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彷徨する自由帖

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コッツウォルズ南部でのイースター休暇|バイブリー、カッスル・クームとテットベリー周遊

 

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 3月中旬から4月頭にかけて、イギリスの街のあちこちで徐々に見かけるようになるのがひよこ、ウサギ、そしてといったモチーフやそれを用いた製品の数々だ。

 ――イースター。磔刑にされたキリストの復活を祝うとされる春の行事は、イギリスだけでなく多くの国々で独自の形式のうちに行われており、特にキリスト教人口の多い場所では国民的な祝日として扱われてもいる。

 余談だが、数年前にひとりでドイツを訪れた際もちょうどこの時期で、飛行機でベルリンへ向かう直前にミュンヘンの文房具屋で "Flohe Ostern (英:Happy Easter)" と書かれたウサギのカードを購入したのを思い出した。

 なかでもイースターの象徴として最も代表的に用いられるのは、冒頭で言及したもののうちひよこ、この二つだといえる。起源は中世のヨーロッパに遡るとされており、四旬節("灰の水曜日"から復活祭の前日までの期間)に行われていた断食の最中、牛乳や卵など酪農品を禁じられていた人々が、その終了を喜んだことに関連しているという。

 ウサギや羊は春に子どもが生まれることからイースターに関連付けて考えられることが多いが、とくにの方は聖書の中で比喩的にキリストや他の事象を表すことにも使われていたため、宗教的な結びつきのイメージがより強い。

 今年のロンドンの春は肌寒い日が多かったように感じられる。そんな中でも休暇時に旅行した際には幸いにも晴れ間に恵まれ、気持ちの良い時間を過ごせた。というわけで、ここに記すのは中~南部コッツウォルズにある村のうちいくつかを春に周遊したときの所感だ。北部の村やその近辺を訪れた思い出と写真については、以前に書いたこちらをぜひ参照されたい。

 また、以下で訪れた地域もコッツウォルズの北端から近く、範囲内のモートン=イン=マーシュに足を運んだ。

参考サイト:

whyeaster?com (イースターに関する情報サイト)

Cotswolds.com(コッツウォルズ観光案内サイト)

Lovingt The Cotswolds(豆知識やローカル情報など)

British History Online(オンライン図書館)

  • バイブリー (Bibury) 

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 コッツウォルズについて書かれたものを読む際には、いつでもウィリアム・モリスの影がぼんやりと眼前に現れてくる。彼は自身が中心となった芸術運動(アーツ・アンド・クラフツ)をこの地域で花開かせようと試みたり、インスピレーションを得るためにブロードウェイ・タワーを借りてそこに住んだりもしていたが、特にこのバイブリーの村の持つ美しさに大きく心を惹かれていたようだ。

 上の写真は3つ星ホテルのスワン・インで、村ではその名から連想されるように、実際の白鳥を目にすることもできる。意図的なものだと思うが、壁に這っている蔦の感じがお洒落だ。

 ちなみに、以前存在していたもう一つの宿屋はバイブリー・コートというマナーハウスを利用して1968年に創業されたものだったが、その営業は既に終了している。

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 村の中心を緩やかに流れるのはコルン川で、その水は非常に澄んでいて美しい。

 付近にトラウトファーム(マスの養殖場)や何か野菜を育てるための棚田が設けられているのにも納得の、工業排水などによる汚染の比較的少ない環境である。

 調べたところ、ここでは年に一度、クリスマス直後のボクシング・デーに催される、とあるイベントが存在していた。それがチャリティ・ダック・レースと呼ばれるもの。名前が示すように、レースの掛け金はすべて村への寄付金となるそうだ。

 これがYoutubeに投稿されていた実際の映像である(レースという言葉からは想像できないくらいにゆっくりと、ほとんど川に流されるようにしてカモたちがこちらへと向かってくる。):

