chinorandom

彷徨する自由帖

MENU

抽斗の奥から出てきた身に覚えのない万年筆が、驚くほど手に馴染む(なぜ?)

 

 

 

 

 

 珍しくタイトルが記事内容の大半を物語っている。

 

 何でも……と言ってしまったら大嘘になるけれど、それでも漁れば漁るほど、相当に色々なものが尽きずに出てくる自分の部屋の机の抽斗(ひきだし)。

 いにしえの時代から仕舞いっぱなしのものと、比較的新しい世になってから仲間に加わった文房具の交々が、時には整然と、またある時には雑多に横たわり、私が手に取るまで黙って行儀よくまどろんでいる。いや、むしろ爆睡している。肩を掴んでゆすぶっても、全然目覚めないくらい。

 久しぶりにその片付けを始めて上から2段目に差し掛かったとき、奥の方から1本の黒い万年筆が出てきた。それも不可解なことに、まったく私には身に覚えのない万年筆。

 買った記憶も、使った記憶も、ここに仕舞った記憶もない。

 

 

 キャップのリングに記載がある文字は「SAILOR JAPAN FOUNDED 1911」となっている。つまり、メーカーはセーラー万年筆だということだ。

 もとより万年筆自体は日頃から使っていて、所持しているものの一つに同メーカーの「SHIKIORI -四季織-」があるため、それと並べてみて雰囲気が似ているのも理解した。ただ、これは四季織とは違って、ペンの頭と末尾が平らでない部分に特徴がある。

 一体どのシリーズに属するものか調べてみたところ、抽斗の奥から出てきたのは「プロフィット」であるという結論が出た。

 手元のものには14金の刻印があるため、なかでも「プロフィット スタンダード」か「プロフィット ライト」と呼ばれる種類のどちらかであるはず……。両者は重さなどが違う。これら以外のプロフィット系の商品だと、21金の仕様のものもある。

 

 色々と参照しながらweb上にある写真と見比べてみて、あることにふと気が付く。

 ペン先(ニブ)、軸のボディ、キャップ、いずれも現在販売されているものとは、その仕様がわずかに異なっているようだと。

 

 

 まず、ペン先に刻まれた特徴的な錨のマークは同じだけれど、1911という数字ロゴの大きさの違いや、ひものような装飾の有無が目立った。また、字幅の表示がS-F表記。最近のものならH-Fか、あるいは単純にFとだけ書かれているはず。それからボディに巻き付いたリングの存在。私が持っているものは、金色の輪がニブの根元にある代わりに、キャップ部分のリングが2重ではなくひとつだけだった。

 どうやらこの要素の差異、発売された年代によってもたらされているらしい。

 おそらく、最初期に登場した古いプロフィットが自室の机の抽斗から出てきたものであり、同シリーズの万年筆は後の2005年に一度デザインが変更され、さらにその後も少しずつ変化を続けているみたいだった。その点は納得できたのだが……。

 なぜこれが私の部屋の、机の抽斗の奥に?

 

 その疑問に答えられるだけの材料は何も無かった。文字通りなーんにも。私が万年筆を自分で買って使い始めたのはわずか数年前からのことであり、特に中古の物を譲り受けてもいないのに、デザインからして2005年以前に発売されたと推測できる万年筆をいつのまにか所持している理由はない。

 そもそも17年以上前となると、当時の私の年齢も1桁になってしまう。そんな頃に万年筆を贈られた覚えはないし、ただ忘れているだけ、という可能性も低いだろう。

 だから、知らないうちにどこからか紛れ込んだのだろうと思った。妖精さんが置いていったとか。昔、部屋に上げた誰かが文房具好きで、こっそり潜ませていったとか(書きながらいくらなんでもそんなわけないだろうと自分でも笑っている)。とにかく出てきたものは出てきた、と。

 

 

 内部を確認してみると、カートリッジもコンバーターも刺さっていなかった。当然ながら、インクの残った状態で万年筆を放っておくとまずいので、その状態が保たれていたのはありがたい。洗浄すると茶褐色のインクが溶け出してくる……ちなみに、こういう茶褐色のインクも私は持っていないのだった。

 あまりにも謎。

 本当にどこから来たの、この万年筆は?

 1日かけて乾かして、ちょうどセーラー用の黒いインクのカートリッジを常備してあったから、おもむろに装着。しばらくするときちんと筆記ができる状態になったのだが、これが驚くほどに書きやすい。びっくりするとしか言いようがない馴染み方。日常的に使用していて、購入から1年は経過している他のペンの使い心地と比べても、こっちが良い。

 不気味なのと面白いのとが半々で、まるで記憶をすっかり失ってしまう前の私の、形見か何かを無言で託された気分になってしまった。怖くてちょっと楽しい。

 

 きっと私の知らない私が、私の知らない何処かの世界で、この万年筆を使っていたのだと考えておくことにする。

 いきなり現れてこの調子だと、ほら……今度は、いつの間にか消えているかもしれないし。ねぇ。無くなってしまうまでは大切にするつもり。

 下手に怪異の話なんてしていたから、自分がおかしな体験をしてしまった。