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彷徨する自由帖

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60年以上続く「純喫茶 若松」- 家紋風の装飾があやしく光るレトロ喫茶店|千葉県・松戸市

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 本当にここに喫茶店があるのだろうか?

 というのが第一の印象で、地図が示す建物の前へと足を運ぶと、真っ先に目に入る言葉は「不動産」とか「豚串」なのだった。しかし落ち着いてビル全体を視界に収めると、確かに右のところから細く階段が伸びているし、ぼやけてはいても「純喫茶 若松」と書いてある。2階の壁には舵輪を思わせる何かと、くすんだ赤色の雨よけ。

 確かに若松は存在していた。階段の上の照明も灯されていて、どうやら普通に営業しているようだった。ならば行くしかない……入店。そのためにわざわざ松戸まで来たのだから。1961年か1962年、そのあたりの頃に創業した老舗だと聞いている。

 壁の片側が岩石風でおしゃれだ。頭上の照明器具は、銀の球体をふたつ繋げて円周に配置した形、なんとなく「昔の人が考えた未来」のお店に使われていそうな佇まいであった。ざらついた小豆色の天井に橙の光がよく映えている。

 

 

 奥の壁には松を思わせる形の鏡も。

 

 ところで「いらっしゃいませ」とこうして文字で書くと、少しばかり無味乾燥に思える。

 けれど、この純喫茶若松で店主さんから掛けてもらえる「いらっしゃいませ」の声のイントネーションは独特で、とても書き表すことはできそうにない。強いて言うなら手書きの、半紙に細めの筆で書いた文字のような、実に味わい深い優美な「いらっしゃいませ」がいただける。ぜひ現地に行って堪能してみてほしい。

 平日昼間の店内は空いていて、初めての利用だったけれど普通に迎えてもらえた。基本的におひとりで営業されているように思う。古い喫茶店の感じをあまりよく知らなくても、わりと入りやすい雰囲気。確かに独特ではあるが……。

 適当な席について店内を見回すと、やはり圧倒されるのが家紋風の装飾。天井や壁にはいわゆる星梅鉢のほかにも花菱、松皮菱を思わせるものと、果ては家紋辞典(実は仕事で使っています)にも載っていない創作のような図案も交じって描かれており、ホットコーヒーを注文すると水面にこれが映り込む。

 

 

 それを試してみようかとも思ったのだが、当時は夏で、いかんせん暑かったのでアイスコーヒーの方を注文することにした。酸味があまりなくて好きな感じ。たっぷりの氷が入っているのでグラス内の水面は平らでなく、天井にある家紋の映り込みは観測できなかったけれど大いに満足。

 店内は冷房が効いていて涼しい。ゆったりとしたソファも座り心地が良く、一息つくのに最適な空間でのんびりできた。他の例に漏れず、純喫茶若松も情勢を受けて営業形態を縮小中なのか、足を運んだ際(2022年)は飲み物のメニューのみの取り扱いだったが、調べると最近はフードの提供を再開したもよう。

 基本おひとりで回されているように見えたので、忙しい時は大変そうだ。もちろん助っ人が来る日もあるのかもしれないけれど。

 

 JR松戸駅西口から徒歩2分。

 地道に末永く続いてほしいお店。