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彷徨する自由帖

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「カイ少年」へ

 

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参考・引用元:

雪の女王(ハンス・クリスティアン・アンデルセン著/青空文庫)

 ◇      ◇      ◇

 子供が冬の澄んだ夕空を見上げて、そこへ稲妻のように走った大きな亀裂を幻視する。素知らぬ顔で横切る飛行機の向こう側、ああ鏡が割れたのだ、と思った瞬間にはきっと、もう忘れている。

 それでも破片はあまねく地上に散らばっただろうし、いつか実際にひとつを目にした際は、すぐにそれと判るのだろう。涙で溶かす必要は、今はない。

 あの雪原の向こうに住まう彼女が、どうしても創り上げられなかった「永遠」という言葉を想わずにはいられない。秩序の城に、理性の鏡。懐疑的になることを歪みと呼ぶのか、新しい知への門出と捉えるのかで、その意味は大きく変わる。これは善と悪に分けることはできない、性質の違いだ。

 疑問を排除するというのは、すなわち追い求めるのを辞める、ということに他ならない。だからこう考えている。カイは、女王に攫われていったのではない。本当は自分の意思で彼女を見つけたのだ。

 瞼を閉じる。すると、そこには一対の瞳がある。

 脳裏に浮かぶ聡明な子供に、好奇心を体現している彼に対して願う。たとえ吹雪に凍える夜であっても、君が身の内に怜悧かつ堅牢な論理を飼い続け、そこに確かな熱を見出せますように。いつか胸に刺さった破片を溶かす者の涙に触れた時、暖炉の焔と引き換えに、かつて愛したものを忘れてしまいませんように、と。

 私だけではなく、世の万象が祈るだろう。

 あるいは君なら、いや、無数の「君だったかもしれない子供たち」ならば、彼女には辿り着けなかった場所、永遠のさらにその先へ向かうことができるかもしれない。

 いつか君があの城で過ごした日々を思い出す時、今度は私が君を探しに行こう。吹雪に閉ざされた国の、氷室の住人に代わって。