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いろいろ記録帖

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千本松牧場と、展望塔から眺めた蒼い山々|東京から在来線で行く栃木・那須塩原(2)

 

 これの続きを書きました。

 今回の旅の中で「怪しさ」を感じられるような要素は、上記のピラミッド元氣温泉を除いては別にないだろう……と思っていたのですが、予想に反して千本松牧場もなかなか不思議なスポットでした。経営者の方針(?)なのか、何なのか。お時間ある方は引き続きお付き合いください。

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風車
  • 那須野が原公園

 ピラミッド元氣温泉で一夜を過ごした後、朝にはまた軽くお湯に浸かり、チェックアウト時間ぎりぎりまで二度寝をしてしまった。お布団は人間を引き込む魔のような存在だから、あまり心を許してしまわないよう気を付けないといけないと改めて強く思う(睡眠が好きなので、用事のある日以外にきちんと起床できた経験があまりない)。肌寒い朝に飲む緑茶がとてもおいしい。それから無事に着替えとチェックアウトを済ませて、次の目的地へと向かうことにした。

 温泉の入口を出て左の方角へ20分ほど歩いていくと「那須野が原公園」に辿り着く。キャンプ場やプール、アスレチックもあり、家族連れが一日を過ごすのに適した施設が多くある場所だ。

 この日は晴れていて絶好の散策日和だったので嬉しかった。見回すと部活動の一環なのか、学校ジャージを着て敷地内を走っている子供たちの姿がある。風車や、その横にある花時計(季節柄なのか花は一本も咲いていなかった)を横目に緩やかな丘を超えて、まずは展望台らしきものが立っているところまで行ってみた。このときは陽が出ていたので、動いていると少し暑いとすら感じることもあった。

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展望室

 農作物や家畜の飼料を保管する「サイロ」の形から着想したという展望台の塔は、サンサンタワーという名称で呼ばれていた。時期によって夜間のライトアップがされることもあるらしい。大人は300円を払って内部に入ることができる。係の方は「もう紅葉の一番きれいな時期は過ぎてしまいました」と仰っていたが、最上階の窓越しに望んだ色付く木々と那須の山々が織りなす美しい眺めで、心は十分に潤される。

 公式サイトによると、ここから見ることができるのは那須連山、高原山、そして筑波山や東八溝山といった山の数々であるそうだ。また、タワーの近くにある貯水池で鳥が浮かんでいるのも確認できた。

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色づいた木々と山々

 後景の山がとても蒼い。写真の色調補正をしたわけではなく、空気の層の向こう側にそびえる塊は実際にこのような色で私たちの目に映っていた。余談だが、ある程度写実的な絵画の基礎を学ぶ際、遠くに見えるものは空気遠近法(と色彩遠近法)に従った色味と筆致で描写することを教えられたな、と昔のことを思い出した。そのとき配られた図版の中にあったフランチェスカの絵のことも。

 ところで、私は山に対して少しの興味を持っている。出かけるなら海か山か?と聞かれた際には多分間を置かずに「山」と答えるだろう。実際にそこへ足を運ぶのも好きだし(いわゆる「登山家」ではないので風景や運動を楽しみにハイキングに行く程度だが)、山と人が古くからどのように関わってきたのかをより知りたい、と思うのだ。

 某所での文化人類学の講義を聴いたことや、日本の国土の7割以上が山地であるという事実に影響を受けているのかはまだよく分からない。とにかく自分の認識の中で山は畏怖すべき、神秘的な存在という位置を占めているので、これからも勉強をしていきたいと思う。

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下部に映っているのはタワーの影

 タワーの下の階には野鳥観察室もあり、壁に貼ってある鳥たちの紹介を読みながら望遠鏡をのぞくことができた。今の時期でもたまに何種類かの鳥が来ているらしいが、今回は枯れ枝の他に何も見つけることができなかったので少し残念だ。個人的に片目でじっと見る必要のあるものが少し苦手で、そこから目を離したあとは、しばらく平衡感覚を失ってしまったかのようにふらつくときがある。

 その後十分に眺望を楽しんだ後は下界へと戻った。ここから千本松牧場までは水路に沿って、せせらぎを聴きながらひたすら真っすぐに歩いていく。

  • 水路沿いに

 かつて不毛の地と呼ばれた那須野が原に、明治時代の華族が大規模農場を設置したことで進んだ「開拓」のことを前回少しだけ書いたと思う。当時のどこまでも続く、石と砂だらけの乾いた場所に、人間が使えるように水を引くというのはやはり大変な事業だったようだ。この水路沿いを歩いている途中にも、水車やポンプをはじめとした用水に関連したものを、簡単な説明書きとともに幾つか見ることができた。

