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彷徨する自由帖

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某長編小説、万年筆とインク、それから少し古い文字……新しく興味を持ったこと

 

お題「#この1年の変化

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 この1年で、自分の暮らしがどんな風に変わったか。また、日々どんなことを考えていたのか。

 そう問われて思い浮かべるものは本当にたくさんあるのですが、とりあえず嬉しいことに「退屈とはほとんど無縁だった」と言ってよいでしょう。旅行に行けないとか洋館巡りができないとか、色々な外部要因の影響があったとしても、です。

 自粛期間中に新しく興味を持った事柄が、いつのまにか従来の趣味としっかり結びついているものだから、頭を休めるいとまが全然なくて。

 凝り性で調べたがりのオタク気質は、疲れることもあるけれどやっぱり楽しい。今回はそんな自分の、最近の関心の一端を紹介します。

【目次】

 

1. 小説《十二国記》の影響

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 昨年の6月にこんな記事(新潮文庫版《十二国記》を一気読みする至福 - 王と麒麟と国、そして民衆の物語)を投稿していました。

 そう、本格的な外出自粛期間の初期の頃に、小野不由美氏の小説《十二国記》という傑作長編小説を読み始めてしまったのです……。これが大変な沼でした。普段キャラクターグッズを買わない自分が、アクリルスタンドにまで手を伸ばしてしまったとは。なんということでしょう。

 十二国記の舞台となる世界(常世)は、私たちの暮らす世界(作中で日本は「蓬萊」や「倭国」と呼ばれます)とは大きく異なっており、麒麟という神獣の選ぶ王がそれぞれの国を治めることになっています。そこは、水のない海「黄海」に妖魔と呼ばれる架空の生物たちが跋扈していたり、玉京におわすとされる天帝や諸神、そして世界をシステマティックに動かそうとする「条理」の存在が示唆されていたりする、謎多き深遠な場所。

 ベースになっているのは古代中国の教典《周礼》や道教のほか、神仙思想、神話や伝説など他にもたくさんあって。

 確かに現実離れした設定ではありますが、描かれるのは各登場人物に課せられるものの重さや、支配者・被支配者それぞれの視点、理想の国家とは何かという問い、また場所を選べずに誕生する人々が何を掴み取りどう生きていくか……。

 圧倒的な筆力と構成力に支えられたそれらを前にすると、単なる「ファンタジー」というカテゴリーだけで十二国記を捉えることが無意味だとよく分かります。

 今まで私は主に西洋の物語や日本の近代文学を好んで読んでいたのですが、十二国記の面白さをより存分に味わいたくなり、やがて古代中国の生活や伝説に関係する書籍も手に取るようになりました。

 この《中国の神獣・悪鬼たち―山海経の世界》もそのうちの一つです。

 十二国記に登場する妖魔は、古代中国の書物「山海経」に着想を得たものが多いです。上の本にはそれらの名称や特徴のほか、出現する条件や退ける方法なども解説されているので、読むと理解が深まるのが楽しい。

 それから、以下の《新編 中国名詩選》(上・中・下巻に分割)もときおり紐解くように。

 学生時代から漢詩の授業は好きでしたが、実際に原文を前にして多くを読み取れるほどには明るくありません。この中国名詩選には丁寧な注釈と解説がついているので、気軽に物語の世界の中に入り込めます。

 特に死者の魂魄が還る山「蒿里」に言及されている詩は、十二国記ファン、特に戴国へ思いを寄せている方であれば触れる感慨もひとしおなのではないでしょうか。

 ……さて、そのうちに本だけではなく、実際に「それらしい場所」へも足を運んでみたくなるのが聖地巡礼好きの性というもの。しかし感染症の影響がありますから、今は実際に中国大陸へと足を運ぶことはできません。そこで私は近隣の中国式山水庭園にお散歩へ出かけました。

 川崎大師のすぐ近くにはこんなに素敵な場所があるのです!

 きょろきょろしながら、常世に生きる登場人物たちの出入りする王宮や、敷地内の園林に思いを馳せました。屋根の瑠璃瓦や漏窓、天井画、石橋のあらゆる要素が訪問者を別の空間へと誘ってくれます。人も少ないのでまた行きたいところ。

 それから……。

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 写真の食べ物は、黒胡麻ペースト入りの湯圓(タンユエン)というお団子になります。中国北方と南方で製法と呼び名が変わり、餡にもち米をまぶして作るのは元宵、逆に具を生地で包むものを湯圓というそうです。

 今年は2月26日が元宵節にあたる日だったようで、大陸の風習に乗っかって私もお家で食べました。この祝祭自体は十二国記の物語の中に登場しませんが、同じ中国文化の繋がりがあるということで、色々調べたり想像を膨らませたりと興味が尽きません。

 小説を読んでいなければ、こういった行事に関心を向けることもきっとなかったのだろう、と思うと不思議な気持ちになります。

 という感じで、ここ1年間で十二国記から受けた影響の大きさはとても図り知れませんでした。

 

2. つのる文房具への興味

 長編小説を読む他にも、新しく心を傾けるようになったものは……文房具です。昨年12月にこんな記事を書きました。

 職場でもたくさん言葉を綴りますが、やはりお家にいる時間が多いと腰を据えてじっくりと何かを書きたくなるもので、筆記用具も使っていて心地良いものを揃えたいと以前より考えるように。なかでも万年筆は、個人的にボールペンよりもストレスなく使えて重宝しています。

 とはいえ、初めは何が自分に合っているのか判断するのに時間がかかりました。上の記事で紹介したような、軸が手ごろな値段のものから少しずつ試していって、最近いちばんよく手に取るようになったのはこの一本。

