自意識過剰なので、今週のお題の説明文にある「秋っぽい」という言葉が勝手に脳内で「飽きっぽい」に変換され、あっそれ私のことじゃん......と思うのだ。
普段は金木犀が生えている場所を歩いて通らないため、初秋の風物詩ともいえるあの香りが生活の中にない。そういえば赤いとんぼを頻繁に見かけるようになった気がするが、それを現在の季節と結びつける感性が死んでいる。出勤前の朝はただ寒くて毛布から出られないし、休日は同じ理由で、隙あらば午睡をむさぼってしまう。
このように私には今年の秋を堪能する余裕があまりなく、瞬間沸騰&瞬間冷却器としての性格上、何をしても訪れてしまう飽きのことがひたすらに恐ろしい。次は一体何に熱を上げて、どのくらいの早さで興味を失うのだろうか――。
だが生きていく以上、飽きる・飽きない以前に必須の行為として、食事を避けては通れそうにない。今回はお題にこじつけられることが食欲の秋・味覚に関連した散歩の思い出くらいしかないし、もっと友達に地元の横浜方面へと遊びに来て欲しいので、とりあえず食べ物のPR活動をする。どれも、肌寒い季節には一層おいしく感じられるものばかり。
横浜港周辺での軽食
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元町・中華街
鵬天閣 新館
横浜中華街には本格的な料理や飲茶を楽しめるレストランのほか、立って食べられる肉まんやシウマイ、北京ダック、杏仁ソフトクリーム、タピオカミルクティーなどの品を提供する店が通りに所狭しと並んでいる。
休日にお腹を空かせてぶらつくのにはもってこい。
中でもおすすめなのは「焼き小籠包」で、この鵬天閣新館の1階にはいつも長い行列ができているので見つけやすい。友人に教えてもらった場所なのだが、改めて調べてみるとかなりの人気店のようだった。
お店の壁が硝子張りになっているので、実際に肉を生地に詰めて形を整え、焼き上げるまでの工程を見ることができて面白い。待ち時間のいい暇つぶしになる(とはいえ回転が速いので、自分の順番はわりとすぐ来る)。
鉄板の上でぴったりと寄り添い蒸される、艶やかでかわいい小籠包たちは、まるで南極の氷の上のペンギンみたいだった。その温度が真逆なことを除いては。
白と緑の二色があるが、これは豚肉が入ったものと、海鮮の具材が入ったものの違いを表している。見た目だけではなくきちんと中身も違うのだ。
商品を受け取った後、横に置いてある黒酢をかけるとよりおいしくなる。
小籠包の醍醐味は、何といっても皮の内側から溢れる熱いスープ。火傷に注意して、歯で穴を開けた隙間から少しずつ吸う。こぼれても器からすすれるのが良い。それからくたっとした小籠包本体をしっかり冷まして、口の中に放り込むと、上部の皮の弾力と下側の香ばしさ、その奥から具材の風味を感じられる。
特に鉄板で焦がされた部分のパリパリとした食感は癖になってしまう。できたて、最高。
本場・中国では、上海を中心に食されているらしい焼き小籠包。通常の小籠包しか知らない人も、一度食べればその魅力に取りつかれること請け合いだ。かくいう私は、もともと皮にくるんで焼いたり蒸したりする食べ物(ダンプリング類)が好きだったので、一瞬で虜になってしまった。
ダンプリングはもはや飲み物。ごくごくいける。
もちろん、中華街にはタピオカドリンクもあります。
お茶とモチモチ食感を愛する自分にとってはだいぶ中毒性が高め。ほどほどに楽しみたい。
Pavlov(パブロフ)
こちらは元町・中華街駅の裏手にある、お洒落な佇まいのケーキ屋さん。
ショーウインドウに並ぶ宝石みたいな菓子たちは、決して見かけ倒しではない繊細で深みのある味。何種類かは買って帰るだけではなく、奥のカフェスペースで食べることもできる。内装も洋館の部屋のようで癒されるし楽しい。
休日は結構混むが予約はできないので、早めの時間に訪問するのが望ましいかもしれない。