 レースは二部構成になっており、上の動画のような形式のものが行われた後には、日本でも見かけるあの黄色いおもちゃのアヒル達が網から一斉に川へと放たれる。その数はなんと2000個を超えるそうだ。いずれのレースでも、自分が応援している個体が早くゴールした場合に景品がもらえるが、過去にはオーブンで焼かれたカモ肉などが提供されたらしい。

 これに限らず、英国の村々で行われている小さなお祭りや行事には興味深いものが多い。

 これは道中で出会った野生のカモ夫婦。

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 川をまたぐ小さな橋を渡ったところには、ナショナル・トラストによって所有されているアーリントン・ロウと呼ばれる場所があり、実は2010年以降に発行された英国のパスポートにもその姿を見ることができる。かつて友人に旅券をぱらぱらと見せてもらった際には全く意識しなかった部分だ。

 ここにはかつて14世紀に建造された、主に修道士たちが羊毛を保管するために使われた家々が残っており、17世紀までにそれらは織工たちの住む小屋となった。

 通常、内部は一般に公開されていないが、今でも実際にナショナルトラストの関係者によって居住・管理されている。この建物の並びを写真に収めようと、バイブリーを訪れる観光客は後を絶たない。

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 そして付近にある、その周囲を水で囲まれた小さな島のことをラック・アイル(Rack Isle)といい、そこはかつてアーリントン・ロウで洗濯された羊毛を干すために使われていたため、そのような呼称がつけられている。

 この周辺では貴重な野生動物や植物も多く見ることができ、特に晴れた日はここがまるで一種の楽園であるかのように感じられる。私自身は観光客の多く集まるエリアが苦手だが、運とタイミングさえ良ければ比較的ゆっくりと周辺を見て回るのも可能な場所だ。

 加えて、中心から少し離れた場所にあるサクソン様式の古い教会は、英国内でグレードⅠの建築物に指定されている貴重なものでもある。

バイブリーの概要: Bibury - Cotswolds Towns & Villages 

  • カッスル・クーム (Castle Combe)

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 この村はバイブルックという川によって形成された谷の底に位置しているため、入っていく際には木々や草が周囲に茂る細い道を下る必要がある。開けた場所に出た時には、まるでひっそりと隠された集落を見つけた時のような不思議な感覚をおぼえたものだった。この起伏のある地形こそが、村の景色をさらに興味深いものにしているのかもしれない……と写真を見返して思う。

 周囲に散見される観光客やその車が無ければ、4~500年ほど前のイングランドの村にいま自分たちが立っているのだと言われてもうっかり信じてしまいそうになるくらいだ。

 上記のバイブリーと同じく、ここも著名な映画やTVドラマのロケ地として使用されたことが多々あり、代表的なものには "スターダスト" や "戦火の馬" がある。どこをとっても絵になる場所が多く、私自身も川沿いに村をしばらく歩いてみたが、スクリーンの中にその景色を組み込みたいと考える監督の意向が理解できるような気がした。

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 今、私たちが見ているような村の状態が造られたのは、羊毛やそれを用いた製品の交易の活発化に伴う14世紀頃だと言われている。さらにカッスル・クームという名前は12世紀ごろ、イングランドで内乱が激しく行われていたブロワ朝、無政府時代にこの近郊に建てられたにちなんでつけられたものらしい。道路の交差する地点にはかつて開かれていた市の名残として、マーケット・クロス(バタークロスとも)が古井戸とともに残されている。

 現在でも月に2度ほどマーケットが開かれ、野菜や酪農品、ジャム、または手工芸品などが出品されるようだ。ちなみに中心部から少し離れた場所にはマナーハウスを改装した5つ星ホテルも存在している。川沿いの大通りからは、そこへ続く道へと至る門を見ることができるだけだが……。

 バイブルック川の流れの速さを生かし、稼働させられていた "Fulling Mill"(布地の目を細かくする機械のこと)の数々が、中世にカッスル・クームの布・毛織物産業を発展させるのに一役買っていた。経験のある織工の尽力に加えて川がそれらに与えた影響は大きく、16世紀にその流れが緩やかになった際には布の生産量が減り、製造の拠点は付近の地域へ移動することを余儀なくされたのだ。