 ペリカンの万年筆、スーベレーン(Souverän)M400の字幅F(細字)です。軸の外観は青縞

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 ペリカンは現在スイスに本拠地を置く筆記具メーカーで、2018年には創立180周年を迎えた老舗。このスーベレーン万年筆は1950年に発表されたM400モデルの復刻だそうで、内部構造や細部の意匠以外はそのままに、1982年の発売以来世界中でひろく愛好されています。

 本体を持ち上げてみると非常に軽く、実際に握って紙の上でペンの先端を滑らせてみると、全く引っかからずに文字が書けます。手が疲れないのが嬉しいですし、単純に文字を綴ることが楽しいと思わせてくれる素敵な一本。

 私が使用しているのはペン先はF(細字)なのですが、体感としては国産万年筆のM(中字)に相当するくらいの太さだなと思います。ゆったりとしたインクの流れや色そのものを楽しめる分、画数の多い漢字などはつぶれてしまいがちなので、細かいマス目や行に何か書き込む機会が多いならEF(極細字)がおすすめ。

 また、万年筆を楽しむうえではインクも欠かせない要素のひとつ。個人的には職場でも気兼ねなく使えて、なおかつ微妙な色の変化を味わえるものが好きなので、グレーや青をよく入れています。

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 上の二つはセーラーの出しているインク《四季織》シリーズより「匂菫」「仲秋」です。前者は春で後者は秋のグループに属していて、自然豊かな日本の四季をイメージしたと商品説明にあるように、比較的落ち着いた彩度が目に優しく魅力的ですね。

 ボトルだけでなくカートリッジでも展開されているので、セーラーの規格に合う万年筆を所持している場合はどちらでも好みに合う方を選べます。私も「織姫」という軸を持っているのですが、可愛らしくて使いやすく、いつも持ち歩いています。

 万年筆やインクは追求すれば無限に深められる世界だからこそ、あんまり沼にはまらないよう気を付けたいです、とはいえもう思い切り片足を突っ込んでいる気はしますが……。

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 こちらはカナダ発の文房具ブランドFerris wheel press(フェリス・ウィール・プレス)のインクで、名前はモス・パーク・グリーン。緑のかった灰色のにじみが公園の石段を覆う薄い苔のようで、心が落ち着きます。日記などを書くのに良いのかも。

 そしてもう一つ紹介したいのは、横浜・元町にちなんで「元町ブルー」の名がつけられた青緑のインク。写真の下部に映っている万年筆の軸はプラチナから出ているプレジール、2020年限定のティールグリーンです。

 茂る木々に包まれた湖水か、遠い国の海の浅瀬を思わせる、何とも言えない色味がたまりません。

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 元町ブルーは全国にある文具店「銀座 伊東屋」さんのうち、限られた店舗でのみ販売されています。購入時、目の前で実際に色を調合してくれるカクテルインクというサービスで、現時点でのカラーバリエーションは55色ありどれも魅力的。

 万年筆やインク好きの方は、付近を訪れた際に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

 

3. 仕事で触れるようになった文字

 最後の項目は、少し変わった「文字」に関心を持つに至ったという話です。

 この記事を読んで下さっている方々の中に、以下のような文字を日常的に目にしているよ、という人はいるでしょうか? もしかしたら古いお店の看板や、暖簾などに掲げられた屋号に含まれているのを見たことがある方も、少なくないかもしれません。

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「天ぷら」と書かれていますが……「ぷ」が特殊な形をしているのが分かります。この暖簾は《土手の伊勢屋》さんのもので、新吉原前を散歩していて見つけました。ブログ記事も過去に投稿しているのでよかったら。

 写真の例は「ふ(ぷ)」でしたが、実は他にもたくさん種類があるのです。少し、例を調べて書き写してみました。

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 これは「変体仮名」と呼ばれる文字で、私は現在の仕事(業務内容としては、主に人名の漢字・仮名を扱ったり、取材をもとに文章を執筆したりと色々です)に就いてから、初めてその存在を知りました。おそらくは一般的なひらがなの異字体、とでも呼べるものになるでしょうか。

 現代の私達にはあまりなじみがありませんが、明治33年以前には普通に小学校で教えられていました。仮名、と一口にいっても色々あったのですね。

 またご年配の方のお名前にもまれに用いられていて、ふと見かけると、戸籍法の適用される昭和23年以前にお生まれになったのだな、ということが分かります。

 変体仮名が淘汰される契機になったのは活版印刷技術の進歩だといわれていますが、確かに字形が統一されていないと扱いにくいですし、こうしてキーボードでの文字入力や変換が身近になってくるとますます使いづらいというのは想像に難くありません。

 言葉や文字は時代により変化し続けるものなのだということを、携わっている仕事を通して実感できたのは面白く、ものを見る際の視点が新たに増えて、それもまたこの1年で経験した変化のうちの一つでした。

ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

 こうして記事にまとめてみると、積極的に外出せずお家にいるだけなのに、自分の持つ色々な方面への興味関心は尽きないんだなと改めて感じます。もともと何時間でも座って本を読んでいられるタイプなので、引きこもるの自体は全く苦になりません。

 ただ、やはり私としてはもっと旅行がしたい! というのが本音。それでも生活様式の変化に応じて、楽しむものの傾向を変えてみたり、今まではあまり注意を払ってこなかったことに目を向けたりするのはとっても面白いですね。月並みな結論ですが……。

 何かを無理せず楽しむ心を持って、またブログを更新しに来ようと思います。