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水が沸いていた

 私も今回調べていて初めて知ったのだが、水源から水を引くために土地を切り開いて作った水路は疏水(そすい)と呼ばれることもあるらしい。意味としては用水と大きな違いがないが、地域や年代によってどちらが使われるのかが異なっているようだ。この栃木の地には明治十八年に完成した、日本三大疏水のうちの一つに数えられている「那須疏水」が存在しており、今もその役割を立派に果たしている。

 水路沿いで見つけた展示物のなかには、「水琴窟(すいきんくつ)」と呼ばれるものがあった。余談だが、この記事を書こうとした際に水琴窟の名前がどうしても思い出せず、検索バーに「水を入れると音が鳴る穴」と入力した結果、正式名称が判明した。

 下の写真のように、水琴窟の穴の傍らには手桶が置いてある。それを使って横の水路から水を汲み、穴の中へと零してみた。

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 耳を澄ますと、かすかに木琴を叩くような、または鈴が鳴るような音が聴こえる。普通に水滴が水面を叩くものとはだいぶ違う。これは日本庭園において手水鉢のそばに設置されることがある風流な装置で、起源ははっきりとしないが、江戸時代に存在したある庭師が造ったことをきっかけに普及したのではないか――と考えられているそうだ。同じような仕組みの装置はそれ以前にも存在していたらしい。

 水を利用した意匠や仕掛けは古今東西の庭園で見られるが、その形は本当に多様である。かつてイギリスに留学していた頃は風景式庭園について調べていたが、風景式庭園では実際に人の手で湖や川、滝を造ってしまうというような、とても規模の大きい仕掛けに水というものが使われていた。日本の庭園でいう水琴窟やししおどしのようなものはあまり無かったように思う。各国の庭園における「水」の立ち位置を今度調べてみたい。

 そこから水車を通り過ぎて引き続き道を進んでいくと、やがて目の前に牧場の看板が見えてくる。

  • 千本松牧場

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 ここはかつて、内閣総理大臣と大蔵大臣を何度か務め、明治天皇からは大きな信頼を寄せられていた松方正義(まつかたまさよし)が開設した農場が起源となった場所だ。群生するアカマツに囲まれ、開設から現在に至るまで120年以上にわたる長い歴史が積み重ねられてきた。高速道路出口のすぐそばにあるほか、入場が無料なこともあって多くの観光客を呼び込むことに成功しているようである。

 ソフトクリームがとても美味だったので、皆さんにもおすすめしたい。ここでは他にも、後述するジンギスカンや動物とのふれあい、そして不思議なアトラクションを楽しむことができた。

 さて、敷地内に入ってほどなくした場所にはとある看板が立っている。一見すると、なんの変哲もない注意喚起の文面に思えるのだが……。

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看板

 よく読むと、通常は人間が犬を散歩させる上での心がけを書くのに対し、これは「犬の側が人間を散歩させている」という認識のもと表記されているということに気付く。そもそもの書き出しからして「犬のみなさんへ」となっているのだ。それ以外にも上の写真には写っていないが、付近にはいわゆる「インスタ映え」に群がる人々を揶揄するかのような語句とともに描かれた蠅のイラストが掲示されており、謎の雰囲気が漂っていた。一体あれは何だったのだろう。

 それはさておき、まずはお昼ご飯を食べることにした。千本松牧場にある食堂のなかにはジンギスカンを楽しむことができる所がある。材料を購入したら鉄板にまず油をひいて、その次に野菜をのせ、最後に肉をかぶせたら機を見て混ぜ合わせる。一見単純だが、これが意外と難しい。特にもたついているとすぐモヤシが真っ黒こげになってしまう部分などが。

 ジンギスカンのセットには白いご飯とお味噌汁が一緒についてくる。定番の羊肉はもちろん、苦手な人のために牛や豚などもあるので、比較的幅広い層の人たちで楽しむことができるだろう。

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自分で調理する

 会話もそこそこに、かなりガツガツと目の前の食物を口に運んでしまった。改めてお肉っていいなぁと思う。私はお肉が大好きです。

 食堂を出て大通りを真っすぐ歩いていくと、つきあたりには動物と触れ合える一角があり、大人は200円を払って中に入ることができる。そこには定番のヤギやヒツジ、ウシやブタの他にもダチョウ、ワラビー、それから犬などがいた。まだ若く小さい、かわいいヤギの個体たちが動き回っているのを見るのは癒しだ。おじいさんのようなひげが、彼らが駆け回るたびに揺れる。

