参考サイト:
旧前田家本邸(東京都生涯学習情報)
駒場公園敷地内にある大きな洋館——旧前田家本邸。以前は旧前田侯爵邸とも呼ばれていた場所。
私は2020年の初夏に初めて見学し、その際の訪問記録も残している。
建物の概要とか、今回よりも全体的な印象の方に関しては、以下の記事へ。
この東京都目黒区、公園の緑に囲まれた昭和4年竣工の建物を、2021年の冬にもう一度訪れた。今度は自分ひとりではなく、友達を伴って。
過去に内部を歩いた近代建築を再び探索するのはかなり面白かった。
昨年は思いもよらなかった箇所に目が行ったり、隣に立つ誰かの意見を聞いたりと、初見の時には咀嚼しきれなかった要素をたくさん味わえたために。普段は新しい邸宅の魅力を探すのに血眼になっている分、落ち着いた気持ちで内装を眺められたのも、結構よかった。
とりわけ印象に残ったのは、他の近代の邸宅でも遭遇した、あの美しい家具の存在……。
そう、あの家具とはもちろん「あれ」のことだ。
同じ東京都内にある旧山田家住宅や滋賀県の旧八幡郵便局にもあった、透き通って美しい、八角形の面を持つクリスタルのドアノブ。握り玉の部分に透明の塊が輝いている。
旧前田家本邸では、以前の浴室にあたる部屋の扉に取り付けられていた。
触ることはできないものの、開かれたドアの側面に回ると、板を貫く一本の軸で繋がった綺麗な結晶を存分に拝める。本当に素敵。はじめにこういう意匠を考え出した人は、いったい誰なんだろう。
自分でもかなり意外に思うのは、私は最初に前田家を見学していたとき、このドアノブの存在に全く気を取られなかった……という事実。素通りしていた。
いや、嘘でしょう、と思うけれど実際にそうだった。冒頭にも掲載した前回の記事を読み返してみても、一切言及していないから。きちんと見ていればそれとわかるように何か書いていたはず。
頭の中で某作品に登場する探偵が喋り出した。ただ見たり眺めたりするのと、観察をするのは本質的に違う行為なんだって。
前回の私はクリスタルのドアノブの魅力を知らなかったし、だから注意も払わなかったのだろう。「視界に入っていても認識していない」とは、まさにこういうことみたいだ。
棚の中にも展示してあったから、ここだけでなく、どこか他の階の浴室や洗面室でもかつては使われていたのかもしれない。
クリスタルのドアノブに関する詳しい説明書きは特にない。けれど、別の場所で見つけたものがいずれも米国に関連するものだったので、おそらくは前田家にあるものも当時の輸入品だろうと推測できた。
それにしても目を引かれるし、心もその透明な膜の内側に囚われる。
検索するとアンティークのカテゴリで類似の製品がヒットするから、いっそのことひとつ買って、自室の扉に取り付けようかと真面目に検討するくらいには好き。
国内にまだ存在するであろうクリスタルのドアノブ、少しずつ探し出していきたい。
それこそ採掘をするみたいにして。
同階の、相変わらず素晴らしかった書斎。
前回の記事:
また、前田家の別邸訪問記録はこっちです: