そのまま味も水っぽくなりぼんやりしてしまうのでは、と考えたけれど、けっしてそんなことはなかった。
目を瞑ると、確かに液体へ溶け込んでいる無数のものの気配を感じる。どこまでも滋味豊富で、安心できる味がした。