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彷徨する自由帖

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光で動いてくれる腕時計

 

 

 

 

はてなブログ 今週のお題「人生で一番高い買い物」

 

 

 ◇      ◇      ◇

 

 

 個人的に、食事、宿泊、航空券や電車の切符などの交通費……つまり性質として体験に直結するものに対しては、買い物という言葉をあまり積極的に使わない。

 それゆえ人生を通して「一番高い買い物」を思い浮かべるとするなら、文字通りの物品から選ぶことになり、一度に使った金額、を基準にして考えれば「腕時計」が適切な答えになる。

 昨年購入して以来、外出時には必ず身に着けている腕時計。シチズン社のブランド・クロスシー(xC)、そのなかのdaichi collectionから販売されている種類。

 文字盤の裏のところに名前を刻んでもらい、また竜頭のところには人工の宝石を埋め込んでもらうオプションをつけて、10万円くらい。

 これは世間的にも相場的にも高額なもの、では決してなく、むしろ手頃と表現してもいい方だ。

 お題のとおり、あくまでも私個人がこれまで、自分の持つ金銭で購入した物品のなかでは最も値の張ったもの、という意味で「一番高い買い物」に選ばれただけ。そして、とても気に入っている。可能な限り長く使い続けたいと思う。

 

 

 腕時計を選ぶ際に重視したのは、1. 基本的に電池交換が不要であることと、2. 電波によって自動的に時刻を修正できること、3. 衝撃に強く錆びにくい丈夫なものであること、の3点。これらを基準にして、実際に所持したいと感じられる外観のものを探した。

 文字盤が大きすぎても小さすぎても不都合を感じる。ずっと手首に装着するものだから重さも大切だ。そして、ベルト部分は金属がいいのか、紐や革などの素材がいいのか、悩ましい。あとは仕事で常に時間の確認を要求されるため、できれば秒針のついているものが理想に近いはず……。

 最終的に選んだものはおよそ39gで、そこにある実感を持ちながらも適度に軽く、腕によく馴染んだ。

 些細なところだが、デザイン上かなり惹かれた箇所が、文字盤下部に設けられた小窓。

 朝方から深夜にかけて鳥、太陽、星、流れ星、月の絵柄が回転する円盤に乗って表示され、現在が午前なのか午後なのかを示してくれる。たとえ空が曇っていても変わらず天体の記号を認識できる状態は、予想外に自分を落ち着かせるものだと初めて知った。

 

 ……買って良かった要素は枚挙にいとまがないが、最も大きいと感じられるのは、電池の心配をしなくてもよい、という部分。いわゆる光発電で動作するタイプのため、意識的に充電せずとも問題なく、いつ電池が切れるのかとふるえながら怯える必要が発生しない。

 スマートフォンやPCでも簡単に正確な時刻を確認できるようになった昨今、私がこの腕時計を手放せない理由の大半はそこにある。

 電子機器の画面を頻繁に眺めていると頭痛がするのも一因だが、何より、あとどのくらいで充電が切れますよ、と可視化されたゲージが存在しない安心。あの、充電コードという細い線に機械の命が左右されない……許された自由。

 

 昔から苦手だった。電子機器の充電が尽きて、画面が真っ暗になり、あるいは全ての活動が停止し、静寂が訪れる例の瞬間。

 あまりにも強烈に生き物の死を連想させる、私にとっては相当に不吉な現象。もう二度と目を覚まさなかったらどうしよう、でも充電さえすればいいんだよね、と戸惑いながら瀕死の人間の世話をする感覚で、コードを機械に差し込む。ネジ巻きの玩具が動かなくなるのとはわけが違う。

 そういう恐怖をできるだけ回避するために、一部の例外を除く書籍も、スケジュール帳も、できるだけ紙のものを持ち歩いている。

 腕時計なら、光さえあれば勝手に充電がなされるものを選ぶ。

 常に電池が尽きないよう、また尽きても迅速に充電が行えるよう気を配り続ける、休みのない心の動きはとんでもない精神的負担なのだった。だから、それらから解放されていると非常に安らか。私の腕時計は安心感を与えてくれる。もしも光発電のシステムまで壊れてしまったなら、もう仕方がない、と簡単に諦められるのが嬉しい。

 これはその場しのぎではない、確かな安心だった。