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 村の隅にそっと佇むセント・アンドリュー教会は、13世紀から15世紀に至るまでの長い時間をかけて建造された。

 なかでも地元の鍛冶屋によってかつて作られたという内部の時計は、英国内で現在も稼働しているものの中では最も古いといわれている。私が訪れた際にはその部分が工事中であり、実際に時計の姿を見ることはできなかったのだが、静まり返った建物の内部で耳を澄ますと確かに時の刻まれる音が聞こえてきた。

 他のコッツウォルズの教会と同じく、ここにある塔も羊毛によって財を成した商人の尽力によって作られたものだ。

 また教会内に設置されている墳墓は1270年に命を落としたとされる男爵が弔われているもので、上にあしらわれた彼の彫像が足を交差したポーズをとっているのは、彼が二つの聖戦へと赴き戦ったことを示唆しているらしい。

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 到着したのはお昼時だったから、目に付いたパブに入ってチップスをつまんだ。

 暖炉には火が燃えていたが、もう3月の上旬であるにもかかわらず風が冷たく、肌寒いと感じる日だったので、ちょうど良かったといえる。木の椅子や机のある空間というのは実によいもの。この休暇中に旅行できた喜びを感じた。このパブには中庭とテラス席があるため、夏などは外でゆっくり時間を過ごすのも悪くないと思う。

 余談だが、村のはずれにはローマンブリッジと呼ばれている橋があり、これは正式名称ではないのだが、地元でひそかに語り継がれている幽霊譚がその俗称の由来となっているのだという。

カッスル・クームの概要: Castle Combe - Cotswolds Towns & Villages

 

  • テットベリー (Tetbury)

 グロスターシャーの南東端に位置するここは、村というよりも町と呼べる程度の規模だった。おそらくはサクソン人によってその基礎が築かれたと考えられており、残っている記録の中で最も古いものは7世紀まで遡ることができる。

 そして、オックスフォードとブリストルを結ぶ道の途中にあるという立地のおかげか、テットベリーはその周囲に4つほどあった小さな村を含め、11世紀には地域の農業を総括するような立ち位置へと発展した。その後19世紀に羊毛の交易が緩やかに衰退してからも、今に至るまで街はその大きさをとどめている。

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マーケット・ハウス

 車で最初に通りすぎた際、真っ先に関心を抱いたのがマーケット・ハウスである。1655年に建造されたこれは歴史的な価値もさることながら、まず外観がとても素敵だ。今のマーケット・ハウスがいつごろからこのような状態であるのかは不明だが、薄黄色の壁と時計、並ぶ窓の配置、そのどれもが非常にかわいらしく感じられた。

 私が訪れた日には、ちょうどそこで羊の皮が取引されていたのを思い出す。

 この角度からは見えないが、建物の下半分を構成する空間には古い柱が立ち並び、何世紀もの間この街の推移を見守ってきたことを示している。

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 少し歩を進めた場所にあるセント・メアリー教会は、18世紀に現在のものが造られたが、それより1000年以上前には、すでにキリスト教徒のための施設が同じ位置に存在していたらしい。

 真っ直ぐに空へと延びる優雅な塔はサクソンの教会を元にして建てられ、英国の中でも初期のジョージアン・ゴシック様式の教会の良い例となっており、時代を経るごとに多くの損傷や修復を経験している。

 例えば17世紀後半に教会が竜巻により半壊した際、議会は尖塔のみを保存することを命じ、残りの部分は半ば放置されたような形になっていた。そして前述したように、18世紀にようやく今の教会が改めて造られ、続く19世紀末にはもとの材料をできるだけ再利用したうえで塔の建て直しが行われたのだ。

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 さて、この街では17世紀頃に生まれたとされる、ウールサック・レースという催しが年に一度に行われている。