二段のお皿に乗せて提供されるセットメニューは、アフタヌーンティー風の可憐な見た目でよく話題になる。
個人的に好きなのは「フレンチ&サレセット」で、この時も甘いものと塩気のあるもの、両方を食べたい私のわがままな欲望を適度に満たしてくれた。セットには飲み物が付く。これは迷いなくオリジナルティーのホット。もちろん、コーヒーもあるので人によってお好みで。
同行者に分けてもらった「本日のパウンドケーキ3種」には説明の紙が添えられていたのも楽しかった。それぞれ季節のフルーツや花が使われていて......テーマを読みながら味わうと満足度が増す気がする。
単純なので、目の前においしそうな(そして、実際においしい)食べ物が展開されているのを眺めるだけで、かなり幸せになってしまうのだが。おめでたい頭だ。
下段のフレンチトーストは卵液がたっぷり染み込んでいて甘く、それでいて焦げ目の苦みも同時に感じた。これは、プリンのカラメルの部分みたいな位置づけかもしれない。横のホイップクリームの下にはバニラアイスが敷いてあるのであわせて口に入れる。
時間が経つと溶けてしまうので、先に手を付けておいた方がいいかも。
上段に乗せられているケーク・サレは「野菜を使った塩味のケーキ」と記載されていて、じっと見つめると確かに野菜類が練り込んであるのが分かった。舌触りはとても軽やか。添えられているサラダにもぴったりだ。
しょっぱいパウンドケーキと聞いてもなかなか味が想像できないと思うが、試してみる価値は十分にある。興味を惹かれたのならぜひ。
ホテルニューグランド(ラ・テラス)
氷川丸をのぞむホテルニューグランドは、その一部が近代化産業遺産にも指定されている、重厚で上品な建物が特徴の老舗ホテル。開業は1927(昭和2)年。
サンドイッチやスコーンの含まれた、いわゆる「正統派」なアフタヌーンティーをお手軽に楽しみたいなら、本館1階のラウンジ《ラ・テラス》がおすすめ。予約可。せっかくなので正面から入って、大階段を拝してから席へと向かいたい。
この時は何らかのイベントが行われていたのか、ガラスの綺麗な靴が花びらに囲まれて置いてあった。
通常のアフタヌーンティーセットは税抜¥3,000(2019年10月現在)と、ホテルのラウンジで提供されるものとしてはかなり安価なのが嬉しい。ボリュームもあり、何より嬉しいのが紅茶のおかわり無限、種類もその都度変え放題という点だった。
アールグレイやディンブラなど、いずれも香り高く抽出された一杯を出してくれる。
後に、日本紅茶協会によって「おいしい紅茶の店」に認定されていると聞き納得した。だって本当においしい。紅茶を愛する者として、心から推せるスポット。
エクレアやケーキ、タルトの味はどれも素朴な感じで、上のパブロフで食べられるもののような繊細さはあまりないが、どこか安心できるのは何故なのだろう。
スタンドがテーブルに3つも並ぶと、気分は貴族。
小さなスコーンのお供はクリームとマーマレードで、最上部のフルーツ類は、こってりしたチョコレートやクリームでもたついた舌を休めるのに最適だった。
また、ポテトチップスを籠に入れて出してくれるので、食事の合間につまめる。序盤のサンドイッチ以降は甘味のオンパレードなので、それに飽きてしまわないための計らいなのだろうか......ありがたい。
食べ物もさることながら、席の周囲に漂うリッチな雰囲気だけでもかなりお腹が満たされる。
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関内
文明堂茶館 ル・カフェ
関内駅から出たらイセザキモール(伊勢佐木町商店街)の方へ。崎陽軒を右手に過ぎてもう少し行くと、横浜文明堂の店舗が見えてくる。
お目当ての空間はショップの奥、ひっそりと営業している喫茶スペースだ。レトロな内装が素敵なこの空間は、甘いものと一緒にお茶が飲める、散歩で疲れた足を休めるのにうってつけの場所だと思う。