 少し前、ふと「山羊と羊を見分けるための決定的な特徴とは何だろうか?」と疑問に思い調べていたのだが、これが意外と難しいものだった。特に毛の刈られた状態では、羊のあの特徴的なもこもこが無くなってしまうので区別がつかない。あごにひげが生えているのが山羊なのでは?とも思ったが、そうではない種類のものもいるようだ。見た目ではなく、食べる物や活動する地形・場所、または体の構造を確認することでどちらが山羊か羊なのかを調べられるらしい。

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山羊たち

 色鮮やかなインコも多くいる。他に「うずら」と明記された檻の中で、ニワトリが闊歩しているのを見たときは思わず笑ってしまった。雑すぎる。

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 今回は時間の関係で、牛の放牧場や松方別邸(明治時代の洋館)のあるエリアには足を運ばなかった。後者に関しては私有地の内部に位置しているため、内部を見学することはそもそもできないのだが、周囲の木々に囲まれたその佇まいはきっと一見に値するのだろう。

 さて、ここ千本松牧場にはいくつかのアトラクションが用意されているが、子供向けのバルーンハウスや気球乗り体験に混じって異彩を放っているものがあった。そのうちの一つがこの「発掘王」だ。

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怪しい小屋

 これは中に入ると1組(2人~)につき10分の持ち時間が与えられるので、そのあいだに砂場をスコップでひたすら掘って、いろいろなものを掘り出す――という趣旨のものであるようだ。なかでもモアイ像(だと思う)を象った金銀の板を見つけられれば景品がもらえるらしい。

 正直なところ全く興味をそそられなかったのだが、友人の強すぎる押しに負けたのでやってみることにした。基本的にはビー玉や貝殻など細々としたものが埋まっていて、掘り出したものは袋に入れて持ち帰ることができる。特にこれで何をするというわけではないけれど、それらの光沢を眺めていると、不思議と懐かしい気分にさせられた。縁日によった帰り道みたいで。

 ちなみに、私と友人は2人とも運よく金銀の板を見つけることができたので係の人へとそれを報告した。「おめでとうございます~」などと言われるかと思っていたら「あっハイ」と素っ気なく引換券を渡される。想像以上に反応が薄い。もらえた景品は牧場の商品であるプレミアムヨーグルトで、付属の苺ジャムとともにおいしくいただいた。

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発掘したもの

 これだけでは飽き足らない様子の友人にそそのかされ、次に連れ込まれたのは「ゴーストの館」というホラー系のアトラクションだった。

 内部に入って席につき、ヘッドホンを装着すると怪談が流れてくるのに合わせて、電気が点滅したり空気が吹きかけられたりするというもの。看板にも実際に記載があったが、B級という言葉がとてもふさわしい印象だった。語り手の口調や声、話のつくりの粗さが笑いを誘う。怖いものが苦手な人でも大丈夫。

 調べたところ、東京・浅草の老舗遊園地「花やしき」にも同じものが設置されているらしい。それがなぜこの千本松牧場にあるのかは全くわからない。

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ゴーストの館内部|浅草花やしきのHPより

 このように変わったものがある、少し不思議な雰囲気の牧場だった。

  • 帰路

 帰りはまず西那須野駅から宇都宮駅へと出て、そこから横浜駅まではグリーン車を利用してみた。実は乗るのが初めてだ。

 新幹線と比べて在来線はかなり時間がかかることと、混雑が避けにくいことがデメリットとして挙げられるが、身軽な状態でなら安く楽に目的地まで行くことができるのでとても便利だと思う。今回のように友達と一緒なら長い移動時間もあっという間だし、一人旅でも本を読むなどしていれば退屈がまぎれる。

 席について、グリーン車乗車券の購入記録があるICカードを天井の印にかざすと、ランプが緑に変わるのだ。今まで知らなかった。

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初グリーン車

 春にかけて暖かくなってきたら、今度は遠目から山の方を眺めるだけではなく、実際に山へと足を踏み入れてみたいと考えている。特に気になっているのは長野県の浅間山とその周辺だ。野沢菜入りのおやきが食べたい。

 もう年の瀬だけれど、この2018年は、国内外のいろいろな場所に行くことができてとても楽しかった。来年もきっと。実は最近新しい場所で働き始めたので、そのことについてもまた今度書きますね。