 はじめは街を訪れる若い商人たちが持っている筋力を女性たちに自慢するため、羊毛袋を運びながら丘を駆け上るようなことをしていたらしく、それが形を変えて男女ともに参加するお祭りとなった。公式に開催されるようになってから30年ほどが経つという。当日は多くの屋台がマーケット・ハウスを中心とした街中に立ち並び、レースの観戦ついでに食べ物や地元の生産品を楽しめるイベントとなる。

 ちなみに、お祭の期間中に自社の広告バナーを街に掲示したいという企業などは£50を支払うことでスポンサーの一部となり、その宣伝ができる。選手の身に着けるゼッケンに社名やロゴなどを表示させる場合は£150が必要だ。

テットベリーの概要: Tetbury - Cotswolds Towns & Villages

  • シップトン・モイン (Shipton Moyne)

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 今回の旅行の間に寝泊まりをしていたのは、テットベリーとマルムズベリーのちょうど中間あたりに位置する、シップトン・モインという村にある部屋。予約前にAirbnbで写真を見た際は、天井の梁や置いてある机の感じに特に惹かれた。また、オーナーがその横で牧場経営をしているということもあり、いくつかの動物の姿にも興味をそそられていた。

 現地では実際に子羊のほか、といった居住空間で飼われる動物たちとも触れ合うことができ非常に満足している。あとで、部屋の暖炉で火を燃やすための薪も貰うことができた。

 下の写真の壁に空いた、専用の出入り口からのぞく尻尾が見えるだろうか?

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 これはこの家で飼われていたで、やはり警戒心が強いのか、こちらから声をかけるたびに奥のほうへ入っていってしまった。驚かせて申し訳ないと思う。の方はかなり人懐こく、こちらから近付いても吠えたり噛んだりするようなことは全く無かった。毛が長くふわふわしていて撫で心地が良い。

 村名の Shipton という語は Sheep から派生したといわれており、11世紀頃のこの地区における羊の重要性をうかがわせる。また Moyne はかつて土地を領有していた一族の名前であるそうだ。規模は大きくないものの、南部コッツウォルズやその周辺を観光する旅行者に向けてか自炊するタイプの宿泊施設が複数見られ、パブも存在している。

 ちなみにこの村を横切る "The Fosse Way" という道はローマ時代から今に至るまで使われているもので、イングランドの南西エクセターから北東のリンカーンまで、さほど大きく曲がることなく真っ直ぐと伸びている。

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パブ

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 イースターの象徴である動物のうち、ウサギこそ見られなかったものの、泊まっていた部屋の窓からは生まれたばかりの子羊2匹を観察することができた。

 おもしろいのは、草地を駆け回るときにこの2匹が離れることはほとんどなく、寝る時も常に互いの側に身を置いていたことだ。おそらくは双子なのだと感じたがどうだろう。まだ体躯が小さいのにもかかわらず脚力が強く、飛び跳ねたり体当たりをしたり、楽しそうに動いていた。

 牧場主の話では彼らの成長は実に早いらしく、それを聞きながら、子羊たちもこの季節が過ぎるころには今よりもっと貫禄のある姿へ変化していくのだろう……と思いを馳せた。

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 旅行期間中はひたすらに「春」の片鱗を感じていた。

 私はこの季節や言葉自体にどこか苦手意識を持っているようだ。理由は知る由もないが、おそらくはそこから連想される浮足立った出来事や感情、または単に花粉アレルギーのせいなのかもしれない(英国でも、日本のスギほどではないとはいえ芝花粉などの猛威は確実に存在している。くしゃみが止まらない)。

 しかしながら、この時期になると咲き始める花々にはいつも魅了されていて、そのためだけに外へと足を運ぶことも多い。特に散歩をしていたとき偶然見つけた、ハムステッド・ヒースの片隅に生息しているブルーベルが視覚へと訴えてくるさまは、非常に心地良いものだった。ロンドンに来たら一度は散歩してみて欲しい。