入港する船をモチーフにした壁のステンドグラスがかわいい。それを眺めながら、深緑の布が張られた椅子やソファに腰かけているととても落ち着く。店員さんが纏っているのも、古き良き喫茶店をイメージさせる制服だった。
今回は注文しなかったが、ここで食べられるものの中に「パステル」がある。
一体どんなものかというと、どら焼き(三笠山)の皮の部分のみを二つ折りにした形状で、シロップやクリーム、バターをつけていただく生菓子。文明堂茶館の名物メニューだ。次はこれを試してみたい。
長崎で創業し、カステラを代名詞として全国に店舗を展開してきた文明堂らしく、喫茶で提供されるメニューの多くにそれが利用されていた。
もちろん、カステラ単体でも注文できる。濃厚な風味と底のザラメが舌の上で奏でる旋律は、言葉にするならば至福の一言。
写真手前に写っているのは「明治憧憬」というなんともお洒落な名前の菓子で、二枚の柔らかく薄いカステラに、冷えたラムレーズンクリームが挟んである。とても美味だった。一緒に注文したほうじ茶の風味とよく合う。ラムレーズンから漂う洋酒の香りと温かなお茶で、体の芯がぬくぬくするよう。さくらんぼの実付き。
クリームの代わりにバニラアイスを挟んだ「カステラアイスクリン」もあるので、これならレーズンが苦手な人でも楽しめる。
そして、写真奥のお皿に乗っているのはプリンだが、なんとカステラの生地が練り込まれているという。珍しいものに出会えた。
食べてみると、もちもちと弾力のある感じが新鮮で、添えられているジャムとシャーベットの酸味がさらにおいしさを引き立てている。プリン単体で店頭でも販売してくれたら、きっと頻繁に購入してしまうと思った。
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馬車道
馬車道十番館
明治時代にガス事業を興した、高島嘉右衛門家の旧跡に建てられた煉瓦の洋食店。それがこの馬車道十番館だった。
現在の建物は戦火の被害を受けた後に再建されたもので、様々な部分に当時の面影を残そうと試みられている。
3階ではレストラン、2階では酒場、そして1階では喫茶室と売店が営業している。今回利用したのは喫茶室。壁沿いの席から、店内に柔らかく差し込む陽の光と、ゆったりと流れる時間を感じた。
ファンライトのような半円形に嵌め込まれた色硝子が綺麗だ。照明もいい。調度品や床に使われた木が、上品なつややかさを持っているので気分が落ち着く。
私はティーレモネードという飲み物が好きでたまに飲むのだが、これがあまりお気に召さない人の割合は意外と多いらしい......確かに、紅茶を炭酸でパチパチさせるのに抵抗を感じるのは少し分かる。言葉だけ聞くと身構えたくもなるだろう。
実際は、レモンシロップと紅茶の味が炭酸で爽やかに仕立てられて、違和感ないのどごしでおいしく飲める。ハチミツの優しい甘さも魅力的だった。
ミントの葉があるとつい歯を立ててしまう。
売店で取り扱われている名物の焼き菓子「ビスカウト」やケーキ、コーヒーは普段のおやつにもお土産にも最適。
神奈川県立歴史博物館からほど近い場所に位置しているので、一緒に立ち寄るのも楽しいと思う。
秋の空気は味覚から。ということで、訪れたことのある軽食スポットを幾つか紹介してみた。
横浜には、肌寒い季節においしいものが楽しめる、ほっこりした場所がたくさんある。市内在住の私もまだまだ行動範囲が狭いので日々開拓中。これに関しては当分「飽き」がこなさそうで胸をなでおろした。
もっとお散歩をしたいので、食べ歩きに付き合ってやってもいいよという方、絶賛募集中です。
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はてなブログ 今週のお題「秋の空気」
こちらの記事中で言及していただけました。ありがとうございます。